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映画感想文「福田村事件」〜元ネトウヨのノンポリが日本の闇と向き合う〜

前回「ミュージアム」を観てからかなりの時間が経ってしまった。

しばらく体調不良や仕事の関係で映画を観れずにいたが、久しぶりに映画館で映画鑑賞。

福田村事件

TCGグループの年間会員の時期がラスト月だったのでギリギリ間に合ったテアトル新宿にて鑑賞。

この映画が上映されたのは2023年9月1日。

100年前のこの日にいわゆる関東大震災が発生した。

お昼時に起きた地震ということ、当時の日本が木造建築が主だったことが重なり大火災を引き起こして多数の死傷者が出た。

これは日本人が学校の授業で習う一部の真実。

その裏で起きていた壮絶な事件を元に作られたのが本作。

本作の少し前に日本が統治下に置いていた朝鮮では独立を求めるデモ活動が起きていた。

そのデモに対して日本政府は軍や警察を使って徹底的に弾圧した。

その影響で、日本人の中に「いつか朝鮮人に報復されるのではないか」という恐怖心が蔓延していた。

そんな時代に関東地方を巨大な地震が襲い、朝鮮で教師をしていて、過去に独立運動のデモ隊弾圧に関わってしまったことで失望して村に帰ってきた夫婦やたまたま薬売りで福田村に来ていた行商を巻き込んで事件になってしまう。

ちなみにタイトルにもあるようにわたしは元ネトウヨであり、今はネトウヨにもパヨクにも失望してノンポリになっているのだが、やはりネトウヨのことを知っている身としては本作の批評をするのは勇気がいる。

だがこの映画は書かずにはいられなかった。

それに本作では朝鮮人虐殺と同じく政府やマスコミが徹底的に隠匿している被差別部落の問題も余すことなく描いている。

上記した行商が被差別部落の人間達で、そんな彼らの中にも朝鮮人を差別する者や社会主義にシンパシーを持つ者までいろいろな人間模様がある。

劇中何度も使われるセリフで「私は/この人は朝鮮人じゃない!(だから殺すなという意味)」というのがある。

一見するとこれは対象者に被害がいかないようにしている言葉だが、裏を返せば「じゃあ朝鮮人は殺してもいいのか」ということになる。
(これは物語後半で永山瑛太さん演じる行商も問いかけている)

当時いろいろな思想の人はいたが、深層心理で在日コリアンやチャイニーズを差別する気持ちが全体にあったような気がする。

そしてこうした在日コリアンや被差別部落への差別や偏見は100年前の出来事で済まされず、今でも色濃く残っている。

悲惨な殺人事件が起きるとネットには「こういう犯罪をするのは在日に違いない」「部落の奴らがやったのでは」と根拠もないデマが書き込まれ、多くのいいねをもらっている。

ひとつひとつの声は少ないかもしれないが、それが空気になって全体に蔓延すると、不安と恐怖を増長させて大きな惨劇につながる。

時に権力もそれに便乗してマスコミは権力に迎合してさらに大衆を煽っていく。

こうした、社会に壊滅的な惨事が発生した直後、人々がショック状態に陥り,茫然自失のまま抵抗力を喪っているときにそのような衝撃的出来事を好機と捉え、巧妙に利用する政策手法を「ショックドクトリン」という。

1920年代から「ドイツの不況はユダヤ人が裏切ったからだ。ユダヤ人こそ諸悪の根源だ」と煽り、時に不安を抱かせて大衆をコントロールしたナチスドイツ。

セプテンバーイレブンの混乱に乗じて戦争に関する法案を立て続けに押し通して戦争に向かわせた2003年アメリカ・ブッシュ政権。

社会の混乱は権力者に都合がよく、割りを食うのは多くの国民であり、さらに社会的に低い身分の人達なのだ。

本作に出てくる、行商や在日コリアンを虐殺する在郷軍人や村人はきっと普段は気のいい田舎の人達なのだろう。

だが、社会的不安感や閉塞感と村社会独特の風潮や空気感が人を簡単に変えてしまう。

もしいつかくるといわれている首都直下型地震などが発生した際に同じような悲劇が起こる可能性は十二分にある。

わたしの昔の恋人や先輩、同級生には在日コリアンが多数いる。

その時にたとえ自分の立場が危うくなっても彼ら彼女らが非難された時に助けることができるのかと突きつけられている気もした。


監督の森達也さんは「A」「A2」「FAKE」とオウム真理教から佐村河内氏まで幅広いドキュメンタリーを撮るジャーナリズム精神に溢れる監督で、劇映画は初との事だがやはり社会派作品は彼の得意とするところと見受けられていい映画になった。

制作陣には荒井晴彦監督や井上淳一監督も。

彼らは若松孝二監督のお弟子さんで、数々の社会派映画を撮り、時に物議を醸したこともある。

最近だと安倍元総理暗殺事件を描いた「Revolution+1」にも関わった人達だ。

彼らの色もよく出ていた。

出演陣も若松孝二監督時代からよく出ていてわたしも敬愛する井浦新さんや「葛城事件」で社会派の演技も光っていた田中麗奈さん、最近荒井監督作品によく出る東出昌大さん、永山瑛太さん、豊原功補さん、水道橋博士さん、柄本明さん、コムアイさん、木竜麻生さん、向里祐香さん、カトウシンスケさんとこれでもかと名俳優が出てくる。

最近流行りのイケメンや美女ってだけで売り出されている役者ではなく、役に魂込めて演じることができる人達がこんなに集まるのはやはり製作陣の想いの強さに彼らが応えようとしてくれたからだと思う。

日本は長い歴史があって、その中には世界に誇れる文化や芸術が生まれたこともある。

だが同時に福田村事件のような負の歴史もある。

イギリス人があれだけ自分たちの負の歴史を描いた「RRR」を絶賛したように、日本人もこの映画を受け止める責務があると思う。

本作上映後、案の定ネットには「関東大震災の朝鮮人虐殺は嘘だ」「こいつらは在日じゃないのか?」といった発言が目に付いた。

結局日本人は100年前から変わっていない。

しかし、あの時とは違うこともたくさんある。

若い人達は日韓の問題を乗り越えてお互いの文化を楽しみ、交流し、未来志向で進んでいる。

わたしも韓国映画や韓国の音楽、韓国料理、韓国野球などに親しみがあるし、韓国は今行きたい国トップのひとつ。

権力やマスコミ、一部のネトウヨの声に惑わされず、負の歴史も理解した上で未来に向かって進む必要があると感じたし、それはできると思う。

本作は本当に学ぶことが多いので、まだ観ていない人はぜひ観てほしい。

Filmarksの評価はこちら。
(内容ほとんど同じですが…)

また他にも鑑賞作品のレビューを書いていきたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。

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