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1601 『文明の衝突』

◇1601 『文明の衝突』 >サミュエル・ハンチントン/集英社(2017.09.21)

ずっと積読になっていて、なかなか手を出せなかった書籍に挑戦。イスラム国の台頭などを予言していると絶賛する人もいる反面、出口治明さんなど歴史に詳しい方が本書の論調に否定的だったと記憶している。出口ファンの私としては、ネガティブな先入観を持って読み始めてしまったかもしれない。

一番印象的だったのは、中国が有史以来のほとんどの時期を通じて世界最大の経済大国であったという記述。確かにそのとおりであり、中国五千年の歴史からすれば、アヘン戦争以降のたかだか200年弱の低迷など些細な出来事なのかもしれない。その中国が急成長して巻き返しに出ていることは周知の事実である。

また、「引き裂かれた国家」と題して、2つの異なる文明のはざまに立つ大国として描かれていたのがロシア、トルコ、メキシコという、現在も注目されている3国だったのも興味深かった。ロシアは欧化主義とスラブ主義、トルコは中東の一部であるとともに西欧の窓口であり、メキシコは南米と北米のはざまに立たされている。

500ページに渡る大著をなんとか読み終えたのだが、本書のキモは序章の下記の文書に集約されていると感じた。この部分だけを抜粋しておきたい。

・歴史上初めて国際政治が多極化し、かつ多文明化している。近代化というのは西洋化することではなく、近代化によって何か意味のある普遍的な文明が生み出されるわけではないし、非西欧社会が西欧化するわけでもない。

・文明間の勢力の均衡は変化している。相対的な影響力という意味では、西欧は衰えつつある。アジア文明は経済的、軍事的、政治的な力を拡大しつつある。イスラム圏で人口が爆発的に増えた結果、イスラム諸国とその近隣諸国は不安定になっている。そして、非西欧文明は全般的に自分たちの文化の価値を再確認しつつある。

・文明に根ざした世界秩序が生まれはじめている。類似した文化をもつ社会がたがいに協力しあう。社会をある文明から別の文明に移行させようとする努力は成功しない。そして、国々は自分たちの文明の主役、つまり中核となる政府を中心にまとまっていく。

・西欧は普遍主義的な主張のため、しだいに他の文明と衝突するようになり、とくにイスラム諸国や中国との衝突はきわめて深刻である。地域レベルでは、文明の断層線(フォルト・ライン)における紛争は、主としてイスラム系と非イスラム系とのあいだで「類似する国々の結果」をもたらし、それがより広い範囲でエスカレートする恐れもあるし、それゆえにこうした戦争を食いとめようとして、中核をなす政府が苦心することになるだろう。

・西欧が生き残れるかどうかは、自分たちの西欧的アイデンティティを再確認しているアメリカ人や西欧人が、自分たちの文明は特異であり、普遍的なものではないということを認め、非西欧社会からの挑戦にそなえ、結束して、みずからの文明を再建して維持していけるかどうかにかかっている。また、異文明間の世界戦争を避けられるかどうかは、世界の指導者が世界政治の多文明性を理解し、力をあわせてそれを維持しようと努力するかどうかにかかっている。





【目次】

第一部 さまざまな文明からなる世界
 第一章 世界政治の新時代
 第二章 歴史上の文明と今日の文明
 第三章 普遍的な文明? 近代化と西欧化

第二部 文明間のバランスのシフト
 第四章 西欧の落日:力、文化、地域主義
 第五章 経済、人口動態、そして挑戦する文明圏

第三部 文明の秩序の出現
 第六章 文化による世界政治の構造変化
 第七章 中核国家と同心円と文明の秩序

第四部 文明の衝突
 第八章 西欧とその他の国々:異文化間の問題点
 第九章 諸文明のグローバル・ポリティックス
 第十章 転機となる戦争から断層線(フォルト・ライン)の戦争まで
 第十一章 フォルト・ライン戦争の原動力

第五部 文明の未来
 第十二章 西欧とさまざまな文明と単数形の文明


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