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芸能人は歯が命!

「あ!ちょっと待って!他の子も、歯を見せて!」

オーディションへ行くと、私の歯並びを見て、慌てて他のモデルの歯並びを確認する関係者。
この言葉を聞くたびに、私の胸はズキンと痛んだ。と同時に『また今回も、歯並びのせいでオーディション落ちたな。』と、肩を落として家へ帰った。

自分の歯並びが気になったのは、小学三年生の頃。
母の嫁入り道具である三面鏡を開き、覗いてみる。いつもの私だ。少し顔を鏡に近づけて左右の鏡を少し閉じると、自分の横顔が見えた。

歯が出てる。。。

私は、自分が出っ歯であると気づいてしまった。
それからというもの、笑うときは手で口を隠すようになった。
16歳でモデルの仕事を始めてからは、他人からも口元を指摘されるようになった。
オーディションで私の歯を見て、慌てて他のモデルの歯並びを確認されるなどしょっちゅうだった。

しかし歯並びなど、大人になってから治せるものではない。そんな時代だった約20年前、モデルはほとんどが差し歯にしていた。まだ20代にもかかわらず、「もう16本も差し歯やねん」なんてザラにいた。

私も早く差し歯にしたい!
綺麗な歯並びになりたい!

母に伝えると、答えはいつも同じ。
「虫歯のない綺麗な歯を、何で差し歯にする必要があるの!」
正論に返す言葉はなく、前歯が虫歯になることを祈る毎日だった。

大学四回生の時、雑誌の仕事でスタジオへ行った。二歳年上のモデルと一緒だったが、なんと歯の矯正をしていた。

「大人でも歯の矯正ができるんですか?」
「そやで。しかも透明な器具もあるし、裏側からの治療もできるんやで。」

口の中を見せてもらうと、上の歯は裏側に銀色の装置が、下の歯は表側に透明な装置が付いていた。

「私にも紹介してください!」

私はすぐにその矯正歯科へ出向いた。
レントゲンを撮って見てもらうと、理想とされる歯の位置から、9 ミリも飛び出ていた。

私は迷った。
差し歯なら、今すぐ綺麗になれる。
そのかわり健康な歯を傷つけなくてはならない。
矯正なら、二年。
時間はかかるが、自分の歯のままキレイになれる。
今すぐ綺麗にしたかった私は悩んだが、後者を選ぶことにした。
今から『二年』と思うと長く感じるが、過ぎた二年なんてあっという間。きっと矯正も、終わってしまえば『あっという間』になるはずだ!

私は矯正中もモデルの仕事をしたかったので、上下とも裏側からの治療にした。
金額は、120万円。両親が半分以上出してくれたが、私は人生初となるローンを組んだ。

初めて装置をつけたとき、一番最初に感じたことは、「せまっ!」だった。小さく見える装置だが、口の中に入れるとかなりデカイ。
装着してから数時間で、歯が痛み出した。動き始めたのだ。
なんという痛みか。頭まで痛い。転げまわるほどではないが、イライラする。初めて経験する痛みだった。
こんなに痛くては、とてもじゃないが固形物など食べられない。スープならいけるかもと味噌汁を飲んでみたら、金属の味がした。

最初の一週間は、あまりの苦痛で体重が激減。苦痛の矯正生活が始まった。
唯一の救いは、歯が内側に押されている感覚だった。『そうそう、そっちそっち!その方向に動いてね。』と応援したくなるほど、歯が内側に引っ張られるのがわかった。

しかし人間というものは、なんとたくましい生き物か。スタートはあれだけ難儀したが、あっという間に装置に慣れ、食欲は大いに回復。バリバリと氷を噛んでしまうほどに、装置は体の一部となった。

最初の一年で、歯はグイグイと動いた。どんどん綺麗になっていくのがわかる。コンプレックスだった出っ歯は、半年ほどで綺麗になっていた。
こんなに早く綺麗になれるなんて。
あの時、差し歯を選ばなくて良かった!
通院は面倒だし、装置の針金で舌が切れることも多々あったが、この劇的な成果は頑張れる原動力になった。

次の一年は、より綺麗な歯並びにするための微調整期間。矯正していることを忘れるくらいに、痛みも違和感もなかった。

あっという間に月日は流れ、治療が終了。
さぁ。いよいよ今日は、装置を外す日だ。
歯科助手さんが、一つずつ丁寧に外していく。
あぁ。ありがとう。君たちのおかげで、私にシアワセが訪れたよ。
早く外したいと思い続けてきた矯正装置だったが、ちょっぴり淋しい気持ちになった。

「はいっ!装置は綺麗に取れました!これで終了です!」
鏡を手渡されると、見とれるほどに美しい歯並びの私がいた。
そして、口の中が広〜い!

お金は高かったけど、
歯は痛かったけど、
時間はかかったけど、
歯の矯正をして、本当に良かった!

歯の矯正によって、私の人生は大きく変わった。
大口を開けて笑えるようになった。
横顔に自信が持てるようになった。
コンプレックスを克服するって、こんなに幸せなことなんだ!

そして矯正を頑張った私に、神様から何より嬉しいプレゼントが。
なんと歯磨き粉の CM が決まったのだ!
小林製薬さんの『生葉』のCM。

「歯並びが一番綺麗だったので、六車さんに決まりました。」
と合格理由を聞いたときは、飛び上がるほど嬉しかった。

その後もオーディションに合格して歯磨き粉『アクアフレッシュ』のCMにも起用されたが、理由は同じく『歯並びが一番綺麗だったので』であった。

私の劇的な変化を見て、事務所のマネージャーたちは、モデルに差し歯ではなく矯正を勧めるようになった。
そして20年後の現在。今や一般の人も、歯の矯正をする時代になった。
歯並びは見た目の美しさだけではない。健康面から見ても、非常に大切なことなのだ。

歯の矯正をしている人に出会うと、私は必ず声をかける。
「矯正をして大正解!今は辛いと思うけど頑張って!顔も人生も、大きく変わるよー!」


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