DIDな私のあれこれ日誌。~ばーちゃんと指輪と

ばーちゃんのお見舞に行ってきた。

そもそも"じーちゃんばーちゃんち"は、母方の一番上の叔父さん一家と二世帯住宅で。
隣の敷地には、二番目の叔父さん一家が住んでて、その隣には、母のいとこ一家が住んでる。
反対側の敷地には、じーちゃんが起ち上げた会社の小さな工場がある。

母方は仲がとても良い。

ちなみに父方は地獄状態。
それ故、父ごと縁を切ってきた。

*

"じーちゃんばーちゃんち"に近づくにつれ、自然とアオイくんに交代した。
もともと混じってはいたのだけど、それがアオイくんが表に出る形になった。

懐かしい記憶がぽとぽとと、あちこちに落ちてた。
その記憶たちはアオイくんが持ってるものだ。
故の交代だったのだと思う。

家に着くなり私の二番目の従姉妹に会った。
彼女は結婚して家も出ているのだけど、今は一番目の叔父が営む工場で働いている。

何年ぶりかの再会で、手を洗う間もなくハグをされた。

アオイくんが。

彼女は私のDIDを知らない。
おろおろするアオイくん。
「や、手を洗ってないので、、、」
とかなんとか。

従姉妹には、私が嫌がっていると勘違いをさせてしまったようだった。

ひとまず母と二人、二階の"じーちゃんばーちゃんち"に行って、途中買ってきたお弁当を食べた。
しばらくアオイくんは、母を相手に色々と話をしていたようだ。

私はよく覚えてないのだけど、たしか、「与一って頭おかしいから自分の事"じぇんとるめん"とか言うんスよ」って話してたのだけ覚えてる。

そのうち私に交代して、急になんだか「ああここは、おじーちゃんとおばーちゃんちだ」って想ってしまって。

そうこうするうち、従姉妹のお昼休みが終わると母が言うので、私で挨拶したいと思い、階下へ降りた。

従姉妹を呼びながらハグをしたら、眼を白黒させていた。
それで、「あのね、実は、」と、DIDのことを話した。
さっきのは私じゃないんだ、と。

従姉妹はとても賢く聡い人だ。
あとで調べてみる、と、DIDについてはよくわからなくても「それで自分はどうしたらいい?」と聞く。
DIDがどんなものであれ、どう対処したらよいのか、自分にできることはあるのかを真っ先に聞いてくれる。

私は、どう説明したら伝わるかばかりを考えていたから、どうして欲しいかまで考えが及んでいなかった。
とりあえず、私の問題は私の問題なのでどうもしなくて良いことを伝えた。
ただ知っていて欲しかったと。

*

改めて考えてみた。
私はどうして欲しかったのだろう。

私は他の人格さんたちとうまくやっていきたいと思っている。
そのためには、ある程度、私の振りをしなくても良い環境を作りたかったのだと気づいた。

前回の診察で、主治医が与一さんに気づいた時、彼は少なからずほっとしていたようだった。
彼ら彼女らにとって、私の振りをすると言うことは自分の存在を否定していることに繋がってしまっているのではないかと思った。

それはきっと、抑圧を生む。
できることなら避けたい。

たとえば、
与一さんである時、
「でもあなたも(私)ちゃんでしょ?」
と言われたら、たぶん与一さんは傷付く。
少なくともいい気はしないだろうと思う。
これは文字通り、人格の否定だ。

与一さんは与一さんだ。
他の誰でもない。
私はそう思う。

そうでないなら、私だって私じゃない。
主人格ではあるけど、基本人格ではないから。

だからせめて、私と彼ら彼女らは各々違う存在である、と言う辺りまではわかって欲しいなと思う。
ただの私の望みであってどこまで理解して貰えるかはわからないけど、。

*

一番目の叔父さんが言ってた。
じーちゃんも「自分が自分でなくなる時がある。コントロールが出来ない」そんなことを言っていたそうだ。

私は、じーちゃんは双極性障害だったのだと思ってたけど、よく考えたらあの人には鬱がなかった。
そう言われてみると、DIDだった、そう考えた方がしっくりくる。

DIDが遺伝する話しなんて聞いたことがないけど、どうなのだろう。
ただ、私はじーちゃんに似たところがある。

*

一番目の叔父さんが、ばーちゃんの病院まで車を出してくれることになった。

道中、シオンが五月蝿い。
彼はこの親族関係が「ムカつく」そうだ。
罵詈雑言。
言葉として聴きたくなかったので聴こえないことにした。
そうすると、「何かを喚いている」と言う感覚だけが私に伝わってくる。
それすら煩わしかった。
頭痛がした。

彼は私が傷付くことを嫌う。
過保護が行きすぎての「ムカつく」なのだと思う。
少なからず私は従姉妹たちにコンプレックスがあるし、叔父叔母の愛情ある家庭に対しての想いは複雑だ。
シオンにとってはそれが腹ただしいのだろうと思う。

車内では結局私はほぼだんまりだった。

そのうち、誰が出るかで話し合いになった。
シオンがあまりに騒がしく出たがるので、それをアオイくんと与一さん辺りがどうするのかと話してた。
「私」が誰だかわからない。

「え、俺?や、いいけど、、俺?」
ひとまず、と、与一さんに代わった。
シオンが黙った。

「けど俺、ばーちゃんのこと知らないからなぁ。。」

だよねぇ。。

記憶としては、与一さんも知ってるのだけど、与一さんはばーちゃんに会ったこともない。

「もういいよ!私がやるよ!!」
結局、私が出ることになった。
本当はすごく怖かった。
だからか、るうなが少し混ざってくれてた。
彼女は前向きで明るいし少しだけおバカなので余計なことを考えずに済む。

*

面会は、一人ずつとのことだった。
私は母のあとに、ばーちゃんに会いに行った。
今ならちょうど意識あるから、そう言われた。

ばーちゃんは、首から喉にチューブを差し込まれ、苦しそうに必死に呼吸を繰り返してた。

「おばーちゃん、(私)だよ、わかる?」

ばーちゃんは、気が付いてくれたようだった。
身動ぎして、少しだけ、ほんの少しだけ笑った。
声をかけ続けると、指を少しだけ動かして、何かを伝えたがっているようだった。

私は先日母経由で貰った、"おばーちゃんの指輪"を見せながら、大事にするからね、と、ありがとね、と伝え続けた。

ふと見ると、じーちゃんがいた。
ベルベット調の鈍い朱色のスーツに藍色か何かのネクタイ、白いシャツ。
どこのパーティーに行くのだい、と突っ込みたくなるような出で立ちで嬉しそうに笑っていた。

ばーちゃんはしきりにそちらの方へ、目だけを向ける。
もしかしたら、ばーちゃんにも見えていたのかもしれない。

十分程度の面会時間。
看護師さんが終わりを告げに来た。
ばーちゃんはまだ意識があった。
意識があるばーちゃんを残して去るのはなんだか申し訳なかった。

「また来るからね」

私は嘘を吐いて別れた。
面会は、明日が最後だと病院側に言われた。
明日は一番目の叔母と二番目の叔母、ふたりのお見舞。
それで、最後。

*

次に会えるのは、棺の中なのか。
コロナの影響で、もしかしたらそれすら叶わないかもしれないと言われた。
孫は不参加、そう言うことだろう。

*

今日くらいはお酒買って帰ればよかったなと思った。

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