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春、目の前の誠実にぶら下がって

きみの大丈夫が一番だ、と彼は言った。一番だったと思う。でもそろそろ、効力は切れてしまったでしょう。彼が残した、無理しなくてもいいよなんて言葉の効力も、もうとっくに切れてしまっている。


その一番が、きっとわたしの存在価値だったのだ。必死で自分のものにしようとしたスキルで構成されたものが存在価値ではない、と気付いていたからこそ。

唯一無二として分かりやすいものだっただけだ。それをわたしは愛と信じていた。本物だったかもしれないし、錯覚だったかもしれない。でももう、魔法は切れてしまったらしい。

ずいぶん、変わってしまった。わがままを言うようになった。嫌なものは嫌だと言った。好きだった、と言った。感情をごまかすことをやめた。不特定の誰かのために生きるのをやめた。

現状維持は停滞。でも、変わりたくない。

なんて矛盾がずっとわたしの中にいた。去年まで、ずっと。変わればいいと思う。変わることは、気持ちいい。習慣も、好きも、変わりゆく。更新しつづける。原点を忘れなければ大丈夫、経過は最高に楽しい。

でもずっと思ってるよ。肯定し続けるということは、振り回されるかもしれないという覚悟を持って生きるということ。だからこそ芯はちゃんと自分の手で掴んで、離してはいけない。


来年はもっと素敵で来るからと、一年前に約束した。上を向いたわたしと目が合ったから、認めてくれているに違いない。手を伸ばしても、空には届かないなんて思っていたけれど。届くんだろうな、と思う。目の前の誠実につかまれば、なんだって届くのだ。


読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。