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IT技術は私たち技術屋の働き方に何をもたらしてきたか

コンピューターなどIT技術が進歩して仕事の仕方も大きく変わってきました。石油開発業界も同じです。

IT技術が進歩して私たち技術屋の仕事が減ったかというと、今のところまったくそのようなことはありません。できることが増えたことで、石油開発におけるステークホルダーからの技術的な期待や要請も増えて、かえってデッドライン (締め切り) の短い仕事が非常に増えました。

昔と同じ仕事量と質が求められるのであれば、IT技術の進歩によって、技術者の時間的余裕も生まれ、人員削減も可能かもしれませんが、実際には仕事の量も求められる質も変化してきているため、技術屋一人当たりの仕事量は増えている場合が多いようです。

特にIT技術を使いこなせるスキルのある人、知識や経験の幅が広くいろいろな業務に対応できる人にはより仕事が集中する傾向があります。

一般論ではありますが、これは組織としては非常に危険な兆候だと思います。

仕事が特定の人に集中させざるを得ない状況というのは、まだまだ業務がIT技術による無人化・自動化・誰でも化 (可) に対応しきれていないということですから、仕事の集中する特定の人が病気・怪我・転職などで仕事ができなくなると、一気に組織の技術力・業務遂行能力が低下してしまうことになります。

仕事が集中する人は自分の仕事の意義も意味も良く分かっている人が多いので、無理をせざるを得ません。日々の業務に追われ、本来は自分の負担を減らしてくれるはずの後継者を育てる時間も取れないことが多いはずです。

南国では人手不足と聞けば、ある日突然上層部からの指示で経験やスキルの足りない若い技術者が一気に採用され、配属されてくることがあります。経験ある技術者には特に人事や上司からこれらの若手技術者を育てるように指示が来ます。

一般に、これらの若い技術者を本当に現場で役に立つ技術者に育てようと思えば、現在仕事を多く抱えているような知識と経験のある技術者がOJTで育てるのが一番なのですが、時間的な無理が生じてしまいます。

若い技術者を多く採用して、仕事を分担できるような技術者に育て、現在特定の人に負わせている負荷を軽減しようと思えば、一時的に会社の経営・運営方針として仕事量を減らすか、一時的に高い費用をかけても経験のある技術者を外部から採用して、その間に若手技術者を育てるなど、一時的な収益減・コスト増を経営陣が覚悟して認める必要があります。どちらも現実問題として非常に難しいところはあると思いますが。

重要なのは中長期的な人材育成・人材配置戦略。技術者が現状を同僚・上司・経営陣などと忌憚なくシェアできる心理的安全性 (psychological safety) の確保。技術者各人が規定時間内でこなせる業務量で経営が維持できるようなビジネスモデルの確立。技術者教育のための時間とコスト配分など。

まだまだ考えるべきことが沢山あるはずです。こうやって見てくると企業内で技術者を育てるのは技術者だけの仕事ではないということが良くわかります。

以前以下の記事で、「テレビ番組制作会社のリアリティ:つくり手たちの声と放送の現在」(大月書店) という本を読んで番組制作会社の現状について書きました。

IT技術が進歩する中で、石油業界の技術者だけではなくいろいろな業界・分野において、仕事のあり方、人材の育成と確保、仕事の質の確保について共通する課題があるような気がします。

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