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ウィトゲンシュタインが考える「世界」は広げられるか【PhilosophiArt】

こんにちは。成瀬 凌圓です。
今月は、20世紀の哲学者ウィトゲンシュタインが書いた『論理哲学論考』(以下、『論考』)を読みながら、哲学とアートのつながりを探しています(全8回)。
第4回は、「論理」について考えていきます。
前回まで(第1回〜第3回)の記事はこちらから読むことができます。


語彙力がある人の「世界」は広いかもしれない

前回は、思考を知覚できるようにする手段である「命題」の意味を深掘りし、その説明によく登場する「ナンセンス」という言葉についても考えました。

命題によって表現できる、ということは、論理的な説明ができることを表しています。
『論考』の序文には、このようなことが書かれています。

思考に限界を引くにはわれわれはその限界の両側を思考できねばならない(それゆえ思考不可能なことを思考できるのでなければならない)からである。
したがって限界は言語においてのみ引かれうる。そして限界の向こう側はナンセンスなのである。

ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」〔電子書籍版〕(野矢茂樹 訳、岩波文庫、2017年)より

命題で何が表現できるのか。ウィトゲンシュタインはその限界を『論考』で示そうとしました。

世界の限界について、ウィトゲンシュタインは次のように述べています。

5.6 “私の言語の限界”が私の世界の限界を意味する。
5.61 論理は世界を満たす。世界の限界は論理の限界でもある。
それゆえわれわれは、論理の内側にいて、「世界にはこれらは存在するが、あれは存在しない」と語ることはできない。
(中略)
思考しえぬことをわれわれは思考することはできない。それゆえ、思考しえぬことをわれわれは“語る”こともできない。(“”内の文字は傍点)

ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」〔電子書籍版〕(野矢茂樹 訳、岩波文庫、2017年)より

『論考』の最後には、「語りえぬものについては、沈黙せねばならない」という有名な言葉があります。
語りえぬものは、言語の外側に存在しています。
「言語の限界=世界の限界=論理の限界」としていることから、論理的に言語化できるかどうかが世界の限界であると考えました。

ということは、多くの言葉を知っていて、言語化できるものが多い人ほど、世界が広がっているのではないでしょうか。少し関係ないかもしれませんが、『論考』を読んだことが、語学学習も頑張ろうというきっかけになりました。日本語以外での言語でしか表現できない世界が広がるかも…!と思ってしまいました。

アートには、自分が見ている世界が投影されているような気がしています。
世界の限界を知る。世界の限界を広げる。
どうやったらそのようなことができるのか。そもそも可能なのか。
もう少し考えてみたいと思います。

アートで世界は広がるのか

ウィトゲンシュタインは5.62節の最後でこのようなことを言っています。

世界が“私の”世界であることは、“この”言語(私が理解する唯一の言語)の限界が“私の”世界の限界を意味することに示されている。

ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」〔電子書籍版〕(野矢茂樹 訳、岩波文庫、2017年)より

「この言語の限界が、私の世界の限界」と言っているということは、言語ごとに見えている世界は違うのでしょうか。
日本語で捉える世界と、英語で捉えている世界は全く別のものなのかもしれません。

そのように考えると、アートによって表現することは、自分のアートの限界を見つける作業とも言える気がします。そのため、自分の世界を他人が知ることはありません。私が他人の世界を知ることも、できません。

このように、「世界に存在するのは自分だけ」と考えることを独我論と言います。哲学者が『論考』を読むと、ウィトゲンシュタインは独我論者ではないか?という議論がよく起こります。

ですが、内容を突き詰めていくと(細かい部分は省略します)、これまで『論考』でみてきた、「対象」について話す言葉に「シンボル」を見出して実在するものを考えているとわかります。

論理的なものによって世界が作られ、非論理的なものはウィトゲンシュタインの「世界」には存在しない(存在できない)ことがわかりました。
この辺りからウィトゲンシュタインは、論理学について考え、数学の命題についても述べています。

次回(第5回)は数学や論理について軽くまとめた後、ウィトゲンシュタインが述べていた「倫理」とアートのつながりを探っていきたいと思います。

第5回の記事はこちらから↓

参考文献

ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」〔電子書籍版〕(野矢茂樹 訳、岩波文庫、2017年)

大谷弘 「入門講義 ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』」(筑摩書房、2022年)

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