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5.デンマーク教育視察レポート|フォルケホイスコーレ

2022年8月13日〜22日に、北欧のデンマークとフィンランドの2カ国に、教育視察(概要のnote記事はこちら)に訪れました。
子連れなら子連れなりの学びもあるのではないかと思い、思い切って2歳の息子を連れて行ってきました。

今回はデンマークで訪れたフォルケホイスコーレの視察についてレポートします。
・フォルケホイスコーレでは実際どのように過ごしているのか?
・フォルケホイスコーレで過ごす時間はどのような経験になっているのか?
などを現地でお聞きしました。


フォルケホイスコーレとは?

19世紀前半の社会変革の時期に成立した、ノンフォーマルな教育形態をとる成人教育機関。
グルントヴィ(教育者、聖職者、政治家、詩人)によって構想され、デンマークでは150年の歴史を持ちます。
参考元:「グルントヴィの教育思想とフォルケホイスコーレに関する考察」(石川 拓)

学校という教育システムとは流れを別として、日常の喧騒から離れて背景や状況の異なる様々な生徒と学びを共にしていく教育機関です。

フォルケホイスコーレでは、ディスカッション主体の授業形式が古くから用いられており、生徒はバラバラな意見を統合させる民主主義的解決の方法を自然に学びます。

一般社団法人IFAS HP

視察先のフォルケホイスコーレ 


私たちは、Krogerup Højskole(https://krogerup.dk/) を訪れました。

コペンハーゲンの中心地から1時間ほどの森の中にある学校。
最寄駅からはハイキングコースさながらの森林の一本道を歩きます。
駅には世界一美しいとされるルイジアナ美術館(https://louisiana.dk/)もありました。

広大な農地の奥に校舎が

Krogerup Folk High School は、歴史は古く1946年に創立。

学校のホームページには、教育についてこのように記載されていました。

教育は、価値観、アイデンティティ、民主主義の概念などに関する積極的な対話を通じて、生徒の政治的・文化的な参加や責任を発展させていくものである。

社会に対して当事者意識を持ち、重要な社会の課題に能動的に立ち向かっていく民主的なリーダーを育てていく姿勢が拝見できました。

視察当日は、実際にKrogerup Højskoleで過ごした卒業生2人に校内を案内してもらいました。

フォルケホイスコーレでの生活

学校は通学ではなく、2人部屋の学生寮で共同生活をします。ベッドと勉強机が備え付けられたシンプルな部屋です。
追加料金を払えば個室も可能なようですが、ほとんどが2人部屋を選択。

在籍期間は学校によっても異なりますが、3ヶ月〜10ヶ月程度を1期間で過ごします。

校内で目についたのはあちこちに飾られている絵画やアート作品。
鮮やかな花もあちこちに飾ってありました。

この学校では、授業は政治、言語、写真、陶芸などなど幅広いテーマがあります。共通の授業もありますが、基本的に自分が好きなテーマを選び学ぶことができます。

校内には談笑、ゲームなどできるゆったりとしたスペース、広々とした食堂もありました。

授業の時間には各々が受けたい授業に参加しているので、
モーニングやランチタイム、カフェタイムなどには自然と食堂に集まって、友人と話したり学びをシェアしたりして過ごしているそうです。

校内には今週の曜日ごとのスケジュールの掲示がありました。

共通に参加できる授業の他にもいろいろな活動があります。

・モーニングアクティビティ
・クリーニング(交代で掃除の時間)
・モーニングギャザリング(この日シェアしたいことや予定の共有などを行う)
・夕方のリフレクションタイム

自分で専門的に学んでいく時間と仲間と繋がり学びの領域を広げたり刺激を受ける時間などの仕掛けがされていました。

授業「民主主義と教育」

視察日に、共通プログラムで「民主主義と教育」に関する授業が開催されていました。

庭が見渡せる開放的なホールに自由に座ります。

(残念ながら私は、息子が外に出たいということで途中で外してしまったのですが・・・)
この授業は校長先生が講義を担当されていて、このような流れのプログラムでした。

①話題提供
いくつかの事例に触れながら民主主義とは何かという話題提供と投げかけ

②グループ対話
自分の身の回り・出身の社会にある民主主義の活動・事例についてシェアし合う

③全体シェア
それぞれのグループでの話をシェアし合う

これまでのシステムである学校や職場などから離れて、それぞれが思う民主主義の捉え方や具体例などを題材に対話をしながら、民主主義や教育について考えていきます。
バックグラウンドが異なる仲間との対話の中で自分自身の民主主義の捉え方や自身の行動を考え直す貴重な機会になることは間違いありません。

自分のため、周囲をより良くするためにできることをやっていくことが、民主主義の第一歩。

プログラムに参加した視察仲間に聞いたところ校長先生からはこのようなメッセージが共有されたそうです。
視察中に、この言葉を体現するデンマーク話もシェアされました。

他の人ができることをあなたがする必要はない。自分を卑下する必要もないし、あなたができることをあなたができる方法で還元すればいい。

日本からデンマークに渡って研究と教育視察のコーディネートをされている方の話ですが、実際にデンマークに来て他の人ができて自分ができないことに劣等感や焦りを感じていた時に、職場の上司からこのようなメッセージを受けて感動したという話をシェアしてくださいました。

帰国後に授業テーマに関連するこちらの本を読みましたのでこちらにもあげておきます。
「民主主義と教育 上 (岩波文庫) 文庫」(ジョン・デューイ)


卒業生に聞くフォルケホイスコーレでの学び

ホイスコーレでの授業

・これまで勉強してきたこととは異なる。これまで興味を持っていたことや今、純粋にやってみたいことにとことん取り組める。
・自分の好きなこと、興味があることを自ら仲間を見つけて色々やっていくことができるのはこういった場ならでは。
・卒業生の一人は写真を専攻し、もう一人の卒業生は政治を専攻。

寮に飾られた生徒の作品
陶芸のクラスの作品

ホイスコーレの先生

・先生はフラットで1人の人間として、自分のことを客観視し、今の自分はどのような状態なのか?を把握し伝えてくれる。

ホイスコーレでの学び

・それでもやはり先の試験や進学・就職などを目指した教育システムから離れた自由度の高い学びがあり、魅力的だと思う。

ー デンマークの学校教育は定期の試験がなかったり、本人の特性に合わせた教育環境に力点が置かれていて、日本よりもはるかに自由度が高く窮屈さが少ない印象があるが、それでも自由な学びを求めるのか?という質問に対して。

入学の目的や卒業後の進路

必ずしもホイスコーレでの学びを職業に接続させているわけではない。

今回案内してくれた卒業生も、大学院で研究をしていたがホイスコーレでは写真を専攻。
もう1名はギャップイヤーとして入学。大学卒業後、上を目指して勉強をしていくような教育システムから離れて、本当に自分が好きだと思うことをやってみたかったとのこと。現在は看護士になる学校で学んでいる。

ホイスコーレはどのような時間だったのか

・ホイスコーレではこれまで出会ったことがない人との出会いが豊富にある。
・フォルケホイスコーレでの時間は、人との付き合い方を学ぶような時間だった。(人生の縮図そのものと表現されていました。)
だった。
・だからこそ、自分自身もどのような感情や考えを持っているかを、自分自身が理解し、伝えていくことが大切だと学んだ。

感想・気づき

今回卒業生から聞いた話で一番インパクトがあったのはボランティアでガイドを引き受けてくれた理由についての回答でした。

なぜ今回私たちのガイドを引き受けてくれたの?モチベーションが知りたい。という質問に対して、

自分の経験を知識に変えてシェアをすることが、コミュニティの中で
社会の中で重要なことだと考えているんです。だからこういった活動は主体的に行なっていきます。

当たり前のようにこの回答を返してくれました。

自分の経験を知識に変えて、周囲にシェアしていくことの重要性は、まさに小学校視察の際にも聞いたようにデンマークの教育で子供に求めていますし、また今回ホイスコーレの校長先生が言っていた”自分のため、周囲をより良くするためにできることをやっていくことが、民主主義の第一歩。”

など、教育現場のメッセージとも繋がっていることに感心してしまいました。

人の成長は短期的なものではなくて、人生をかけて成長していくものです。

教育課程の中でその時だけ切り取ると、それが本当に成果に繋がっていくのかもどかしい部分もあると思いますが、各々の過程の中で大切な部分を伝え続けていくことは、長期をかけて人間形成に影響してくるものだなとあらためて感じた時間でした。


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