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『私はすでに死んでいる』と語る『私』とはいったい誰なのか。あっけなく崩壊する自己とは何なのか。

『私はすでに死んでいる』ゆがんだ〈自己〉が生み出す脳 / アニル・アナンサスワーミー 仕事帰りに紀伊國屋書店の特設コーナーの前を通りかかって、ふと本のタイトルを見た瞬間、『どゆこと!?』と、思わず手に取ってしまった。漫画・北斗の拳で『もう死んでいる』のは『お前』だが、こちらで『すでに死んでいる』のはどうやら『私』らしい。そらエライこっちゃとページをめくってみる。パラパラと目次に目を通してみると、どうやら脳科学・精神疾患系の本らしい。おお、これは大好物なやつではないか。なかな

    • 映画『哀れなるものたち』を観た。『哀れなるものたち』とは一体誰のことなのか。

      . 『哀れなるものたち』ヨルゴス・ランティモス監督・エマ・ストーン主演 これは行かねば、これは行っとかなアカンやつや、と思いつつなぜか行きそびれてしまっていた『哀れなるものたち』だが、知人が『これマジ凄いで。たぶんキミの好きそうな世界観やし、これはなにがあっても観とけ。ってか明日行ってこい』などと言うので、しょうがねえ、行っとくか、ということで休みの日だがちょっと早起きして行ってきました!ってか、もうすでに一日一回上映なのか。なんか巷ではもっと流行ってるような感じで聞いてい

      • これぞ全人類が踊れる音楽。トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』が巻き起こすフィジカルな祝祭空間

        .『ストップ・メイキング・センス』 4Kレストア トーキング・ヘッズを最後に聴いたのって一体いつのことだったろう。そういえば『リメイン・イン・ライト』のアナログ盤をふと思い立って聴き直したような気がするが、それだってもう4、5年前のことである。それくらいとんとご無沙汰だったのだ。自分のなかではもうすっかり『過去のバンド』的な扱いになっていたのかもしれない。昔はあれほど聴きまくっていたというのに。 なので今回の『ストップ・メイキング・センス』4Kレストア版のニュースを最初に

        • 『1+1=1』タルコフスキーの『ノスタルジア』が放つ救済のためのメッセージ

          『ノスタルジア・4K修復版』アンドレイ・タルコフスキー この映画も『ミツバチのささやき』と同じく、初めて観たのは80年代に放送された深夜テレビだったっけ。最初観た時は何だか良く分からなかったのだが、なんというか、この質感というか空気感というか、とにかく映像から発せられる『ただならぬ』雰囲気に何故かハマってしまい、ビデオに録っていたこともあって、そのあと何度か観返しているうちにすっかりこの映画のファンになってしまったのだ。ストーリー自体は、実はあんまり良く分からなかったのだが

        『私はすでに死んでいる』と語る『私』とはいったい誰なのか。あっけなく崩壊する自己とは何なのか。

        • 映画『哀れなるものたち』を観た。『哀れなるものたち』とは一体誰のことなのか。

        • これぞ全人類が踊れる音楽。トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』が巻き起こすフィジカルな祝祭空間

        • 『1+1=1』タルコフスキーの『ノスタルジア』が放つ救済のためのメッセージ

          映画『PERFECT DAYS』木漏れ日から漏れ出す光と影、小確幸、そして新しい一日について。

          . 『PERFECT DAYS』ヴィム・ヴェンダース ヴィム・ヴェンダースと言えば、その昔『ベルリン・天使の詩』(1988)を映画館で観て激しく感銘を受け、続く『時の翼にのって』(1994)、そして『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)を観て以来だから、劇場で観るヴェンダース映画としてはなんと25年ぶりである。今回は映画の概要を知った段階で『これは絶対観なアカンやつや』と決めていたので、結構前からずっと楽しみにしていたのだ。 というわけで正月早々早速観に行ってき

          映画『PERFECT DAYS』木漏れ日から漏れ出す光と影、小確幸、そして新しい一日について。

          夢のような人生、いや、それは人生のような夢だったのか。映画『ホテル・ニューハンプシャー』がもたらす生きていく力について。

          『ホテル・ニュー・ハンプシャー』ジョン・アーヴィング 最初は本でなく映画だった。 もうかなり昔の話になるが、1980年代の頃は、深夜に文芸的な名画やちょっとマニアックでカルト的な映画を字幕ノーカットで放映するテレビ番組がいくつかあって、いやもうその手の番組はほぼ欠かさず観ていて当時はメチャクチャお世話になったものだが、この映画も確かそういう流れで観たんだと思う。 いつものように何気なくつらつらと観始めたのだが、開始早々引き込まれてそのまま一気にラストまで観てしまった。

          夢のような人生、いや、それは人生のような夢だったのか。映画『ホテル・ニューハンプシャー』がもたらす生きていく力について。

          たった一度の人生ならば、それはほとんど何も起こらなかったようなものである。『存在の耐えられない軽さ』の痛切なる絶望について。

          『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ すでに多くの人が言及していることだが、まず何よりもタイトルが素晴らしくカッコいい。 なんせ『存在の耐えられない軽さ』である。この意味ありげなタイトル。ひょっとして文学史上最もカッコいいタイトルではないだろうか。少なくとも『舞踏会へ向かう三人の農夫』の10倍くらいはカッコいいと思う。(ちなみに『舞踏会へ向かう~』、内容はメチャクチャ面白いです) カッコいいのはタイトルだけではない。この小説はいきなりこんな書き出しから始まるのだ。

          たった一度の人生ならば、それはほとんど何も起こらなかったようなものである。『存在の耐えられない軽さ』の痛切なる絶望について。

          人生は残酷であるが、かくも甘美である。池田晶子『残酷人生論』

          人は死んだらどうなるのか、ということについては、誰でも人生で一度や二度は考えたことがあると思う。そしてそれに対する最も一般的な答えはおそらくこういいう風になるだろうか。 『人は死んだら無になる。なにもなし。人生は一回きり。死んだらそれっきり』だと。 でもちょっと考えてみてほしい。 では何故『今、ここに在る』のだろうか。 自分が死んだあとは『無』になるのはいい。しかし自分が生まれる前というのもやはり『無』の世界なのである。自分がいない世界が『無』というのなら、自分が死ん

          人生は残酷であるが、かくも甘美である。池田晶子『残酷人生論』

          人生はドライブ、自分の車で運転せよ。『ドライブ・マイ・カー』はスゴイ映画だった。圧巻の一言。

          行こう行こうと思いつつなかなか行けなかった『ドライブ・マイ・カー』だが、意を決して遂に鑑賞。 観る前は、3時間の長尺、予告編の雰囲気、カンヌ4冠などの情報から、何となく『地味だけど良作』『長いけどまあまあ良かったかな』くらいの評価で自分的にはふんわりと着地するのかと思っていたが、全く違った。 とんでもない傑作だった。 オープニングの30分こそ不穏なシーンが続いてやや不安がよぎるものの、あれよあれよという間に物語に引きずり込まれてしまう。そして訪れるラスト30分、家福とみ

          人生はドライブ、自分の車で運転せよ。『ドライブ・マイ・カー』はスゴイ映画だった。圧巻の一言。

          ベストアルバム2021

          . 《ベストアルバム2021≫ 2021年も色々な音楽に出会えて楽しく過ごさせてもらった。 古いロック、ジャズ、ソウルは中古のレコードやCDで、新譜はサブスクで、というスタンスは変わらずだが、2022年は何となく新譜のレコードにも手を出してしまいそうな予感。 それではリストの解説を。アルバムは2021年に最も良く聴いた新譜から9枚選出。 2022年もまた素晴らしい音楽に出会えますように。 ★Arlo Parks『Collapsed In Sunbeams』 YouTube

          ベストアルバム2021