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障がい児の親は「自立」をサポートしながら「自律」を目指す

育児の目的を考えたとき、思い浮かぶのは「自立」という言葉です。

できるだけ人の手を借りなくても、自分自身の力で生活していける。子どもがそうなってくれることで、ようやく肩の荷が降りる。

子どもの障がいが判明するまではそんなイメージを抱いていました。

しかし、自分が作業療法士の仕事をしていることもあり、子どもが小学校に進学してしばらく経った頃「この子は大人になっても自立は難しいだろう」ということを自然に理解しました。

大人になっても自立できないこの子に生きる力を持たせてあげたい。

そのためには、自立できていないのに一人暮らしが成立している患者さんの生活の成り立たせ方が参考になるのではないだろうか。

そう頭の中を巡らせ、浮かんできたのが「自律」という考え方です。


自分のことが自分でできない、という状況で生活を成り立たせるのが「自律」です。

親は子どもに対して「自立」に向けたサポートを行いつつ、自立できない想定に対しても「自律」という視点でのサポートができます。

この「自立」と「自律」に対するアプローチについて考えていきます。




自立とは自分のことが自分でできるようになることです。

医療場面では生活の自立度を判断する際、一般的にはADL(Activities of Daily Living)という考え方を用います。

ADLとは生活場面での行為を「移動」「食事」「整容」「更衣」「排泄」「入浴」という項目に分け、一つ一つの項目がどの程度自分で行え、どの程度の介助が必要なのかということを判断していきます。

ADLのスコアが高いことを「自立度が高い」と判断します。

僕は子どもに対してもこの区分に照らし合わせてサポートをしました。。

ADL項目の中で自分でできることは積極的に行わせ、介助が必要なことは一緒に練習し、できないことは親がするのです。

できないことに対しては、できない原因をWAISの検査結果から分析し、解決方法を考えます。

解決方法のおおまかな内容は、検査でわかった苦手を補完するために環境を整えるのと、苦手なことを得意な方法で補うやり方を考案して教えるということです。




一方、自律とは目的のために自分の行動をコントロールすることを指します。

自律した行動とは、困ったときに人に助けを求めたり、心身に悪い影響がある行動を自制することなどです。

人に助けを求めることができるというスキルは、自立することが困難な子どもの生活に大きな影響を与えます。

自律のためのサポートは「人に助けを求める」ことと「悪影響があることを自制する」という観点で考えました。

まず人に助けを求められるようになるために、家庭外のあまり自分を知らない人の中で過ごす機会を作りました。

家庭内では子どもが困らないよう、親の手間が増えないよう、先に親が察して動いてしまいます。

あえて、子どもを知らない人の中に置くことで、困ったことを自分から周りの大人に伝えなければいけないシチュエーションを作るのです。


また自制については依存が懸念されるゲームやスマホなどを制限することから始めました。

制限から始めるのは、脳の中で「自制」を司る前頭葉は脳の他の部位に比べて発達が遅いためです。

依存性がある行動を子どもが自制すること自体に無理があると考えたのです。

その上で「毎日スマホを2時間以上触る子どもは学力や集中力が落ちてしまう」など、依存に関する注意点をわかりやすく伝えるようにしました。
(医学的に立証されているエビデンスです)




子どもはいま、職場での作業でわからないことがあれば指導員さんに自分から声をてアドバイスを受けているそうです。

大好きなスマホやゲームについては完全に自制できているとは言えませんが、やりすぎは体に良くないというという意識に少しは罪悪感を抱きつつ、規則正しい生活を送っています。


自律を子どもに伝えるとき、親が自律した行動をとっていることは説得力を持たせます。

自律した生活について子どもに諭すとき、親自身も自律を伝えることができる規範として行動できているのか、ということを試されているのかもしれません。


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