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弁護士が解説するAIイラストの法律問題-AIイラストが著作権侵害になる場合



最近話題になっているMidjourney、Stable Diffusion、NovelAI、mimicなどの画像生成AIの著作権法に関する問題点を弁護士が解説します。

本記事のテーマは、AIが生成するイラストに対してイラストレーターや絵師が著作権侵害を主張できるのかです。

イラストレーターや絵師の方々は自分の作った作品をAIの機械学習のために無断で使用されてしまう立場です。AIによる機械学習行為の適法性については別の記事で解説しましたが、機械学習に対して著作権侵害に基づく請求ができるのが例外的なケースに限られます。


しかし、機械学習自体は適法だったとしても、AIが生成した画像に対してイラストレーターが権利侵害を主張することはできないのでしょうか。

今回の記事では、いかなる要件を満たせばAIイラストに対してイラストレーターや絵師が著作権侵害に基づく請求を行うことができるのかを、具体例を挙げつつ解説していきます。

なお、本記事に書かれている内容についてはより詳しく解説した電子書籍も出していますのでご興味のある方はぜひご一読ください。

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本記事の執筆者について


この記事を書いているのは知財と中小企業の法律問題を主に取り扱う弁護士です。中小企業庁の所管する公的な経営相談所である「よろず支援拠点」のほか、知財の専門相談窓口である「知財総合支援窓口」にも在籍・登録して多数の相談対応を行っています。

執筆者:谷 直樹(弁護士・長崎県弁護士会所属)
■ 長崎国際法律事務所代表
■ 弁護士(長崎県弁護士会所属)
■ 認定知的財産アナリスト(特許)


著作権侵害が成立するための要件


AIイラストが著作権侵害になるかどうかを検討するためには、まず著作権侵害の要件をおさえておく必要があります。

たとえば、あるイラストレーターの方が描いたイラストをまるまるコピーしたものをイラスト集に載せて販売したとすると、これは誰が考えても著作権侵害になります。

しかし、作品全部をコピーしないと著作権侵害にならないかというと、これはもちろんそんなことはありません。たとえば、次のような場合であっても著作権侵害は成立する余地があります。


  • イラストの8割にあたる部分をコピーした場合

  • 背景+キャラクターのイラストのうち、描かれているキャラクターだけを切り抜いてコピーした場合

  • キャラクターのイラストをトレースして別のイラストを描いた場合

  • イラストそのもののを模写したり、トレースしたわけではないが、イラストに描かれているキャラクターの造形(髪型、体型、服装、配色など)を元のイラストの特徴がわかる程度に真似て別のイラストを描いた場合



ここで挙げたのはいずれも例です。ここで書かれている以外のケースであっても著作権侵害が成立する場合はあります。

重要なのは、著作権侵害が成立するには必ずしもイラストそのものをコピーしたり模写したりする必要はないということです。元の作品の特徴がわかる程度に似せたものを描けば著作権侵害が成立する可能性があります。

法律の要件としてまとめると、著作権侵害が成立するためには次の2つの要件を満たすことが必要です。


  1. 元の著作物の創作的表現がわかる程度に似た表現を使うこと

  2. 元の著作物に依拠していること



それぞれの要件について少し詳しく解説してみましょう。

要件1:元の著作物の創作的表現がわかる程度に似た表現を使うこと


まず、著作権侵害となるためには、他人が作った著作物の創作的表現がわかる程度に似た表現を使うことが必要です。

創作的表現」といってもわかりにくいかもしれませんが、これは要するに作品(著作物)の中で作者の個性が発揮されている表現部分のことです。

たとえば、人物画を例にとると、どのような人物を描くか(=モチーフの選択)、その人物の顔かたち、服装などはどのように描かれているか、描かれた人物はどんなポーズをとっているか、絵の全体的な構図はどうなっているか、背景にはどのようなものが描かれているかといった部分に通常は作者の個性が発揮されます。

もっとも、ここで挙げた要素のどれか一つだけでも類似していさえすれば著作権侵害になるかというと、そんなことはありません。

たとえば、人物のポーズを例にとると、単に直立して正面を向いているポーズであれば誰でも思いつくありふれたポージングと言えます。このように個性の発揮されていない部分であれば、他人が同じものを使ったとしてもただちに著作権侵害になるということはないのです。

あるいは、キャラクターのイラスト作品において、背景にはありふれたグラデーション模様などの背景素材が使用されていたとします。このイラストの作者とは別のイラストレーターがこの背景素材と全く同じものを使って別のイラストを描いたとしても、当然ながら著作権侵害にはなりません。そのイラストレーターが使用した背景素材は著作物ではなく誰でも使用可能なものだからです。

つまり、著作権侵害が成立するためには個性的な表現部分が似通っている必要があるということです。

また、創作的表現が類似しているかどうかは上で挙げた要素一つ一つについて対比する場合もありますが、それぞれの要素を総合した結果として全体的に似ているかどうかという観点からも検討されることになります。

たとえば、「キャラクターの顔かたち、服装、ポーズなどはそれぞれ微妙に違う部分もあるものの、全体として見ると似ている要素が多い」というようなケースではやはり著作権侵害が成立する可能性があるでしょう。

逆に、独創性が高い表現部分について全く同一だったり非常に類似性が高い表現を使用している場合は他の部分が似ていなくても著作権侵害が成立する可能性もあります。

例を挙げると、あるキャラクターの顔だけをそのまま切り抜いて別の絵に使ったり、顔の部分だけを模写に近い形で似せて使用したりした場合は他の部分(たとえばキャラクターの体型や服装など)が全く別の表現だったとしても著作権侵害となる余地があります。これは通常、キャラクターの顔の造形は作者の個性が色濃くあらわれる部分だからです。

ここで説明したことを簡単にまとめると次の通りです。


  • 著作権侵害となるためには元の作品の中で作者の個性が発揮されている部分が類似している必要がある。

  • 作者の個性が発揮されていない、ありふれた表現部分や背景素材等が類似・同一だったとしても著作権侵害にはならない。

  • 類似している要素を総合的に評価した結果、全体として似ていると判断された場合に著作権侵害となるケースがある。

  • 逆に、キャラクターの顔の造形など作者の個性が強く発揮されている部分について非常に類似性の強い表現を使用した場合は他の要素が似ていなくても特許権侵害になるケースもありうる。



要件2:元の著作物に依拠していること


では、ある著作物の創作的表現と類似していると判断されてしまうと直ちに著作権侵害になるのかというと、これはノーです。著作権侵害が成立するためには「他人の著作物に依拠して作成された」という2つ目の要件があるからです。

依拠」というのはあまり日常語としては使いませんが、簡単に言うと、「他人の著作物を利用した」という意味です。たとえば次のようなケースであれば全て依拠の要件を満たします。


  1. 他人が描いてネット上に公開されている画像をダウンロードして別のサイトにアップ(転載)した。

  2. 他人が描いたイラストの画像のスクリーンショットを撮って、それを転載した。

  3. あるイラストレーターのイラスト集を購入してスキャナーでスキャンしたものをインターネット上にアップロードした。

  4. 他人が描いたイラストをトレースして使った。

  5. 他人が描いたイラストを参考にしてイラストを描いた。



上記1~5は全て依拠の要件を満たします。

また、1~3であれば同時に要件1(創作的表現の類似性)も当然満たします。一方、4と5の場合は依拠の要件は満たすものの、創作的表現が類似しているとまでは言えず要件1を満たさないと判断されるケースもありえます。たとえば、ある人の描いた絵をお手本にして絵を描いたものの、参考元の絵とは全然違う絵になったようなケースがありうるからです。

著作権侵害が成立するために依拠の要件が必要とされているのは、たまたま表現が似通った作品を作ってしまった場合に著作権侵害の責任を問われないようにするためです。

商標などとは異なり著作権は著作物が作成された時点で発生しますから、すでに似た表現の作品が世に出ていることを知らずに創作活動をしてしまう人もいます。この場合に「先に似た作品が存在していたから」という理由で損害賠償や使用差止めの責任を負わされることになると、人間の創作活動が委縮してしまいます。そのため、依拠の要件を課すことで偶然似た作品を作ってしまった人を保護しているのです。

AIイラストが著作権侵害となる場合


では、以上述べた著作権侵害の要件を前提として、AIイラストに対して絵師やイラストレーターが著作権侵害を主張できるケースを検討してみましょう。

ケース① 自分のイラストを機械学習に利用して生成されたAIイラスト


イラストレーターなど絵を本業としている人にとっては、自分の作品を機械学習に利用して生成されたAI画像に対して何らかの法的主張をしたいと感じるかもしれません。

しかし、結論から言うと、単に自分の作品が機械学習に利用されたという事実だけでは、生成されたAIイラストに対して著作権侵害その他の法的主張を行うことはできません

前の項目で説明した通り、著作権侵害が成立するためには①創作的表現の類似と②依拠という2つの要件を満たすことが必要ですが、自分の作品を機械学習に利用したAIであっても①を満たすとは限りません。

AIの機械学習(Machine Learning)は、無数の画像等のデータをコンピュータに読み込ませて解析し、得られた画像のパターン等を画像生成に用いる仕組みです。そのため、生成される画像は学習用データの画像の解析結果には基づいているものの、画像そのものをコピーしたり切り貼りしたりするわけではありません。そのため、学習用データとなった画像と表現が異なる画像が生成されることは十分ありえます。

したがって、単に「自分の作品を機械学習に使った」という理由だけで著作権侵害の要件を満たすことはないのです。

なお、AIによる機械学習行為そのものが適法と言えるかどうかについては冒頭でも紹介した別の記事で詳しく解説しています。


ケース② 自分のイラストの画風を真似したAIイラスト


では、機械学習を行った結果、自分の作品の画風を模倣していると言えるような画像が生成された場合はどうでしょうか。

機械学習により学習元の作品の画風を模倣できることを売りにするAIイラストサービスとしてはmimicが話題となっています。


mimicは利用規約上、学習用データの提供を行うことができるのは作者本人だけであり、その点を確保するためにアカウントの審査なども厳重に行う方針のようです。このように作者本人の同意を得たサービスなのであれば生成された画像について著作権侵害の問題が生じることは通常ないでしょう。

では、mimicと同様に画風の模倣が可能なAIイラストサービスが作者の同意なく運用されたとしたら、それに対して画風を真似されたイラストレーターは著作権侵害に基づく責任追及ができるのでしょうか。

この点についても結論を先に言うと、「単に画風だけを模倣したAIイラストに対しては著作権侵害を主張できない」というのが結論になります。

これは著作権侵害の要件のうち1つ目の要件(=元の著作物の創作的表現がわかる程度に似た表現を使うこと)を満たすかどうかを判断する場面を考えてみるとわかりやすいかもしれません。

要件1が満たされるかどうかを判断する際には、ある作者の描いたイラスト(イラストA)と著作権侵害が疑われている別の人のイラスト(イラストB)を比較して判断します。つまり、あくまでも比較対象はイラストAとイラストBという作品同士です。

一方、画風というのは個別の作品から離れたとしても感じ取ることのできる、その作家ならではの表現の特徴です。たとえば、『ジョジョの奇妙な冒険』を描いた漫画家・荒木飛呂彦氏の画風を思い浮かべてみましょう。おそらく、彼の漫画を読んだことのある人であれば「荒木飛呂彦先生風の画風」というのはすぐに頭に思い浮かぶはずです。

では、その荒木飛呂彦氏の画風で描かれたウルトラマンのイラストがあるとして、これが同氏の著作権侵害になるかというと、おそらくこれは否定されます。

なぜかというと、その「荒木先生風ウルトラマン」について著作権侵害が成立するかどうかを判断する際には、荒木氏が描いた漫画やイラストと比較検討をすることになるのですが、そもそも同氏はウルトラマンのイラストを描いていない(はず)ですので、比較すべき作品が存在しないことになるからです。

せいぜい問題のウルトラマンのイラストと構図や配色などが比較的似ていると思われるような荒木氏の作品を引っ張って来て、「ここが似ている」、「そこが似ている」と主張していくことになりますが、これは普通は上手くいかないでしょう。作品のモチーフ自体が違う以上、創作的表現が似ていると判断される可能性は低いからです。

このように、「著作権侵害の有無を判断する際は作品同士を比較する」という考え方――言い換えると、「個別の作品を離れた画風自体は保護しない」という考え方は著作権法の原則でもあります。著作権法は具体的な表現を保護する法律であり、作品にあらわれた具体的な表現を超えた作品のコンセプトやアイディアなどは保護の対象とならないのです。

もちろん、画風の類似性は著作権侵害が成立するかどうかを判断する際の考慮要素の一つではあります。たとえば、『ドラえもん』を模倣した作品について藤子・F・不二雄氏の著作権の侵害が成立するかどうかを判断する際には、藤子F氏風の画風で描かれた作品のほうが著作権侵害が成立する可能性は高いでしょう。

しかし、画風だけを寄せて全く別の作品を描いた場合には「創作的表現が類似している」とは言えず、著作権侵害とはならないのです。

なお、画風のみならず「〇〇先生風」のように著名なイラストレーター、絵師、漫画家の名前を出すなどして運営されているAIイラストサービスについては他人の人気や知名度へのフリーライド(タダ乗り行為)があると言えますから別途不法行為責任を問うことができる可能性があります。

また、こうした形で他人の著名性にフリーライドするために機械学習を行う場合は著作権者の利益を不当に害するものとして、機械学習行為自体が著作権侵害と評価される可能性もあります。この点についても別記事で詳しく解説しています。


ケース③ 自分のイラストと創作的表現が類似しているAIイラスト


単なる画風の模倣を超えて、特定の作品の創作的表現と類似している画像が生成された場合は著作権侵害が成立する余地があります

AI生成画像について著作権侵害が成立するかどうかの判断基準は基本的に人間が描いたイラストについて著作権侵害が成立するかどうかの判断基準と同じです。この点については本記事で前述しましたが、ここでもう一度繰り返しておきましょう。


  • 著作権侵害となるためには元の作品の中で作者の個性が発揮されている部分が類似している必要がある。

  • 作者の個性が発揮されていない、ありふれた表現部分や背景素材等が類似・同一だったとしても著作権侵害にはならない。

  • 類似している要素を総合的に評価した結果、全体として似ていると判断された場合に著作権侵害となるケースがある。

  • 逆に、キャラクターの顔の造形など作者の個性が強く発揮されている部分について非常に類似性の強い表現を使用した場合は他の要素が似ていなくても特許権侵害になるケースもありうる。



AI生成画像について、この判断基準に照らして実際に著作権侵害となるケースがあるのかですが、これは十分ありうると思います。

MidjourneyなどのAIイラストサービスでは、たとえば特定のキャラクターの名前を指示文(script=スクリプト)に入力して画像を生成させることができますが、この場合、少なくない割合で指定されたキャラクターを描いた「本家」のイラストレーターや漫画家の作品の創作的表現と類似している画像が生成されます。

もちろん、この場合も「本家」の作家が描いた個別の作品と、AIの生成した画像とを比較してその類似性が判断されることになりますが、キャラクターの場合はその特徴的な造形、髪型、服装、配色などが共通していれば多少構図やポーズ等が異なっていても創作的表現が類似していると判断される可能性が高いです。

mimicのように、特定の作家の作品を学習用データとすることでその作家の画風を模倣するサービスの場合、生成される画像が単に画風の模倣を超えて特定の作品の創作的表現と類似したものを生成してしまう可能性は高いかもしれません。

もちろんmimicの場合は作家の許諾を得ていますから著作権侵害の問題は生じませんが、許諾を得ずに実施・運用するサービスの場合は学習用データに用いた作品と類似性が高すぎる画像は生成されないような仕組みを設ける必要があると思います。

依拠の要件を満たしていないから著作権侵害は否定される?


では、著作権侵害の1つ目の要件である創作的表現の類似を満たしたとしても、2つ目の要件である依拠の要件を満たしていると言えるのでしょうか。

この点については結論から言うと、「学習用データに使った画像と創作的表現が似ている画像が生成されている限り、依拠の要件は満たされる」と判断してよいと思います。その理由は以下の通りです。

まず、学習用データとして使用する画像は膨大なため、AIの開発者ないし運営会社は画像の中身一つ一つについて認識していない可能性がありますが、このことは依拠の要件を否定する根拠とはなりません。

前述の通り、依拠とは「他人の著作物を利用した」という意味です。これは他人の著作物と無関係にたまたま似た作品を創作してしまった人を保護するための要件です。

この点、AI画像の生成のために他人の著作物が学習用データとして使われている以上、他人の著作物と無関係にAIイラストが生成されたとは言えません。明らかに「他人の著作物を利用した」と評価できます。

AIの開発者や運営会社が学習用データである画像の中身を逐一把握していなかったとしてもこの点は変わりません。一般的に、依拠の要件に関しては「元の作品を見たことはあるが似せる意図はなかった。無意識に似てしまった」という「無意識の抗弁」は認められないと考えられています。これも依拠の要件にとって重要なのは「他人の著作物に似せようとする意識」ではなく「他人の著作物を利用したという事実」だからでしょう。

また、AIにスクリプトを入力して画像を生成した人間(サービス利用者)が元画像について知らなかったとしても、やはり依拠の要件を否定することにはならないと考えられます。この場合も、AIによる画像生成のために他人の著作物が利用されている以上、依拠の要件は満たされているからです。

なお、スクリプトを入力したサービス利用者が意図していなかったのに他人の著作物と似た画像が生成されてしまった場合、その人物には著作権侵害についての故意・過失がないと判断される可能性はあります。たとえば、スクリプトの中に特定の作家の名前や作品名を入れていなかったのに偶然特定の作品に似た作品やキャラクターが生成されてしまったようなケースです。

この場合、故意・過失が否定されればそのサービス利用者が著作権侵害について損害賠償責任を負うことはありません。ただ、著作権者から権利侵害についての警告を受けた後もその画像を使用し続けた場合は故意・過失が肯定されることになり、損害賠償責任を負うことになるので注意が必要です。

一方、AIの開発者やサービスの運営会社については、たとえ学習用データの画像の中身について認識していなかったとしても、創作的表現に関してその画像と似た画像が生成されてしまった場合には少なくとも著作権侵害について過失はあると評価されることになると思います。

なぜなら、AIが生成する画像が学習用データに似たものとなる可能性が高いことは認識可能ですし、そのように類似した画像が生成されないプログラムを構築するなど著作権侵害を回避する防止措置を講じることも開発者や運営会社には可能だからです。それを怠って他人の創作的表現と類似性のある画像生成ができるAIを運用してしまった以上、過失は認められると考えてよいでしょう。

著作権法30条の4によりAIが生成した画像の著作権侵害は否定される?


なお、時々、AIが生成する画像については著作権法30条の4で許容されると勘違いして理解している人もいるため、念のため説明しておくことにしましょう。

著作権法30条の4は、AIによる機械学習を正当化する条文ですが、機械学習の結果として行われるAIによる画像生成の局面でこの条文が適用されることはありません

条文を読めばわかる通り、30条の4は「著作物にあらわれた思想・感情を人間が享受しない場合」にのみ適用されます。これはすなわち「人間の鑑賞用途ではない場合」と言い換えられます。機械学習の局面ではコンピュータが解析を行うだけですから、人間が画像を鑑賞することはありません。だからこそAIによる機械学習には30条の4が適用されます。

一方、AIが画像を生成する局面では、生成された画像は当然ながら人間が見て鑑賞することが予定されています。つまり「著作物にあらわれた思想・感情を人間が享受する場合」ですから、30条の4が適用される余地はないのです。

このようにAIが生成する画像について、著作権法30条の4では正当化できないことはおさえておいてください。

本記事のまとめ


今回の記事では、AIが生成した画像について著作権侵害が成立するかどうかを解説しました。

機械学習の局面とは異なり、現在運用されているAIイラストサービスを見るに、既存作品と創作的表現が類似しており著作権侵害が成立するケースは多いと思います。

今後、AIによる画像生成技術を研究・開発する企業としては、学習用データとして使った著作物とあまりにも類似性の高い画像が生成されないようなプログラム・仕組みを開発していく必要があるでしょう。これは法的責任であると同時に、無許可・無償で自分の作品を機械学習に使われてしまう立場のイラストレーター等に対するAIサービス運営企業の社会的責任でもあります。

本記事にて解説したAIイラストと著作権その他の法律問題については書籍「弁護士が教えるAIイラストの法律の教科書」でより詳しく解説を行っています。kindle unlimitedの読み放題でも読むことができますので、興味のある方はぜひお手に取ってみてください。


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