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卒展、バナー、ネイル

7月19日から23日にかけてケルン・メディア芸術大学(KHM)で卒展が行われました。2019年に入学してから4年間かかりましたが、無事にディプロムⅡ(修士課程相当)を終えることができました(目安としては2年半ですが、コロナの特例もあり問題なく修了できました)。卒展の参加自体は義務ではありませんが、卒業する学生のうちのほとんどが参加していました(インスタレーション系の学生は展示、映画の学生はケルン内のいくつかの会場で作品が上映されます)。ちなみに作品を評価されるのは最終試験でこちらは私は5月に済ませており、満点の評価をいただきました(こちらは大学のイベントではなく学生自身が企画しなければなりません)。

骨の形をしたオブジェが吊るされていたり床にも置いてある
友達のアメリーとレックスの作品、トランスメディアラー・ラウムにて

それから卒業がまだの学生も、それぞれの自主企画やセミナーの発表の形で展示をします。大学にはハイケという卒展担当のスタッフがおり、学生のグループや、セミナーの講師らが展示やコンサート、パフォーマンスなどの企画を持ち寄り、場所や機材などをハイケと調整します。

中庭にステージがあり人が集まっている
大学の(小さい方の)中庭

例えば音楽系の学科では3日に渡りコンサートが行われました。ジャンルは電子音楽、ノイズ、ギターの弾き語りと様々。バーも開かれ、金曜日にはコンサートが終わった後にも(南米系の学生が多いこともあり)レゲトンなどをかけて踊って盛り上がっていました。

ひまわりを持った集合写真、私はバナーを持っている
Photo: Dörthe Boxberg

金曜日には卒業セレモニーも行われ卒業証書(とひまわり)が授与され、集合写真を撮りました。(大きい方の)中庭に置いていた自分のバナーを持って写真に写ったのはやりすぎかと思いましたが、芸術大学だし実質的に主席なのでまあいいかなとも思います。

違う角度から見たバナー

今回は卒業制作に絡んで幾つかの展示を行いました。上の集合写真のバナーに続き、こちらは「新作」のバナーで、中庭に物置のようなスペースがあったので、それを囲っているフェンスにバナーをかけました(自撮りしてから背景を切り抜き、ハイドラで編集)。サイズが大きいので風通しがいいメッシュ・バナーという網状の素材で注文したのですが、今回は後ろが透けて見えてしまい初めは失敗したと思いました。が、角度によってペンキの蓋がアイライナーに見えたり、後ろに置いてあるものや天気など日によって見え方が変わって遊び心のある作品になりました(見出しの画像は以前からバナー作品を気に入っていただいている Julia Scher さんからいただきました)。コンセプトとしては今学期に中庭で暴行事件があり、それに何か作品で問題提起できないか考え、「誰かに見られている」インパクトのあるバナーを作ることにしました。

グラフ

屋内ではオープン・ラボというセミナーでグループ展を行いました。マテリアルや印刷を取り扱ったセミナーで、各回に学生それぞれがプレゼンテーションやワークショップを提案する学生主体のフォーマットです。ワークショップではモールディングや DIY ラジオの実験などをしました。学生それぞれ興味がバラバラなので、今回はマークダウン・ファイルと cosma を使ったネットワーク・グラフを作ってそれぞれのテーマと関係性を可視化しました。こちらのリンクからインタラクティブ版にアクセスできます(ちなみにもともとは同じようなグラフを生成できる Obsidian を使うアイディアから始まったのですが、直接ウェブ投稿できるバージョンは有料なので、 obsidian2cosma というオープンソース・ソフトウェアを使いました)。

ディスプレイやプリントを見る人たち

私の展示のメインはウェブとリソグラフです。ウェブはこれまでに制作したもの(例えばこちら)を6台の iMac を学内からかき集めて展示しました。それからもう1台の iMac ではコロンビアのシエラ・ネバダで奮闘している映像を流しました。映像では日本語で話しているので、英語でいつも話している友達からはイメージが違うとコメントをいただきました。

狭い壁一面にプリントが貼ってある

天井は高いものの屋根裏的なつくりで垂直な壁があまりない特徴的な部屋なのですが、今回は使えるスペースを有効活用してリソグラフのプリントを展示しました(メディア・アート系の仕事をしている割りに脚立に乗るのは苦手なのでつらかった)。プリントはハイドラの osc() つまりサイン波そのものです。コンセプトについてはあまり語らなかったのですが、 Hito SteyerlRosa Menkman の解像度のリサーチに関連して「無限に続くパターン」かつハイドラの基本パターンであることからよく用いています。

棚に吊されたスケッチや織物、Tシャツなど
Photo: Dörthe Boxberg

また、機材や工具などの置いてある棚も展示に使いました。去年あたりから「規模の大きな展示をすることになったらどうするか」について考えています。ポーラ・ミュージアム・アネックスでいただいた機会ではギャラリー内に仮設資材を組んでもらったのですが、リソース(つまりお金)がかかってしまうのでもともとあるものをどうやって作品にするか実験しています。展示スペースにもともとあるものと、自分が日頃使っているものや集めているものをどのように作品として展示するかがテーマです。Barbara Iweins の「所有しているものすべての写真を撮るプロジェクト」がリファレンスです。

部屋の中にあるテントやプリントなど

他の学生の作品はこんな感じで、映像インスタレーション、プリントなどさまざま。

店頭用の棚におもちゃなどが置いてある

セミナーのグループ展の横では卒業制作の発表の一環で「ネイル・サロン」を行いました。

クライアントのネイルをしている
Photo: Dörthe Boxberg

ネイル・サロンのテーマはシンプルで、無料でネイルをきれいに仕上げることです。アート作品となると政治的な意味合いや問題提起をする場合が多いですが(ネイル・アート系では Nadja Buttendorf の「デモのメッセージの書かれたネイル」、美容室系ではキム・ガラムの「地域の問題について質問し、その回答次第で髪の長さを決めるヘア・サロン」や、 peluqueras_asesinas の「鏡なしで会話によって切り具合を伝えるヘア・サロン」など)、私は友達同士でするようにただネイルをします。自閉スペクトラムなのでコミュニケーションは苦手ですが、一人20分と決まっていることや目的があって来てもらっていることでただ雑談するよりも話しやすく感じており、「コミュニケーションのあり方を変える」意味でもネイル・サロンのプロジェクトを続けています(そういうと結局ポリティカルな意味合いが生まれますが、誰かが言っていたように、「ポリティカルな要素のないものは存在しない」のです)。

手を広げてポーズ

会期の5日間中、サロンは4日間オープンしたのですが延べ41人にご利用いただきました。友達同士での感覚でといいつつも、使っているマニキュアは Holo Taco というインディ・ブランドで一瓶2000円以上します(大学の材料費を使って購入しました)。ホログラフィックだったり見る角度によって色が変わるものもあり来ていただいた方、全員に気に入っていただけました。

ポーズしている別のクライアント

卒業後の計画についてはまだ決めかねていますが何か決まれば記事を書こうと思います。公開できることとしては12月からスロベニアでレジデンスをすることが決まっていて、2020年から続けているデジタル・ダンスのプロジェクトをシアター向けのパフォーマンスとして新たに制作する予定です。

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