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140字小説

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さくっと読めるのでおやつにどうぞ。
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#404美術館

くもり のち 雨

くもり のち 雨

雨は降っていなかった。
予報通りならとっくに降り出しているはずだったのに、暗雲は惑うように右往左往するだけで、その様が先の自分に重なった。
躊躇い混じりの決意はきっと、ただの間違いとして終わるだろう。
まもなくして雨は降り出した。
もっと早く降ってくれていたなら、もっと早く泣けたのに。

ちっぽけな世界

ちっぽけな世界

歩道橋の上からは世界が見渡せた。
いつもの公園と団栗の森、時計台に図書館にあの子の家の赤い屋根。
それが僕の世界の全てで、大人になればもっと色んなものが見えると信じていた。
歳を重ねる程見えなくなるものもあるなんて知らずに。
歩道橋に上るたび想う。
錆ついた手摺はまだ、そこにあるだろうか。

2月の夜、晴れ。

2月の夜、晴れ。



かじかむ指先を目一杯握りしめて口を開く。
言葉を探して詰まって噛んで思うように進まないのに、急かさず笑わず頷きながら聞いてくれるから今この瞬間も想いが募る。

「好きなんだ」

ようやく言えた一言にまた頷いて君が口を開く。
思わず俯いた頭上から降ってきたのは、ずっと聞きたかった君の答えは。

星がつなぐ

星がつなぐ



冬ももう終わっちゃうね。白い息を溶かしながら君が言う。

「冬は嫌いだって言ってなかった?」
「嫌いじゃないよ、寒いのが嫌なだけ。でも」

星座をなぞっていた指がゆるりと下りて僕の袖を掴む。

「もう少し冬でいいのにな」

そんなぎこちない合図で手を繋ぐ。二人で迎える初めての春まであと少し。