マガジンのカバー画像

140字小説

75
さくっと読めるのでおやつにどうぞ。
運営しているクリエイター

#この街がすき

始まりはからっぽ

始まりはからっぽ

広くなった部屋を見渡す。
そうだ、越してきた日もこんな部屋だった。
カーテンのない窓から風が吹き込んで、フローリングの上に転がったまま雲が渡っていくのを眺めていた。
始まりと終わりは似て非なる。
電気を消して壁をひと撫で、ドアを開けて呟く。
「行ってきます」

もう帰らない部屋へ感謝を込めて。

ちっぽけな世界

ちっぽけな世界

歩道橋の上からは世界が見渡せた。
いつもの公園と団栗の森、時計台に図書館にあの子の家の赤い屋根。
それが僕の世界の全てで、大人になればもっと色んなものが見えると信じていた。
歳を重ねる程見えなくなるものもあるなんて知らずに。
歩道橋に上るたび想う。
錆ついた手摺はまだ、そこにあるだろうか。