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妄想癖③×料理 ~摂食障害の私が食を愛し食に愛されたくて~

少々風変りな「料理本」作りを目指してみるのもいいのかもしれないナ。
なんて思っちゃうくらいには、
わたしは「食」に愛されたくて、だから愛そうと格闘してきて、
結果、いくつもの文章が残っていったのだった。

【雷こんにゃくの遊び方】
 
「雷蒟蒻」が好きだ。
 
まずひとつめに、
包丁でコンニャクの表面へ、
斜め格子の切れ目を入れるのが好きだ。

味を染み込ませる仕組みをつくる。 
注意しないと、うっかりまな板まで包丁が行き届いてしまう。
しかし慣れてくれば、芸術的なまでに綺麗な格子の切れ目ができあがるのだから頑張れる。
 
無心で、ひたすらに、ただ切れ目を入れる。
終える時には決まって、
「しまった、もう一つ買っておくんだった」と後悔する。
次は二つ分作ろう、と、その時ばかりは強く想う。
この悔やみこそが、雷蒟蒻の最初の ”旨味” と言えるだろう。
 
 
ふたつめに、
食べやすい大きさに切ったコンニャクを
水を沸かした鍋の中へひとつひとつ放って泳がせるのが好きだ。
 
いっぺんにではない。ひとつひとつ素早く 且つ 慎重放ちたい。
これは可愛い金魚を一匹一匹水槽に放つのと、非常によく似ている。
 
つまりはコンニャクの触感。これがいけない。
金魚やおたまじゃくしのような、
生きもの的愛らしさを覚えてしまうのはもう、免れようのないことだろう。
 
 
みっつめ、いよいよ本番だ。
湯がいたコンニャクをザルにあげ、水気をしっかりと取っておこう。
熱したフライパンにゴマ油を垂らし、コンニャクを投入する。
あぁ遂にこの時がきたね。
ここが最も、たまらなく好きなんだ。
 
バリバリバリ!! ビリ!!ビリビリ!!
と、ブクブク泡を出しながら激しい音を鳴らす。
水分が飛ぶときのこの音の激しさを、よく観てほしい。
これが「雷」という名の由来だ。
 
何が好きかって、
それはもう、この泡が大好きだ。
 
何故って、
どんどん出てくるから好きだ。
見逃すな、どんどん、どんどん出てくるぞ。
あぁ、ちなみに銅のフライパンがお勧めだよ。泡の出方が違うんだ。
なぜだろう、この時ばかりは蟹の兄弟を想い起こさずにはいられない。
バリバリ、ぶくぶく、なかなかに過激なシーンだろう。なぁ、クラムボン。

 
ここまで楽しめたら、8割方満足だ。
あとはお酒と甘味をくわえて、醤油を入れて、
おっと、忘れちゃならないよ。とんがらし。
  
それで両面炒める。
あぁ、そうだね。ここもけっこう愛おしい。
じっくり待ってやったほうがいい。
じっくりだよ。こちらが焦ってどうする。
むしろ やつらをジリジリと焦らしてやろう。
早く、早く、とグツグツ懸命に耐えている。
 
そうしてひとつひとつ、ひっくり返す。
そら見ろ、こんなに照り照りになっている。あぁすばらしいな。
 

ここで9割9分お腹いっぱいな気持ちになる。
 
両面良い感じに照りが出たら、容器に移して味を染み込ませよう。
急ぐときは初めから形を薄めに拵えるといい。
厚めに切ったなら、5、6時間は置いたほうが美味しい。
これは待つというよりも、すっかり忘れてしまうほうが利口だよ。
 
晩酌のとき、”どれ、何かつまむものは無かったか?”・・なんてさ、
半ば思いがけず、
雷蒟蒻との運命の再会を果たしたい。
 
 
皿に盛るときに、かつお節を被せてやるとチャーミングだ。
もちろん、スッポンポンが好みな人はそのまま味わい尽くそう。
 
口に入れてむぎゅむぎゅと噛む。
あぁ、噛めば噛むほどに雷蒟蒻だ。
金魚となり蟹となり、
水分を念入りに抜かれた彼らはよく味が染みる。
あとはただただ、蒟蒻が美味しい。
おかげで酒も数倍美味しい。

  
これぞ、雷蒟蒻の楽しみ方。
120% お腹いっぱいの気持ちになる、とっておきの遊び方。


「なつきって、丁寧に生きてるなぁって感じだよね。」
なんて、よく言われたものだった。
実際のわたしの心情は全くそんなものではなかったから、
穏やかさに憧れて、取るに足らないものたちに潜り込むようにして、
落ち着きのない不安定な心を一点に集中させようとし続けた。
そうして言葉を紡いでいた。

「食」で有名な日本のおばあちゃんたちがいる。
佐藤初女さん、辰巳芳子さん、若杉ばあちゃん、東城百合子さん。
みなさん素晴らしいご活躍で、多くの人々に食やイノチの大切さを伝えてきた。
3年前に94歳で亡くなられた初女さんが、わたしは一番好きだった。

長年、食生活が崩壊していたわたしは、
自分の生き方が、他のイノチに恨まれるような生き方をしているとしか思えなかった。
彼女らのように「食」を愛せる人間になりたかった。愛されたかった。
愛し愛されるための格闘だなんて、面白いなぁと思う。

でも、創作っていうのは往々にして、
ある種の格闘の末の産物なんだろうなぁ。

しかしこういうのは・・レシピ本ではないかなぁ。(笑

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