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「自助」と「自己責任」と「自業自得」

今年の元日、イグナチオ教会で新型コロナ災害緊急アクションが主催していた「年越し大人食堂2021」にお邪魔してきました。

20~70代までの方々が訪れ、小さなお子様連れ、命の危険から日本に逃れてきた海外出身の方の姿もありました。「とにかくすべてに困っているから、何から相談して何をしていいのか分からなかった」と、アフリカのある国から逃れてきた女性は語ります。

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(次の日の配布に向けて準備を進める支援者さんたち)

年明け前後はコロナ禍でなくても、日雇い仕事がなくなったり、役所が閉まったり、不安定な状況にある方々が路上に押し出されてしまいがちな時期です。東京都豊島区の窓口は年末年始も開いていたとのことですが、本来こうした活動はもっと、「公助」でカバーされるべきものではないでしょうか。

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(海外出身者の方の相談を受ける支援者さんたち)

1月27日の参院予算委員会で、菅義偉首相は定額給付金の給付について「予定はない」とし、「最終的に生活保護がある」とも語っています。

もちろん、生活保護は大切なセーフティーネットであり、昨年厚生労働省の公式サイトにも、生活保護は権利であること、誰にでも必要とする可能性があること、ためらわず相談してほしい、ということが記載されました。

ただこのコロナ禍で、生活保護に至る前のセーフティーネットは十分なのか、そして生活保護自体が、適切に運用され、窓口でしっかりと対応できているかどうかは問わなければならないと思います。

私が以前取材させてもらった20代の路上生活の男性は、生活保護を申請しに行ったものの、「まずは仕事を探してきて」と、ハローワークに行くよう指示され、ハローワークでは「住所と連絡先がないと…」と、また役所に戻るように言われ、二度目に訪れた役所の窓口では「求人誌が無料で手に入りますよ」と、埒が明かなかったといいます。

支援者さんが提言をしたり同伴したりするなどして、こうした”水際作戦”を減らしていけるよう努めてきました。

実は私にも苦い経験があります。私は小学校の時から母子家庭で育ってきましたが、母がパートと新聞配達の仕事をかけ持ち、学校も学費減免など柔軟な措置をとってくれたため、進学したい学校にも進むことができました。ところが母が癌を患い、他の疾患も発症したことから、生活保護の申請を検討しました。けれども役所の窓口で「それらしい理由」を並べられ、結局は申請を諦め、母は無理をして働いた時期がありました。

今思うとまさに”水際作戦”だったのですが、当時は支援団体の存在も知らず、「役所がそういうなら、そうなんだろう」と、鵜呑みにするしかありませんでした。そして、公助からはじき出されてしまう、ということは、想像していた以上に突き落とされた感覚を心に植えつけるものでした。

とにかく生活をつながなければならない場合、「他の相談窓口はないか」「他の情報はないか」と調べる余裕がない場合もあるはずです。

だからこそ公的な機関が声を大にして、あるべき運用の形を周知していく必要があるのだと思います。

また、「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんたちが提起しているのが、「扶養照会」の問題です。

昨年訪れた別の相談会では、所持金が数十円となった状況でも、生活保護を受けることに強い抵抗感を示す声もありました。その背景は複雑ですが、「つくろい東京ファンド」が年末年始に行った調査によると、利用しない理由として「家族に知られるのが嫌」という回答3割をこえ、最も多かったといいます。

生活保護の扶養照会の範疇は広く、配偶者、親子、兄弟姉妹、場合によってはその他の3親等内の親族に対して照会があることが、1月28日の国会でも問題視されました(予算委員会、5:20:00頃からの答弁です)。

厚生労働省からは、DVや虐待があった場合は照会をしないこと、20年以上音信不通である場合や、親族が70歳以上の場合など、明らかに扶養が見込めない場合は照会をする必要がないことを各自治体に通知しています。

それでも、この「扶養照会」を盾に、申請を諦めさせようとする自治体も一部見受けられるようです。

その上で「つくろい東京ファンド」は、

・扶養照会を実施するのは、申請者が事前に承諾し、明らかに扶養が期待される場合のみに限る。
・生活に困窮している人を制度から遠ざける不要で有害な扶養照会はやめてください。

この2点を主に求め、署名活動を行っています。

菅首相は1月8日の「報道ステーション」出演時、失業保険を受けられない人々のことを問われても、日本の失業率は先進国の中で低い水準だということを強調しています(1月7日の記者会見でも同様の発言があり、それを繰り返した形です)。

ただ、”コロナ失業”8万人の実態はすでにあり、雇用調整助成金で何とか生活をつないでいる方も少なくないはずです。そうした人々にとっては、失業保険を受けられないという現状は、命を左右する問題でしょう。その声を「他国と比べて低い」で覆うのは、命を軽んじることになってしまわないでしょうか。

昨年から強調されている「自助」という言葉は今、事実上の「自己責任」になり、「自己責任」は「自業自得」とほぼ同義になってしまっていないでしょうか。

生活保護を巡っては過去、国会議員からバッシングや攻撃の対象にする発言が相次ぎ、生活保護を受けることへの差別や偏見が助長されてしまったこともあります。それは困窮する人々に、保護を受けることがまるで「恥」であるかのような意識を植えつけ、助けを求めることをためらわせてしまうものでしょう。

今すべきはむしろ逆で、厚労省のサイトに掲げられている「生活保護は権利であること、誰にでも必要とする可能性があること、ためらわず相談してほしいという発信をさらに広げ、適切な運用がなされていないのであればそれを正していくことではないでしょうか。

※生活保護における親族の「扶養」は、正確には「義務」ではなく「保護に優先する」ものであることを、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長、大西連さんがまとめています。(ここに続く8つの連続ツイートをぜひ読んでみて下さい。)

※参考:路上脱出・生活SOSガイド


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