見出し画像

カフェ・オ・レが冷める前に

告白はタイミングが大事だと聞く。それとプロポーズも。

僕は自分にホットコーヒーを、彼女にカフェ・オ・レをいれた。
「無理に全部飲まなくていいから」
「じゃあ量減らしてくれてもいいのに」
「そしたら足りないって言うじゃん」
この会話が何度繰り返されたんだろうか。
何度、彼女が家に来て他愛もない会話で終わったのだろうか。何度後悔しただろうか。

思い返すといつも思う。今日こそは、と。
そんな事を考えながらコーヒーを啜ると、今日は彼女の方から話を振られた。
「私、実は今日報告があって遊びに来たの」
「報告?」
「そう。あ、亮太知ってるかな?慶くん。中学の時同じ部活だった、長谷川慶」
「覚えてる……けど」
僕は嫌な予感がした。わかっていた。石橋を叩きすぎたんだ。その結果だ。
「慶くんとお付き合いする事になりました」
「あ、そうなの?おめでとう」
「もうちょっとお祝いしてくれても良くない?……え?亮太?」
ただただ一緒にいて楽しい、そんな時間を過ごす彼女との日常といつ告白しようかとドキドキする瞬間ももうやって来ないんだ。そう思うとゾッとしたし、悔しくなった。
僕の方が先に彼女の良さに気付いていたはずなのに。

「亮太、何泣いてんの」
彼女は不安そうな表情に苦笑いを付け足したような表情で僕に言う。
「泣いてないよ」
「いや、泣いてるよ。ティッシュは?」
「あかり」
僕は駄目元で彼女の名前を呼んだ。
「なに?」
「俺、お前のこと好きだよ。多分、長谷川より先に好きだったよ」
彼女の表情があからさまに曇る。
「遅いね。いつもいつも。LINEの返信も折り返しの電話も。告白も……私も亮太のこと好きだったのにな」

彼女は初めて僕の家でカフェ・オ・レを飲み干して帰った。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?