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あんたは何者なんだよ

なんでも好きになれてしまう。
辛い仕事も、嫌な先輩も。
好きなところを見つけ出すことが出来る。
便利な性格で助かる。
仕事はしんどくならないし、人間関係も苦労しない。愚痴もこぼさずに済む。

ただ、恋愛においてはこの性格は面倒だ。
恋愛対象で好きなのか、尊敬で好きなのか、愛なのか恋なのか、自分ではわからない。
「それってみんな好きってこと?」
「うん、なんか嫌いな人いないんだよね。この言動嫌だな、みたいなのはあるんだけど」
親友と話すこの時間が、たまらなく好き。
花火が映えそうな夏の夜。
2人はベンチに座り、ロング缶を手に語る。

「元カレは?」
「それは嫌い。めっちゃ嫌い」
「いるじゃん、嫌いな人」
親友はわたしを深掘りしている。彼女の表情から私を楽しんでいるのが見えた。

「成長を諦めた私のことをずっと好きでい続けられる神経がわかんない。あと私のことを好きじゃなくなった奴は嫌いだよ」
「本当にあんた、訳わかんねえやつだな。自意識過剰で自信過剰で、承認欲求高めでメンヘラなのかと思いきや……」
親友はゆっくりと話をフェードアウトさせるようにして止め、私の顔を見つめ続けた。
「何よ」
「あんたみたいな訳わかんねえ奴と友達になれたおかげで、会社の人がジャガイモに見えてる。ありがとう」
そう言って帰ろうとする親友を駆け足で追いかけた。
「……ちょっと!それって褒めてんの?ねえ!」

「大丈夫、私はあんたから逃げたりしないよ。あんたのこと嫌いにならない。恋愛的な好きっていうのは私もわかんないけど」
「うん。やっぱりこう点と点が結ばれて線になる感覚なのかな」
「タイミングでしょうね、恋した時点ではわかんないんじゃないのかな。まだ」
「何が?」
「恋した時点では、その人のことを愛してるかわかんないってこと。付き合って時間を共にするにつれて、愛っていうものはわかっていく気がする」

私たちのこの時間は何を産むんだろうか。


「やっぱ、一途とか難しいわ。比較対象ないと買い物できねぇし」

生産性のない時間が、夜が、ただ月が綺麗であることで締め括られた。

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