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セロトニン、恐るべし

うつ病からくる倦怠感やメランコリックな感情が、モノを書いたりシャープな意見を表明するのに一役買っていると信じていた時期がある。この絶望感こそが飯の種、的な思い込みだ(いや、私はこれまで執筆や創作活動で生計を立てたことはない)。

とんだ勘違いである。うつ病が酷い時は、モノを書いたりなど、とてもできない。こうやってコンスタントに文章を投稿できているのも、うつ病の症状が和らいでいるからである。過去の自身の傾向から判断して間違いない。

本当に絶望している時は、それを踏み台に飛翔して創作物を提出することなど、脳科学的に極めて難しいことだ。

世の絶望をテーマに取り扱った物語やコンテンツの作者は、間違いなく、現在はそれなりの健康を保持しているはずである。

真にボロボロの精神状態で、まともな社会生活を営めないまま作品を発信している作者など、おそらくいない。かつてはそういう状態から、何らかの方法で這い上がってきた経緯は真実であると思うが、“たった今”はビジネスの現場に耐え得る精神と肉体を武器に、“戦える己”を備えたファイターだ。

だから、彼や彼女がAmazonの欲しい物リストを公開していたとしても、それらが生きる死ぬの切迫感を伴っているわけもなく、ある種のプロモーションや演出である。それもわかった上で、援助を申し出る楽しさを、エンタメやカタルシスに昇華するのならばともかく、危ういレベルまで自己同一化を図るようなことはしない方が良い。あなたからの助けがなくても、すでに彼や彼女は絶望を“通り抜けて”いる。期待するようなレベルの困窮には陥っていない。

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さて、今日も今日とて、健常と病人の狭間でたゆたっている私は、青空に誘われるまま、見知らぬ駅に降り立ち、あてどない散歩に勤しんでいた。セロトニンを分泌させながら、物思いに耽ると、なんだかやはり報酬目当ての経済活動に加わりたくなる。

素直に仕事をしたいと書かないのには、理由がある。振り返れば、約10年かけて働くことに失敗した。ゆっくりとメンタルを壊していき、ついには先の見えないうつ病トンネルの中にいた。

報酬を“金”に限定していったとしても、そこから一歩も動けない現実がある。金を得るために、何らかの就労システムに乗ってみたとして、いかなるパターンにおいても、それに自身を適応させることができないのである。社会が悪いとか、自分が異常だとか、そんなことはどうだっていい。私が向き合わねばならぬのは、とにもかくにも、働くとメンタルを病む、という結果である。

大学を中退してから、正規、非正規、自営業、と一通り経験した。頭を使うオフィスワークも、体を使う肉体労働も試してみた。結果はどれ1つとしてものにならず、就労不能のおじさんが、都会の片隅にまた一人産み落とされただけである。

このような自分にとって、生活保護を受けることとは、資本主義社会の枠組みからの完全なドロップアウトを認めることであり、同時に“金”からの完全な開放でもある。ここまで落下することにより、逆説的に、人間としての尊厳のようなものが回復してくるから面白い。

報酬が欲しい。対価を前提とした活動をしたい。それに見合う“善きこと”を行いたい。

人の役に立ちたい、という根源的な欲求のパワーには恐れ入る。

生活保護は、我が国が備える最高の“赦し”のシステムだ。金が稼げなくとも、社会経済に参加する権利を担保するのだ。それは単純に、給付された保護費であろうとも、近所の店で買い物をすれば、その金が社会を巡り巡るという話だけではない。

“金”に加工される以前の、原始的で生身のままの“感謝”や“貢献”の獲得というレベルまで立ち返り、生き方そのものを模索する機会を与え得るのが、「働かなくても生活費が支給される」という生活保護の制度だ。

どうすればそれが“金”になるか、という、一般的には避けることができないプロセスを、一旦脇に置いていくことを赦すのが生活保護である。

金にならなくてもいいという前提ならば、できることの幅はぐっと広がる。極端な話をすれば、道のゴミ拾いをするだけでも、立派な社会貢献であり、善行である。ただそこで生きているだけで、家族の愛を救う命だって、この世にはある。

もう少し、斜に構えたことを書き連ねようと思っていたが、なんだか素直に耳障りの良いことしか出てこなかった。

これもきっと、高い高い、澄んだ青空のせいだろう。セロトニン、恐るべし。

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障害者手帳を取得すると、地下鉄が半額で乗れる。しかも年に4万円の助成まで受けられる。実質乗り放題みたいなもの。生活保護の経費申請のように、合理的な理由も許可もいらない。自由に気ままに使える交通費だ。

障害者年金と違い、手帳は比較的簡単に取得できるのでオススメである。交通費の助成だけで、病院から診断書を取る費用くらいは軽く元が取れる。

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