『ヒーローショー わたしが躓いたすべてを当事者研究から眺める』―第1章.09

それから、この時期に私はインターネットにハマり、自作のブログサイトを立ち上げました。この時、自分の生活のことや、もやもやを吐き出せる場所は、ブログしかなかった。ブログに自分の胸の内を文章にしてアップしては、ネガティブな思考の反芻をしてしまっていました。本来なら気持ちや思考の整理に使えた筈の手段で、私は逆の方向へと向かってしまいました。ブログを書く→読み返す→「やっぱり私は○○に違いない、○○するべきだ」という決め付けや思い込みに走る→もやもやする→ブログを書く…。またしても負の連鎖にどっぷりと浸かってしまったのです。この頃に私の中で、“消えてしまいたい”、“死んでしまいたい”という感情が生まれました。そしてこの時期になってやっと、“うつ病”、“精神疾患”、“メンヘラ”などの言葉を知ったのでした。
 ネットの片隅で、「うつ病診断」などの、簡単な目安としての診断サイトなどをよく目にするようになり、自分もやってみました。毎日憂鬱ですか?眠れませんか?食欲は、ありますか?虚しくなる時はありますか?自分が無価値に思えてしまいますか?…などの項目の最後に、
「死んでしまいたいと思うことはありますか?」
「実際に死のうと計画したり、実行したことはありますか?」
という2つがありました。私は初めて自己診断をやった時、“死んでしまったほうが家族の為なのではないだろうか”などと毎日のように考えてしまっていたので、前者の項目に当てはまっていました。はじめの頃はまだ、そんな診断サイトをあまり鵜呑みにはしなかったけれど、“メンタルサイト”というジャンルのブログや自作ホームページを発見してから、私と同じようにネガティブな日記をアップする人々も沢山居ることを知り、私ももしかして、うつ病なのでは?と感じるようになっていきました。そして、
「私とおんなじような人達が居る…!」
と半ば泣き出しそうな感じでした。そんな人達が自称する、“メンヘラ”という言葉にも引っかかったのです。
「そうか、もしかして私もメンヘラなのかな?」
と思い、自身でも“メンヘラ”を名乗るようになりました。
「メンヘラ」とは主に、精神疾患を抱えた人達の総称のようなものなのですが、当時から今に至るまで、その総称の扱い方に少しズレがあるように思う。まず、精神疾患持ちの人の多くは自ら「メンヘラ」なのだとはなかなか公に公言しないということ。そして、「病んでる」「鬱だわー」などと軽々しく口にする若者がとても多い点。そんな若者達が何も知らない人達から「メンヘラ」と呼ばれたり、また逆に、何も知らないままに自身で「わたし、メンヘラだわー」なんて言ってしまっている。つまり、病気でもないのに、「メンヘラ」と呼ばれたり自称したりする若者があとをたたない現状があるのです。私はどうやらそんな若者の仲間入りをしてしまっていたようなのでした…。(結局後々本当にうつ病になってしまうわけなのだけれど…)

軽々しくも自身を「メンヘラ」と名乗り、これまた「鬱サイト」と総称される部類の自作サイトを立ち上げて、同じような悩みを抱えた人達とばかり、ネット上で交流していました。ネットの世界に嵌まり込み、毎日のように夜更かししてもいました。真っ暗な気持ち、真っ暗な部屋の中で、眩しく光っていたのは携帯電話の液晶画面だった。そうしたネットでのやり取りは、楽しくはなかったけれど、楽だった。同じようなことをブログに書いている人達とだけ関わりを持つことで、当時の自分をどこか受け入れてもらえているかのような、また、どこか許されているんじゃないかというような錯覚があったから。駄目な自分を自分で正当化する、とまではいかないものの、どこかで安心したいような、肯定されたいようなそんな気持ちもあった。指摘や批判、否定という概念から逃れることが出来てしまうので、現実逃避が捗ったし、人間関係も楽だった。少しでも気に入らなくなったり飽きたり、摩擦や衝突が起きたら、簡単に匙を投げて縁を断ち切ることが出来たからなのです。簡単に関係を絶って、また新たに別の相手を探すことが出来てしまうネットの仕組みに、まんまと嵌ってしまっていたのでしょうか。ネット上だけの関係とはいえ、あまりにも偏ったコミュニケーションの取り方だ。もともと、現実世界での人間関係がうまく出来なくなっていたから、私にとってはネットの、それも「鬱サイト」界隈での人間関係は都合が良かったのです。
 今思えばここにも思考の偏りを悪化させる要因がありました。一部の人達と、限られたジャンルの中だけで繋がり、偏った会話のテーマしか用いない。それはとても不健全なコミュニケーションのやり取りであり、また、自身への思い込みや決め付け思考を深めることにも繋がってしまうのでしょう。狭い世界、狭い価値観。そのようなものに本当の救いは無いのに、気付きもしなかった。

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