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わくわくが止まらない書評を書くためには。―楠木建『戦略読書日記』

書評や本の感想文は、インターネットを探せばあまたに転がっている。週末の新聞を読めば、書評欄があるし、本屋に行けば、著名人が書いた書評集が売っている。

僕は、書評によって、自分が知らなかった本の存在を知る。その点では、書評は僕にとって欠かせないものだ。

書評は役に立つが、書評を読むことはつまらない。多くの書評は、字数に制限があるためか物足りない。非常に淡泊な印象を受ける。

しかし、数ある書評の中でも、僕が「こんな書評を書いてみたい」と憧れる書評集がある。楠木建さんの『戦略読書日記』だ。

楠木さんは、競争戦略を専門にする経営学者だ。「よい戦略にはストーリーが不可欠」という考えを基に書かれた『ストーリーとしての競争戦略』が、多くの人に読まれている。

『戦略読書日記』は、自身の著書を含めた22冊を取り上げて、書評を行ったものだ。

この本は、読めばとにかくわくわくが止まらない。

なぜわくわくするのか。それは、本の紹介だけではなく、楠木さんが本を通して何を考えているか、ところせましと書かれているからだ。

先に紹介した通り、楠木さんは経営学者であり、経営論や戦略論に関する本を出している。

この本で紹介されている本には、経営者や経営学者の本もあるが、その他のジャンルの本もある。経営学に関係ない本に関しても、楠木さんは、経営論や戦略論に落とし込んでいる。

この本は、書評の枠を超えており、楠木さんの思考の過程がすべての本の書評から読み取れる。単に読んだ本が紹介されているだけでなく、楠木さんの頭の中をのぞけることが特徴だ。

本を読み、その本の内容を基に、思考する。読書家は、かくありたい。そう思わせる一冊だ。

楠木さんは、思考において、抽象と具体の往復を大事にしている。この往復を素早く行える人が「頭のよい人」だと定義している。これができるから、他ジャンルの本から本質を引っ張り出し、経営論や戦略論に落とし込むことができるのだ。

僕は、読書が好きだが、本を読み終えて満足してしまうことが多い。それもストレス解消になるので、役に立ってないわけではないが、何か一つくらい本の内容を持ち帰りたいものである。

楠木さんの書評を読んでいると、競争戦略論というメガネから本を読んでいるので、一本軸が通ったように感じられる。

「メガネ」と「軸」というのは、楠木さんのようにわくわくする書評を書くために大事なものだと思う。

自分がどんなのメガネをかけて、本を読むか。例えば、サッカーというメガネをかけて読むとすると、「それはサッカーにとっては何であるか・何の役に立つか」が書評に落とし込まれる。これで一本軸ができる。

僕の場合だと、一番かけやすいメガネは「サッカー」になるかもしれない。すべての本をサッカーに落とし込んでいけたら面白いだろう。

もっと簡単に「仕事に役立つか」というメガネでもいいかもしれない。しかし、それはあまり面白くない気もする。

もう一つ、わくわくする書評を書くために必要なのは、フォーマットだ。フォーマットが確定することで、内容に注力することができる。どのように書くかに悩んでいる時間は、もったいない。もっとも今、この書評は、どのように書くか迷いながら書いているわけだが。

どんなフォーマットで書けばいいかは、以下のnote記事が参考になりそうだ。

この本を通して、楠木さんが口酸っぱく書いているのは、経営における「センス」の重要性だ。

楠木さんは、センスを以下のように定義している。

センスとは「文脈に埋め込まれた、その人に固有の因果論理の総体」を意味している。平たく言えば「引き出しの多さ」。

楠木建『戦略読書日記』より

センスは、スキルとは違う。スキルは、目に見えて分かりやすいため、みんながすぐ飛びついてしまうものだ。

僕も、キャリアに悩んだときにはすぐに資格を取ろうとか、あれやこれやを勉強しようと思ってしまう。それも必要なことであるが、スキルだけ身につけても、結果を出せるわけではないことが重要だ。

小林信彦『日本の喜劇人』の書評で、楠木さんは以下のように述べている。

あのスキルも大切、このスキルも大切、だから全部スキルアップしていきましょうとなると、センスが向くべき方向がわからなくなる。第一どこまでやってもキリがない。自分のセンスとスタイルに忠実に自分の立ち位置を見つけて、そこを自分の土俵として勝負しようとすれば、渥美清のように目の前の仕事を平気で断るとか、由利徹のように人気が出ても下品な芸風を一切変えないといった前向きな割り切りが必要になってくる。

楠木建『戦略読書日記』より

自分のセンスやスタイルとは何か。それを見つけるには、仕事や日常で試行錯誤する必要がある。こうやってnoteを書くことも試行錯誤の一つになるだろう。

書くことは、己を知ることだ。

スタイルが確立され、センスが何かわかってくると、それが自分の軸になり、書評などの文章もわくわくするものが書けるようになるのではないだろうか。

書評を書きたいと思っている人にも、仕事に役立つことを吸収したい人にもおすすめの一冊である。

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