見出し画像

本物ではないけれど

ある日のこと。
おふたりさんが突然こんなことを言ってきた。

「ねじちゃん。私たち、恵比寿さんになりたいの」

どうやらまたどこかで影響を受けてきたらしい。恵比寿さん…あぁなるほど。七福神だね。でもなんで恵比寿さまなんだろう?

「あのね、鯛を抱えたいの」

鯛?たしかに恵比寿さまは釣竿と鯛を持っていた気がするけど。

「だからねじちゃんにね、メインの鯛と恵比寿さんっぽい服を用意して欲しいの」

おやおや難しい注文がきたぞ。まぁでもふたりの頼みならしょうがない。可愛いふたりの為、私はその準備を引き受けることにした。

ー数日後。

「あのね、ごめん。鯛、なかったの。だからこれで許してね」

私がふたりに渡したのは「鯛」ではなく「たい焼き」だった。そう、鯛を手に入れることができなかったのだ。でもさすがにメインがないのは申し訳ないと思い、とりあえずたい焼きを買ってきたわけだ。

最初こそ残念がっていたふたりも、美味しそうなたい焼きを目の前にしてはさすがに勝てなかったようだ。そしてモジモジしながらそっとたい焼きを抱えると、ぽつりとこう言った。

「あれ。なんかすごいしっくりくる」

しっくり&しっくり


どうやらふたりはたい焼きを抱えるのを気に入ったらしく、その後の撮影会も大いに盛り上がった。そんなふたりの姿を見て私も心からホッとする。でもなんで「恵比寿さま」だったのかなぁ。

「それはねぇ鯛を抱えている凛々しい姿に憧れたからなの。恵比寿さんの真似をしたら同じになれるかなぁって。でもやっぱり本物にはなれないよね。実際手にしてるのも美味しいたい焼きだしね。でもね、たしかに本物ではないけれど、なんかいいなって思ったの。それにたい焼きを配る神様がいたらすごく素敵だなぁって。たい焼きを配る神様はね、弱っている人や元気のない人にね、たい焼きをあげるの。かっこいいよね。本当にいたらいいなぁ」

本当だね。たい焼きを配る神様、かっこいいかも。もしも困っている人がいてその人にたい焼きを渡すことができれば、たとえそれがどんなに小さなことだとしても、その人にとって何かの一歩になるかもしれない。たい焼きを配る神様かぁ。本当にいたらいいなぁって、私も思うよ。

「じゃあその神様に出会えるまで、その役目はおふたりさんが頑張るっていうのはどうかな?ということで、おふたりさん。これからも張り切っていこー!」

私がそう言うと、おふたりさんはたい焼きを頬張りながら嬉しそうに「おー!」のポーズを決めたのでした。

「渡せる」のは、相手がいてくれるからこそ。


おふたりさんと私のちいさな日々の記録
今日はこれにておしまい。



ちなみに本物の鯛を楽しみたい方はこちらをどうぞ♬
へんいちさんが腕をふるっております!


ではまた。

この記事が参加している募集

note感想文

私の作品紹介

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

最後まで読んでいただきありがとうございます🐨! いただいたサポートは創作の為に大切に使わせていただきます🍀