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逃げるチョコレート #シロクマ文芸部

チョコレートが、逃げた。

「待ってよ。何で逃げるの」

逃げたのは昨夜私が作ったチョコレート。
なのにチョコレートは平然と私の声を無視する。

私にとって記念すべき初めての手作りプレゼントになるはず、だった。
といっても料理は上手じゃないから、溶かしたものを型に流して
固めただけのチョコレート。
それでも大好きな先輩の為に心を込めて作ったものだった。

でも何故か今私はその自分の作ったチョコレートを追いかけている。
どんなに頑張っても逃げ足が速くて捕まえられない。
(自分で作ったチョコレートに逃げられる私って…)
そんなことを考えながら、私は昨夜の自分を思い出していた。

私は叫ぶ。

「一生懸命作ったんだから返してよ!」

なぜだろう。全く捕まえられる気がしない。
これは「自分は渡されることはない」と悟ったチョコレートの
最後の悪あがきなのだろうか。

「私だって本当は、渡したかった…」

勇気がなかった。
やっとの思いで学校へ持って行ったけれど、小心者の私は
チョコレートを渡せないままもう諦めて帰ろうとしていた。
すると突然チョコレートが私の鞄から脱走したのだ。

渡さないとはいえ、逃げたチョコレートを
そのまま放っておくことはできなかった。
家に帰ったら自分の部屋に引きこもってメソメソ泣きながら
ひとりで食べようと思っていたのだから。
自分のこの想いを成仏させるために。

捕まえるのに必死だった私は今自分がどこを走っているのかも
わからないまま夢中でチョコレートを追いかけていた。
そして追いかけている間、私の中では
先輩に渡せなかった後悔ばかりが募っていた。

私だって渡したかった。
伝えたいこともあった。
でも自分に勇気がなかったせいで。

(本当は…本当はまだ諦めたくないのにっ…!)


追いかけっこの終わりは突然やってきた。
私からあんなに逃げていたはずのチョコレートが
ある場所に来て急に立ち止まったのだ。

そしてそこにいたのは…


チョコレートがそこで初めて口を開いた。

「ほら。連れてきてやったよ」


私はやっと掴まえることができた。
それもまたすぐに私の元から離れていくけど。
でも、それでいい。

もう後悔はしたくないから。


【おしまい】

***

今週のシロクマ文芸部でした🐨


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