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小さな巨人 【春ピリカ】

双子が家出をした。

いなくなってからもう三日になる。
けれどすぐに探すことはしなかった。
それは、双子なんかいなくても
なんとかなるだろうと思っていたから。

双子が家出してからの僕は、ふらふら、ゴツン。
転んでばかりいる。
何で急にバランスがとれなくなったのか?
ゴンっ。いてっ。
一体何なんだ。うまく歩けやしない。
思えばこれは双子がいなくなってからだ。

僕はよく足の小指を馬鹿にしていた。
重要性が低いくせによくぶつけるのだから腹が立つ。
つい最近もまた僕はいつものように小指をぶつけた。
しかしこの日はどうにもイライラが収まらなかった。

「こんなに邪魔なら足の小指なんかなくていい」
「そもそも小指なんかなくたって何の問題もないんだ」

僕は小指に向かって何度も何度も言った。
その翌日からだ。
双子の小指がいなくなったのは。

あの小さな指が欠けただけでこんなに大変だなんて
正直、意外だった。
それにしても双子は一体どこへ行ったんだ。まったく。
つい友人に愚痴ってしまう。

「小指がないとほんと困るんだぞ。わかるか、僕のこの気持ちが」
「そんなの知ってたよ。でもお前はいつも『小指なんておまけだ、何も役に立たない』って言ってたんだ。そりゃ小指も家出したくなるに決まってる」
「帰ってくるかな…」
「さぁ?どうだろな」

僕は何もわかっていなかった。
なにが「小指はおまけ」だ。
いっぱい助けてもらっていたくせに。
小さいからって僕は小指のことを見下していたんだ。
僕はほんと、最低な人間だ。

いなくなった双子のことをぼんやりと考えていたら
突然視界が歪み、体の力が抜けていくのを感じた。
あぁ僕はこれから一体どうすれば…

・・・

気がつくと僕は保健室のベッドの上にいた。
どうやら階段から滑り落ちたらしい。
目撃した人の話では僕は階段を踏み外した後すぐに
「両足で踏ん張った」ため、大事に至らなかったそうだ。

こんなこと今まで一度もなかった。
でも今の欠けている僕なら当然のこと…か。
これからも僕はこんな風に危険にさらされるのだろう。
あの小さな指に僕はどれだけ支えられていたのか。
そう思うと同時に涙がこぼれた。

「僕が悪かった、悪かったよ。ごめん…」


ズキン。

その時、感じるはずのない場所に痛みを感じた。

「あ、この感じ…」

靴下を脱ぐとそこには
もう会えないと思っていた小指がいた。
恐る恐る触ってみる。
あぁまさしくこれは僕の小指だ。

「こんな僕の所に…帰ってきてくれたのか?」

あまりの嬉しさに僕は双子を手で抱きしめた。
すると双子はきゅっとうずくまり僕のその手に応える。
それが僕にはなんだか仲直りの握手のように思えてつい顔が綻ぶ。

「許してくれてありがとう」


それから僕らは一緒にスキップをした。


(1100字)

***

こちらは春ピリカグランプリの応募作品となります。







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