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【小説】2人のママ〜棗藤太〜

「……ん……」

やさしいやさしいひかり。

めをさますと、はねのはえたおともだち。

「よう。みじかいしゅぎょうだったな。」

「っていうか、せっかくやどしてやったのに、すうしゅうかんでだめにするなんて、バカなははおやだな。」

「ママをバカ言うな!!」

ひっしにだかれたうでのなかでジタバタしたけど、おともだちははなしてくれない。

「ま。もうさんにんもこどもはいたんだ。おまえのことなんて、すぐわすれるさ。かわいそうに…こんどはやさしいママにであえるといいな。」

「…そうなんだ。」

ママは、パパは、すぐにぼくのこと、わすれちゃうのか…

そうだよね。だってぼくは、かおもからだもない、たましいだけのそんざいだったもん。

おぼえててくれる、わけないか。

すこしかなしかったけど、すぐにおともだちのおとうさんが、あたらしいママをさがしてくれるから…いっか…

そうじぶんをなぐさめて、ぼくはおともだちといっしょに、おそらにかえった。

おそらでのせいかつは、あいかわらずたのしかった。

あまいみずのながれるたきに、いろんなくだもののなるき。ふかふかのおふとんみたいなじめんでおひるねしほうだい。

でも、ちょっとだけ…ママのことがきになって、ぼくはそっと、おそらからちじょうをみた。

にほんのきょうとの、あかいれんがのおおきなたてもの。

ぼくのおうちになるはずだったいえがあるところ。

ひょうさつは、ならやま。

ママのなまえは「しょうこ」パパのなまえは「けんたろう」
おねえちゃんは、さんにん。
「ようこ」「ながこ」「なみこ」

ぼくはほんとうなら、このいえのたいぼうのおとこのこになるはずだったんだ。

でも、ぼくがよわかったから、ママのおなかのなかにとどまれなかったから、おわかれになっちゃったんだよね。

そして、きょうはたしか、ぼくがおそらにかえって49にち。

ちじょうでは「シジュウクニチ」といって、おそらにかえったみんなを「クヨウ」するっていうけど…

どうせ、ぼくのことなんて…

ふあんなきもちをおしころしながら、そっといえのなかをみると、パパとママとおねえちゃんたちと………しらないおじさん。

「藤次君、ごめんね。せっかくの日曜日なのに、わざわざ。」

「ええて。楢山から事情聞いたら、いてもたってもおれへんなって。高齢出産や流産なんて、ワシにとっても将来…他人事やないし…ホラ、抄子ちゃんの好きな白のマリーゴールド、墓前に供えたり。」

「うん…」

ママはうなずいて、おじさんからもらったマリーゴールドのはなたばを、ちいさなさいだんにかざる。

あれは……もしかして、ぼく?

「ごめんね。アスカ。産んであげられなくて……ごめん…」

「抄子…」

「お母さん…」

「抄子ちゃん。泣きなや。少しの間やったけど、きっとお腹の子、幸せやった思うえ?」

「みんな…藤次君…」

……ママ、泣いてる。

パパも、おねえちゃんたちも。

それに、あのおじさん……トウジ……

とってもやさしいかおをした、つぎにパパになってくれるならこんなおじさんがいいなって、ぼくはひそかに、おともだちのおとうさん…かみさまにおねがいした。

そうしたら、かみさまはぼくのおねがいをきいてくれて、ぼくはあたらしい「あやね」ママのおなかにやどり、がんばっておおきくなった。

しょうこママのおなかもきもちよかったけど、あやねママのおなかも、ふかふかできもちよくて、ときどききこえる、えほんのものがたりが、まいにちのたのしみだった。

そうしてうまれたぼくは「とうた」となづけられ、あやねママと、とうじパパのこどもとして、ふたたびしょうこママとであった。

しょうこママも、けんたろうパパも、おねえちゃんたちも、とうぜんぼくのこときづかなかったけど、ぼくはちゃんと、おぼえているからね。

…だいすきだよ。

あやねママ。

…しょうこママ。


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