【小説】2人のママ〜棗藤太〜
「……ん……」
やさしいやさしいひかり。
めをさますと、はねのはえたおともだち。
「よう。みじかいしゅぎょうだったな。」
「っていうか、せっかくやどしてやったのに、すうしゅうかんでだめにするなんて、バカなははおやだな。」
「ママをバカ言うな!!」
ひっしにだかれたうでのなかでジタバタしたけど、おともだちははなしてくれない。
「ま。もうさんにんもこどもはいたんだ。おまえのことなんて、すぐわすれるさ。かわいそうに…こんどはやさしいママにであえるといいな。」
「…そうなんだ。」
ママは、パパは、すぐにぼくのこと、わすれちゃうのか…
そうだよね。だってぼくは、かおもからだもない、たましいだけのそんざいだったもん。
おぼえててくれる、わけないか。
すこしかなしかったけど、すぐにおともだちのおとうさんが、あたらしいママをさがしてくれるから…いっか…
そうじぶんをなぐさめて、ぼくはおともだちといっしょに、おそらにかえった。
*
おそらでのせいかつは、あいかわらずたのしかった。
あまいみずのながれるたきに、いろんなくだもののなるき。ふかふかのおふとんみたいなじめんでおひるねしほうだい。
でも、ちょっとだけ…ママのことがきになって、ぼくはそっと、おそらからちじょうをみた。
にほんのきょうとの、あかいれんがのおおきなたてもの。
ぼくのおうちになるはずだったいえがあるところ。
ひょうさつは、ならやま。
ママのなまえは「しょうこ」パパのなまえは「けんたろう」
おねえちゃんは、さんにん。
「ようこ」「ながこ」「なみこ」
ぼくはほんとうなら、このいえのたいぼうのおとこのこになるはずだったんだ。
でも、ぼくがよわかったから、ママのおなかのなかにとどまれなかったから、おわかれになっちゃったんだよね。
そして、きょうはたしか、ぼくがおそらにかえって49にち。
ちじょうでは「シジュウクニチ」といって、おそらにかえったみんなを「クヨウ」するっていうけど…
どうせ、ぼくのことなんて…
ふあんなきもちをおしころしながら、そっといえのなかをみると、パパとママとおねえちゃんたちと………しらないおじさん。
「藤次君、ごめんね。せっかくの日曜日なのに、わざわざ。」
「ええて。楢山から事情聞いたら、いてもたってもおれへんなって。高齢出産や流産なんて、ワシにとっても将来…他人事やないし…ホラ、抄子ちゃんの好きな白のマリーゴールド、墓前に供えたり。」
「うん…」
ママはうなずいて、おじさんからもらったマリーゴールドのはなたばを、ちいさなさいだんにかざる。
あれは……もしかして、ぼく?
「ごめんね。アスカ。産んであげられなくて……ごめん…」
「抄子…」
「お母さん…」
「抄子ちゃん。泣きなや。少しの間やったけど、きっとお腹の子、幸せやった思うえ?」
「みんな…藤次君…」
……ママ、泣いてる。
パパも、おねえちゃんたちも。
それに、あのおじさん……トウジ……
とってもやさしいかおをした、つぎにパパになってくれるならこんなおじさんがいいなって、ぼくはひそかに、おともだちのおとうさん…かみさまにおねがいした。
そうしたら、かみさまはぼくのおねがいをきいてくれて、ぼくはあたらしい「あやね」ママのおなかにやどり、がんばっておおきくなった。
しょうこママのおなかもきもちよかったけど、あやねママのおなかも、ふかふかできもちよくて、ときどききこえる、えほんのものがたりが、まいにちのたのしみだった。
そうしてうまれたぼくは「とうた」となづけられ、あやねママと、とうじパパのこどもとして、ふたたびしょうこママとであった。
しょうこママも、けんたろうパパも、おねえちゃんたちも、とうぜんぼくのこときづかなかったけど、ぼくはちゃんと、おぼえているからね。
…だいすきだよ。
あやねママ。
…しょうこママ。
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