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宇宙論(6)

 小学生の頃、僕は鍵っ子だったので、いつも家の鍵を首からぶら下げていた。家はいつでも出入り自由だった。そのため、僕は小学校でも頻繁にズル休みをした。

 朝、起きて、朝食を食べ、学校に行くふりをして外へ出て、住んでいたアパートの出入り口から出てすぐのところにあった大きな給水塔の下に隠れた。そこからは自転車置き場が見えるのだ。そこでしばらく待機していると、母親が弟を連れて保育園とパートに向かうところが見える。そうして母親が出て行ったことを確認すると、鍵を使って部屋に入り、そのままずっとテレビを見て過ごした。そんな日々を送っていた。

 おかしな症状もあった。僕の家はアパートの3階にあったのだけれど、僕は下校してからそこまで階段で上がり、2階と3階を繋ぐ踊り場の壁に向かって頻繁におしっこをしていたのだ。流れ出した尿が踊り場の壁面を激しくゆるやかに流れていく光景をよく覚えている。これは近隣住民からも苦情が出た。当然だ。そんな不衛生ではた迷惑な行為、僕だって苦情を出す。その症状は次第におさまった。

 あとはチックのような症状もあった。顔の表情筋を動かしたくてたまらなくなるのだ。我慢ができない。それでよく変な表情をしていた。口をすぼめたり、眉毛を上下させたり、耳を動かしたり。

 また、親の金もよく盗んだ。それも数万円単位で。そのお金で仮面ライダークウガのヘルメットや、ニンテンドー64や、遊戯王カードなんかをしこたま買っていた。それはいつもすぐにバレて、父親にタコ殴りにされた。それでも僕の盗み癖は直らなかった。一度、顔に大きな青あざを付けた僕のことを心配した担任の先生が、僕の両親を学校に呼んで面談が開かれたのだけれど、先生も僕が盗んだ金額を知ると僕のことをフォローしきれなくなり、「100円とかならわかりますけど、額が違いますもんね……」と言って同情に似た声色で匙を投げた。警察署にも連れて行かれた。そこで警官は僕を優しく諭した。

 そんな僕の盗み癖も、小学五年生になるとぱったり止んだ。なぜかはわからない。ちょうどその年は僕が転校して、埼玉から愛知に住む場所が移った年だった。環境の変化も大きかったのかもしれない。よくわからない。

 僕は人のものをよく盗んだ。そういう子供だったし、それは大人になってからも大差なかったかもしれない。

(2024.4.24)

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