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論考の・ようなもの

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なけなしの語彙を使って、いろいろなものごとをつないで考えてみた。
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「人生は他者」だけど「地獄とは他人のこと」らしい

「人生は他者」だけど「地獄とは他人のこと」らしい

人生は他者だ。

西川美和さんの小説・映画『永い言い訳』で最重要となるセリフだ。

『永い言い訳』は、自分本位に生きてきた主人公が、妻の死をきっかけに、自分がどれだけ愛されてきたのか、そしていかに他者によって人生が紡がれてきたのかを理解していく…という物語である。

物語の終盤、主人公はノートにこのことばを刻み、先立たれた妻への想いを胸に他者と向きあうことを決意する。

ここでの「他者」は、主人公

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「痛み」は比べられないはずなのに。

「痛み」は比べられないはずなのに。

心やからだの「痛み」は比べられるものではない。そのひとが「痛い」と思えば「痛い」ものだとわたしは信じている。

でも、わたしはどうしても、ひとの「痛み」を比べてしまう。やめようと思っても比べてしまう。

あなたの「痛み」なんてあのひとと比べれば大したことないじゃん

とか、

あのひとの「痛み」なんてわたしに比べれば大したことないじゃん

とか。

さまざまなパターンがあるけれど、とにかく比べてし

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「そのままでいいんだよ」と中村倫也

「そのままでいいんだよ」と中村倫也

「そのままでいいんだよ」。

俗に言う「メンヘラ製造機」が使うとされることばである。

現代の日本において、このことばをもっとも発してそうな雰囲気をもつのが、他ならぬ中村倫也さんだと思う。

わたし自身、文字を打ってるだけで脳内再生されるレベル。これは相当強力だ。

現状はいくら「そのまま」でよくなくても、とりあえずあの声でささやかれてみたい。
もはや性別や年齢など関係ない。すぐ言われたい。すごく

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自粛とか不況とか渋滞とか

自粛とか不況とか渋滞とか

宣言が出たから、すいていると思って来た。

3回目の緊急事態宣言初日、渋谷を訪れたある「若者」の声として、Y新聞の社会面に掲載されたものである。

Y新聞を長年愛読しているわたしとしても、この切り取り方はさすがにいかがなものかとは思ったが、そこは今回の本題とは逸れるので割愛する。

むしろここで問題にしたいのは、「すいていると思って来た」のほうである。

この「若者」の言動は、時差出勤が普及したこ

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