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諺(ことわざ)からみる内科医、外科医、精神科医、病理医の違い:内科医について

いくつか違うバージョンがあるので、簡単なものから見ていきたい。

Surgeons know nothing but do everything. Internists know everything but do nothing. Pathologists know everything and do everything but too late.

「外科医は何も知らないが、何でもする。内科医は何でも知っているが、何もしない。病理医は何でも知っているし、何でもするが、遅すぎる。」

次は長いバージョン。

What's the difference between a physician, a surgeon, a psychiatrist, and pathologist ? The physician knows everything and does nothing. The surgeon knows nothing and does everything. The psychiatrist knows nothing and does nothing. The pathologist knows everything, but always a little too late.

「内科医、外科医、精神科医、そして病理医の違いは何だろうか。内科医は何でも知っているが、何もしない。外科医は何も知らないが、何でもする。精神科医は何も知らないし、何もしない。病理医は何でも知っているが、いつでも少し遅すぎる。」

はっきり言って極端な話であるが、的を得ていないわけでもない。1つずつ説明したいと思う。また、このことわざは、病理医の仕事を揶揄したものであるので、他の分かりやすい科と比較している。実際には他にもたくさんの診療科があり、どの診療科も重要であることは言うまでもない。


今回は内科医について

内科医は同じ分野の外科医と比較して、一般に知識が豊富であることが多いのは確かだと思う。あくまで「一般に」であり、実際には個々の医師の努力に依るところが大きいかと思うが。


諺(ことわざ)の意味するところは?

例えば、癌の治療をするとしよう。

内科医が担当するのは通常「切除できない癌」である。多くの癌で、切除できない癌は不治の病であったし、どんなに抗癌剤を使おうと、寿命が延びることはあっても、完治することは稀であった。そして、抗癌剤治療には副作用もあるし、お金もかかる。

諺は、知識が豊富で、色々手を尽つくしたって、結局は患者を救えないということを端的に示しているのだろう。


病理医さのーとが思う実際のところは?

しかし、時代は常に変わっている。

消化器の分野では、食道、胃、大腸などの早期癌や前癌病変は、消化器内科医が内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)で切除できるようになってきている。現在は、消化器内科医によって、たくさんの癌が進行する前に発見され治療されるようになっているのである。

循環器の分野では、心筋梗塞に対して手術をするよりも、循環器内科医がカテーテルで治療をすることが多くなっている。心筋梗塞は、心臓を栄養する血管(冠動脈)が詰まることによって心臓の筋肉に血液が行かなくなり、心臓が壊死する病気である。以前は、心臓外科医によって血管の詰まった部分の代わりに他の血管を持ってきてバイパスを作って血流を戻すという CABG(coronary artery bypass graft:冠動脈バイパスグラフト術)という開胸手術が一般的であった。今でも複雑な病態に対しては CABG が必要であるが、単純な詰まりに対してはカテーテルで詰まりを取り除く PCI(percutaneous coronary intervention:経皮的冠動脈インターベンション)が行われることが圧倒的に多い。PCI では手首や足の付け根の血管からカテーテルを挿入するので、傷はとても小さい。

癌治療に関しても、抗癌剤だけでなく、分子標的薬や免疫学的治療などオプションが増え、生存期間は以前よりも格段に延長しているし、完治する可能性も以前よりは多少ながら高くなっている。また、薬剤の使用法が複雑化してきているため、以前よりも最新の知識をどんどんアップデートしていくことが求められている

内科医は、少なくとも自分の専門分野に関して何でも知っていなければならないし、内科は多くの診療の入口になる科である。そのため、内科で治療するのか、外科に手術を依頼するのか、放射線科に放射線療法や血管内治療(※)を依頼するのか、病気の診断と治療方針決定の要を担っている。また、いわゆる町のお医者さんといった開業医や家庭医は(出身の診療科が何であれ)内科的なことに精通していなければならず、やはり内科は医療の中心的存在であるのだ。

※ 血管内治療(interventional radiology:IVR=インターベンショナルラジオロジー/画像下治療)は、心臓や脳といった特殊領域を除いて、放射線科医が担当するのが一般的である。


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