見出し画像

そんたく部


中学生の頃、バスケ部に入っていた。顧問は40歳位の巨漢の男性教師で、試合でミスをした選手には思い切り蹴りを入れるような、今だったらPTAが大騒ぎしそうな指導だった。
ある日の練習中、顧問が手本を見せた。敵をかわしてロングシュートを打つ。顧問が投げたボールはゴールリングに当たって、あさっての方向に勢いよく飛んで行った。
気まずい空気が流れた。この顧問がシュートを決めるところをほとんど見たことがない。薄々感じていたけど、偉そうにしているけどこいつ、もしやヘタクソなのでは?
不穏な空気が流れる中、顧問が私の方を向いて言った。
「じゃあお前、一度やってみろ」
言われた通りの動きでシュートした。ボールはリングの中に吸い込まれるように入った。それを見た顧問は、私に聞こえるように呟いた。
「え~うそ~そこ決めちゃう?練習の見本なんだから別に決めなくてもいいのに。まいったなぁもう」
あの顧問から学んだのは、バスケではなく、忖度というものだったと昨年気づいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?