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【エッセイ】鎌倉③─鶴岡八幡宮と源氏の足跡─(『佐竹健のYouTube奮闘記(30)』)

 鎌倉駅で降りた私は、その足で鶴岡八幡宮へと向かった。

 鎌倉駅を出て、鳥居をくぐり、ヒトの多い小町通りを横切る。すると、通りの真ん中に一段高くなった参道と鳥居がある若宮大路へと出る。この真ん中にある参道が、段葛だ。

 段葛という特殊な参道は、頼朝が北条政子の安産を祈願して作られた。

(そういえば、春ここ通ると桜めっちゃきれいなんだよね)

 春の鎌倉は、段葛の桜がきれいだ。

 春になると、道沿いに植えられた満開の桜が出迎えてくれる。その桜で彩られた桜のアーチの中を歩いて参拝へと向かうのが、夢見心地になれるのがいいので、春の参拝ではいつもここを通って向かっている。

 私が通る段葛は、残念ながら桜の時期を遥かにオーバーして青葉が繁っている。

 けれども、これはこれで悪くない。日が照っているときは日陰になるから涼しいし、そして緑色だから目にも優しい。


 鶴岡八幡宮へと着いた。

 鳥居の向こうには、石造りの太鼓橋、そして赤い丹で塗られた神楽殿の柱と鶴岡八幡宮の門が見えた。

 鎌倉へ行くと、いつも行くことにしている。ここに来ないと、鎌倉に来たという実感がイマイチ湧かないから。

 鳥居を一礼して敷地内に入ると、右脇と左脇に二つの池があるのが見えてくる。二つの池の名称は、右手にあるのが源氏池、左手にあるのが平家池だ。


源氏池(2021年11月撮影)
平家池(2021年11月撮影)

「源氏池と平家池」

 この二つの池には島がある。源氏池は三つ、平家池には四つ。

 源氏池に島が3つあるのは、「3」が「産」、すなわち「源氏の子孫繁栄」を意味しているからである。反対に平家池に4つ島があるのは、「4」は「し」と読むため、「死」と結びつけているからだとされている。平家池に島をわざと4つ作ることによって、平家の死、わかりやすく言うなれば、平家滅亡を祈願していたというわけだ。

 

 参道をまっすぐ歩くと、神楽殿に突き当たる。

 神楽殿の柱には朱い丹が塗られ、一部の彫刻には白や緑などで彩られている。

 そしてその向こうの石段の上には、先ほど見た鎌倉のシンボルとなっている門が見えた。

 石段を登っているときに、左側に注連縄で囲われた区画がある。

 注連縄で囲われた区画の中には、大きな切り株がある。大きな切り株からは銀杏の若木が生えている。これが、源実朝を暗殺しようとしていた源頼家の忘れ形見公暁(くぎょう。または『こうぎょう』とも)が潜んでいたとされていた大イチョウの切り株だ。

 切り株となっていることについては、13年前に倒れたと聞いたことがある。

 雪の降る1月27日。公暁はこの銀杏の木に潜み、右大臣就任の拝賀式を終えた実朝と北条義時を狙い、待ち伏せていた。

 参拝を終え、実朝が出てきたときに、

「親の仇、このようにして討つ!」

 と言って義時めがけて斬りかかった。だが、斬られたのは、供奉をつとめていた源仲章(みなもとのなかあきら。実朝に学問を教えに京都から鎌倉に来ていた公家)だった。しかも、義時の代役で彼は剣持ちの役をやっていたとも言われているので、飛んだとばっちりだった。

 公暁は仲章を斬り殺したあと、将軍であった実朝を斬り殺した。

 源実朝。享年27歳。和歌を愛し、和歌に愛された3代目の源氏将軍は、雪の降る中で甥の凶刃により力尽きたのである。

 公暁が実朝を暗殺した。この出来事については、本来剣持ちの役をやるべきだったが、突然の体調不良で辞退した北条義時や、乳母の一族である三浦義村が絡んでいるとか言われているが、実際はよくわかっていない。

 仲章と実朝を殺した後、公暁は乳母の一族である三浦義村を頼ったが、殺されてしまった。享年18歳。

 源実朝、そして公暁の処刑。この二つの歴史的出来事により、源家の男系子孫は完全に滅びてしまったのである。


(そういえば、『鎌倉殿の13人』で仲章が『寒いんだよぉ』って叫びながら階段から落ちてくとこ、本当に名演技だったよな)

 公暁で思い出したが、『鎌倉殿の13人』で生田斗真演じる源仲章の死に際がとても印象的だった。

 史実通り公暁(演:寛一郎)に斬られ、退場した。そのときに、

「寒いんだよ!!」

 という短いセリフを言い残して階段から落ちて退場した。

 短いセリフから、突然死んでしまうことへの無念や、義時ではなく自分がなぜ殺されなければいけないのか、という理不尽な運命への怒りなどを感じられるいい演技だった。


(さて、お参りしよう。時間がないし)

 私は石段を登り、華麗荘厳な鎌倉のシンボルである門を潜り抜け、本殿へと入った。そしてお参りを済ませた。

(鎌倉④へ続く)


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