溜め息

 はぁ。一体何回目のため息なのか、数えるのをやめてから暫く経つ。時々、いやかなり頻繁に、他人の幸せに押し潰されそうになる。街行くカップルや、小さな子供を連れた家族、そんな幸せの象徴の様なそれを見ると…どうしようもない劣等感に襲われ、その眩しさに目を細めるだけでは足らない。いつの間に人の幸せが、自分の不幸になったのか。いつからそれを見ない為に、視線を地に這わせて歩く様になったのか。
 はぁ、またため息を吐く。どこで得た情報かはもう定かではないのだがため息を吐くと幸せが逃げるらしい。思うにこれは不幸を吐き捨てたいが為の行動なのではないかと思うのだが、この文を目で撫でるあなたは答え持ち合わせているだろうか?それならば教えて欲しい。
 はぁ、きっとそれを言い出したソイツとは仲良くはなれはしないだろう。いや間違いない。そもそも私は誰とももう仲良くなれはしないがそれを抜きにしたとしても、どうしても件の人とは縁を繋ぎたくはない。きっとそいつは人の溜め息の訳も考えたがらず、煙たがり、どうにか目障りなる溜め息を飲み込ませるべく、そう言い始めたに互いない。と私はまぁ偏見であるがそう推る。幸せに固執する私のような人間は、幸せが逃げると聞けば溜め息を死腔に押し込む以外の選択肢を取りづらくなるに決まっている。なんとも嫌な奴だ。
 はぁぁぁああ、架空ではあるが嫌な者が脳内に存在させ、大変不快な心模様になった為少しばかり多めに吐かせてもらった。あなたに指を既に使わせてしまって申し訳ないがきっとここにはあなたの欲するものはない。不幸な者が不幸を嘆き、筆の代わりにスマートフォンを手に取り文を連ねているだけなのだ。ただそれでも読んでくれるのであれば……いや、私は読んで欲しい。ただ私の不幸に共感?同情?シンパシー?まぁその辺りの感情を抱いて貰いたい。まぁ純粋にあなたの時間が欲しい。少し無駄に時を過ごさせたい。
 はぁ、どこでこうなったのやら、それともこうなる運命だったのか。息苦しいよ。私に友達は居ない。居ないとみなして問題はないだろう。ほぼほぼ縁が切れてしまった。かつては居た。もちろん、私は今でも友達だと信じている。信じているがしかし、わかるだろう?なんとなく察しているがもう会えない。顔向けができない。かつての友に今の私は見せられないし、かつての友の幸せを私は喜べない。どうしてこうなったんだろうな。
 ああ、わかってる。全部自業自得だって。私は友と縁を繋ぐ努力を怠った。コミュケーションを怠った。勇気を出さなかった。その他諸々の全てを怠けた。罪重なり降りかかっているだけのこと。うまく話す能力が無かった。相槌が下手くそだった。素直になれなかった。それでこうなってる。この人生にこれからどうすれば光が照るのか皆目見当もつかない!
 はぁ、また、もう会えない好きだった人が頭にチラつく。今頃相手と楽しくやっているだろう。近況が耳に入ってきたのでそれは間違いのない事実だ。また肺が潰れる。私も同じくらい幸せなら良かった。同じくらい幸せだったなら、あなたの幸せを、心からよかった。と思えただろうに。
 もういっそ、空にこの身を投げてしまいたい。快晴の日の飛行機曇の様に青に溶けていきたい。
まぁ……そんな事は不可能だ。私に羽はない、ただ重力に従いそのままアスファルトの地面へ。その後死亡届を届けることとなるだけだ。
 はぁ、息が苦しい。なぜこんなにも苦しくなるのだろうか。
 はぁ、羽でなくてもせめてタンポポの綿毛でも有れば風にさらわれて遠くに行けただろうか。
 はぁ、何を言っているのだろう私は。
 はぁあああ、そして深く、息を吸うんだ。私。空の青を吸わんばかりに。
 私はこう思うよ。溜め息をするのはその次深く息を吸う為だと。間違えだとしても構わない。どうせ間違いだらけの人生だ。そんなもん珍しくないし、0点だろうともう一向に構わん。クソみたいな模範解答にはとうに飽きた。
 はぁ、そしてまた深く息を吸う。これが深呼吸。まだ、私に残っている物はある。目も見える。耳も聞こえる。味を感じる。香りを感じる。触れれば質感や温度を感じる事がまだ可能だ。文章だって拙いが書ける。死ぬとかはたぶん、全部、本当に全部失った時でいい。まだ何か残ってるうちは生きてみよう。そう思う。まだ不幸で良い、不幸で居られる余裕があるうちは、不幸で良い。
幸せになるのはきっと良いことばかりではないよ、それは不幸に鈍くなっているだけだと、私はそう考える。他人の不幸に目を背ける事が幸せなら、幸せになんかならなくていい。
幸せから一本減らしたら辛さになるくらいどうってことないさ。残り一画になるまで頑張って生きるよ。
 はぁ、ここまで読んだのか、あなたは……暇だったんだな?ありがとう。とりあえず深呼吸しよう。
未来への不安、過去の後悔も歯痒い今も溜まりに溜まったもの全部吐き出して
空の青さ、夜の闇、陰鬱な部屋な空気も、読めない空気も少しばかりの希望と一緒に全部全部吸い込んで生きよう。
 安心しろ、私はこれからもきっと不幸だ。私があなたにより不幸だから、あなたは最下位になることはない。さぁ、ここは私に任せて先に行け!一度言うてみたかったんだ。
 はぁぁ、すぅぅー、青春とかは全然知らないしな。青春と対となるなら今は冬なのか?それとも氷河期?
まぁ冬も悪くはないだろう。溜め息が白く霞むくらいなもんだ。

この記事が参加している募集

私は私のここがすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?