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若木神の真(まこと)27 (小説)(エッセイ・とんぼ)

エッセイ(とんぼ)

空。
みなさんはどんな空が好きですか。
瞬く間に変化し続ける空模様は
しばらく長い時間眺めていても全く退屈しません。
同じように見えても同じでない。
日日一瞬たりとも同じ空模様はありませんよね。
何枚も何枚も重なっていく瞬間は決して模写することができない
絵画のようです。

画家ジャック=ルイ・ダヴィッド
「皇帝ナポレオン一世と王妃ジョセフィーヌの戴冠」の絵を一度だけ見た事があります。
幅10m、高さ6メートルというキャンバスの大きさを目の前にとても驚きましたし感動しました。
ナポレオンの絢爛たる存在を示す絵の中に直様引き込まれたのを覚えています。
次に、恥ずかしながらこの絵画が2枚描かれている事を知らなかった私は
ヴェルサイユ宮殿のその部屋に入った瞬間驚愕しました。
こんなに大きな絵を二枚も描けるなんて。と。
ですが、二枚の絵は全く同じように描かれたわけではなく
画家のジャック=ルイ・ダヴィッドは細部に渡り異なる様子を描いてあります。
違いを付けるという当時の条件があったとしても
ビジネスの一環であったとしても
画家として、二枚目を描く長い時間の中でダヴィットは様々なことを
考え、考え、考え、考え。
完成した二枚目ではなかったのでしょうか。
長い時間をかけ考えることで蓄積され続けた事象
ダヴィットの絵画やあの空模様のように。
光源のような希望を私の中にも光放ちたいと思います。

♢紀元前300年。
 今、大陸の情勢は戦国の世に突入していた。
「大陸にはもはや天地陰陽(てんちいんよう)の気は失われたというのか」
「東海の彼方に浮かぶ、黄泉の国の希望」
 秋津洲。

🌿秋津先生の著書で、難しい漢字や言葉、興味を持った事などは
 辞書やネットなどで調べながらゆっくり読んでみて下さい。
 きっと新しい気づきがあり、より面白く読み進められると思います。

原作 秋津 廣行
  「 倭人王 」より

昆迩(こんじ)の表情が急に険しくなった。

 「だが、大陸ではそうは参りませんでした。
殷(いん)は紂王(ちゅうおう)の暴政によりて天帝の国は亡び
姫神の世もまた滅びました。
新たに周の天子が生れましたが、天地陰陽(てんちいんようを)敬う徳治(とくち)の時代は長く続きませんでした。
今では、天の道も地の徳も失われております。
周天子の力は弱まる一方で、群雄割拠(ぐんゆうかっきょなす)戦国の世であります。
これ地の神、母神の祈りを怠り、子安貝(こやすかい)を疎かにした報いでありましょう。
周の国では、母神の象徴である子安貝を求めることはなくなり、新しく生まれる男の子を兵士となして戦いが常の世となりました。
今では、子安貝は秋津洲と長江の上流、古蜀(こしょく)の母神の求めに応えるだけとなりました。」

 阿津耳(あつみみ)は、昆迩(こんじ)の話に耳を傾け、心を空にして聞き入った。

「大陸には、もはや天地陰陽(てんちいんよう)の気は失われたというのか。」

 昆迩(こんじ)は、静かに頷いた。

 「いかにも、われら海道の民は、大陸の異変に敏感であります。
とりわけ、この百年、黄河中原は大いなる天地の乱れ極まって、これをまとめる天子はあってなきが如くであります。
天子に代って王を名のる者たちが次々と現れました。
だが、徳を学ぶ王はいても、それは仮面をかぶった姿であり、武器と兵士を減らして、戦いをなくす王は一人としていないのです。むしろ武力を持って天子の領土を奪い合う戦いは、熾烈(しれつ)を極めております。天地陰陽(てんちいんよう)の気を求めるどころか、戦いは、内陸から沿岸地域に及び、海の民も戦いに巻き込まれるようになりました。
大陸の天地(あめつち)の乱れは、四方に広がり、わが秋津洲(あきつしま)にも及ばんと致しております。
豊浦宮(とようらみや)への襲撃はその表れに御座います。」

 「そこまで急を要しているとは、思っていなかった。」

と、阿津耳(あつみみ)は、肩を落とした。

                            つづく 28

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