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読書|柚木麻子「あいにくあんたのためじゃない」

単行本:256ページ
読了までにかかった時間:165分(全6話)

「なんでそこまでやるかって?あなたに勝手に名付けられた自分を取り戻すためですよ。自分たちの手で」

柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない「めんや 評論家おことわり」』

全6話からなる短編集。「めんや 評論家おことわり」は、過去のブログが炎上した人気ラーメン評論家を襲ういかにも現代的な復讐劇。スカッとジャパン的な要素が強く、単発ドラマにしたら面白そう!と思ったら、なんと単行本発売前に漫画化されていました(最下部にリンク有)。被害者側から見た復讐成功の爽快感はもちろん、同時に加害者側の愚かさと悲しさも描いている作品。加害者を追い詰めるだけではないところに「寛容」が感じられて、まさに今の時代に必要な物語なのではと思う。

「BAKESHOP MIREY’S」「トリアージ 2020」「パティオ8」は女性同士の連帯を描いたお話。揶揄されがちな女性同士の関係を、良い部分も難しい部分もそりゃ当然あるよねと肯定してくれる。無意識の偏見を取り除いてくれるフラットな眼差しがとても心地良い。「スター誕生」も、"MCワンオペ"のラップ部分がとにかく可笑しくて、思わず口ずさんでしまいそうになった。

そして、もっとも印象に残った作品が、「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」。ありますよね?めくるめく早さでテナントが入れ替わっていくこの時代に、人気店でもないのになぜか潰れない昔からずっと商店街にある謎のお店。キラキラ輝くブローチとか置物とか洋服とかを置いてるちょっとカビ臭い、誰も買ってる人を見たことのない、売上があるのかどうかさえ疑わしいお店。そんな売れない婦人向け雑貨店を舞台にした少し不思議なお話。世にも奇妙的なふわっとしたミステリアスな物語がなぜか一番面白かった。何でしょうね、不思議な魅力。しかし「商店街マダムショップ」って言い得て妙。いつか辞書に載らないかな。

どのお話も20~30分で読めるので、お昼休憩のお供にでもぜひ!

柚木麻子「あいにくあんたのためじゃない」
新潮社 2024年03月21日発売


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