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「別の世界の話し。」/ショートストーリー

「今夜は泊まりにしないか。」

俺がそう提案するとまなみは嬉しそうに頷く。

「ありがたいわ。明日は仕事お休みの予定だし。今から帰るのが面倒だなって思っていたのよ。」

まなみがどんな仕事をしているのか、想像がつかない。
まなみには水商売ですと言われても、銀行の窓口にいますと言われても納得してしまうところがある。

「それでは。もう1回お手合わせしますか。」
まなみはとろけるようなキスをしてくる。
俺としてもそうしたいのはやまやまなのだが。

「すまない。実はもう少しまなみの話しが聞きたくて。」
まなみの目がまた子供になっている。

「私の何が聞きたいの。おもしろい。」

「それにお前からまなみに昇格している。私のこと好きになったとか。」

「ああ。あなた。書き物しているひとでしょう。」
まなみは本当に勘がいい。

「何でもネタにしたがるのがそういうひとたちよね。」

「でも。私の話しなんて全然普通よ。その辺にゴロゴロと転がっているわ。」

そこまでしゃべるとまなみはまたチューハイを飲み干している。

「確かに趣味で文章を書いている。あくまでも。趣味だ。」
趣味というのは嘘だ。
一流とは言わないがルポライターの端くれだ。
まあ、取り上げる内容が一流とは言えないからな。

「それで。なにをしゃべればいいの。」

「えーと。そうだな。父親についてとか。」

「父親についてね。」
支配的な父親とまなみは言っていた。
不謹慎と言えばそうなのだがとんでもない話しをしてくれる予感があった。
まなみは目をつぶって考えている。
その様子はまるでどの話が最適解なのか、計算しているAIのようだ。

その時。
俺の携帯が鳴った。
おかしいな。
サイレントモードにしてあったはずなのに。
俺は慌てて、携帯を手に取ると。。。

そこまでは記憶に残っている。
ちゃんとホテルのベットに寝てはいたが、頭がガンガンしている。
薬でも盛られて金とか盗られたかと思ったが、しばらく動けずにいた。

ようやく。
起き上がって盗まれているものはないかと調べたが、財布やカード類もそのままだった。
それどころか、小さなテーブルにメモと1万円札が2枚置いてあった。

とても端正な字で「楽しかった。ありがとう。」と書かれていた。
頭がまだ痛くてちゃんと考えられなかった。

一体彼女はなにものだったのだろう。目的でもあったのだろうか。
一生わからないと思っていたのだが。
まなみがなにものなのかは1週間後の朝のワイドショーで知ることになった。

「アメリカの新駐日大使が只今到着しました。魅力的すぎる大使と言われております。ミッシェル・マナミ・バーンズ氏です。」
彼女はまだ日本語は勉強中です。と英語でインタビューに答えていた。
メガネをかけ美しい金髪であったがまなみであることは顎のほくろで間違いなかった。

それにしてもだ。
アメリカの大使なのになぜイギリス英語なんだろうと疑問に思うのは俺ぐらいなのか。


下のお話しの続きというか別物というか(笑)


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