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「宿題。」/ショートストーリー

最近は暑くなるのが早くていつまでも涼しくならない。
冷蔵庫から麦茶のはいったポットを取り出すとコップに注いだ。
一気に飲み干してもまだ喉が渇いている感じがしている。

息子がいなくなって5年だろうか?
事故なのか誘拐なのか。それとも家出なのか。
未だにはっきりしない。私のなかでは。

図書館へ行ってくると午前中に家をでた息子は夜の8時になっても帰宅しなかった。
息子は寄り道などしたことがない。
なにかあったのかと図書館に行ってみたものの、7時に閉館した図書館はすでに暗かった。
慌てた私は母に連絡して来てもらい、二人で近所を探し回った。
学校にも連絡して息子の同級生に聞いたりしたが、どこにも息子はいなかった。
携帯は持たせてなかったから連絡の取りようがなかった。

もちろん警察に届けた。
警察は事故にはあっていないようだと私たちに言うと、家出の可能性はないかと逆に聞いてきた。
私はまだ小学生なんですよと食って掛かったが、担当になった警察官は今時のお子さんはなどと言い、もう少し様子をみましょうと悠長な態度を変えなかった。
我が家は確かにお金持ちではない、シングルマザーだったので誘拐ということは考えにくかったのかもしれない。
それとも娘だったら変質者という線ですぐに調べてくれたのだろうか。

結局、誘拐したという電話やら手紙はこなかった。
警察の方はその後ひととおり、調べが終わると事件性はないと判断したようだった。
聞き込みをした結果、息子が家出してもおかしくないと考えたのだろう。

息子は。
成績は良かった。
決して運動が苦手ではなかったが、いつも本ばかり読んでいた。
内向的な性格だったせいなのか、友達はいなかった。
それになにより、見た目が。
見た目が小学6年生に見えなかった。
少年というより青年と言ってよかった。
診てくれたドクターは早く老化してしまう早老症を疑ったが検査の結果、違うようだが原因は不明だと言った。
それが私たち夫婦の離婚理由だった。
夫にはそんな息子を自分の子供だと認めたくなかったのだ。
きっと息子は学校でも同級生や先生たちには、異質な存在だったに違いない。
だが、本人はそれを苦にはしていなかった。

はずだ。
今考えると私の思い込みだったのかと自信がない。
いじめとかはないと学校の方は言っていたが本当だったのだろうか?
考えれば考えるほど、だんだんと息子のことがわからなくなってしまう。

5年前の夏休み。
8月1日に息子は消えてしまった。
急にそのままにしてある息子の机の引き出しを開けてみた。

息子は几帳面だったので綺麗に整理されていた。
夏休みの宿題は毎年すぐにとりかかって7月中は終わらせていた。
さすがに日記は無理だったが。

当時は余裕がなくて見なかった宿題を改めて確認すると、やはり息子はいつものように宿題を全て終わらせていた。


そして。
最後の日記を読んで私は困惑するしかなかった。
日記は2日以降も書かれており、その内容が私の行動や心の内であった。

日記は8月31日で終わっていた。
これは一体、どういうことなのだろうか。
夏の夕暮れ、私は途方にくれて窓の外をぼんやりと眺めるしかなかった。

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