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頭がおかしいと泣きながら暴れた少年の話

☆過去に少し書きましたが、詳しく書き直します。

ある非行に走っていた男の子が居たんです。ご家庭は保護者の方が夜働いていて、夜は兄弟4人で家で過ごしています。幼い頃からずっとその生活です。

その子は勉強も苦手で九九も全部覚えていませんでした。小学校でもほとんど授業に出ていなかったそうです。

中学校にはほとんど来ていませんでした。中学生になって暴走族に入ったり喧嘩をしたりで何度も補導されていました。そんな中、その暴走族との人間関係でトラブルがあったようで彼は中学校に来るようになります。

久しぶりに学校に来るようになった彼でしたが、先生方が口々に言います。

「あいつは何を考えているかわからない。」



学校生活でもトラブル続きで私が彼を見ることになりました。初めて会ったのは中2の2学期です。生徒指導室で面談をします。

「初めまして。セミ採り名人と言います。これからよろしくね。」


「•••」


ほう。クールな反応を返したな。私は続けて


「学校生活はどう?何か困っていることはある?」


「•••」


心理学のテンプレート的な投げかけで様子を見るもまたもやクールな反応が返って来ます。


そうか。なるほど。そう来たか。わかった。やってやろうじゃねえか。私にスイッチが入ります。


心理学フルパワーモードオン!


スーパーセミ採り名人モード開始!


そこから私はくだらない世間話を2時間ひたすら話しました。もちろん彼は一言も話しません。それでもひたすらに話しかけまくりました。誰にでもそうする訳ではなく表情などを見て彼にはこの方法が良いと私が判断したのです。そして、初めての面談は彼は一言も話さずに終わります。


翌週、また彼と面談をします。

「おはよう!久しぶり〜おれのこと忘れてないか〜。昨日はよく寝られたかい?」


「夜中2時に寝たから眠い」


しゃ、しゃ、しゃべった!?っと内心思って動揺しておりますが、それを表に出さないようにしながら

「へ、へえ〜ゲームしてたのかい?←ちょっと表に出てる」


っと返します。それから彼は普通に話してくれるようになりました。そして、初めに書いた家のこと非行のことなど色々なことを話してくれるようになりました。そんなある日、ある会議で1人の先生が言います。

「勉強も出来ないし生活態度もあんな調子だし知能検査を受けさせるべきだ。それが彼のためだ。」


私は大反対しました。そんな何かのカテゴリーにはめるために知能検査を使うべきではないと。まずは人と人として彼の話しを聞いてぶつかって何が出来るか一緒に考えていくべきだと。

しかし、私の抗議は虚しく何人かの先生が賛成して彼は知能検査を受けることになりました。


ある日、学校に行くと彼が暴れていると聞きつけ駆けつけます。彼は泣きながら廊下で暴れていて先生方に囲まれています。彼はこう叫んでいました。

「おれは頭がおかしいのか。頭がおかしいんだ。」


彼はこの時知能検査の結果を聞いたのでした。その時、私には彼より先生たちの方が頭がおかしく見えました。その後の彼のことについての会議でもやはり先生たちが頭がおかしく見えました。大丈夫、周りが歪んでいるだけでキミは正しいよ。そこにはIQなんて関係ない。

私は彼の人柄がとても好きでした。まっすぐで実は人懐っこく誰にも好かれるそう言う所が彼の良い所でそこを潰したくありませんでした。私は彼に言います。

「キミは勉強が苦手かもしれない。家のことでも色々あるかもしれない。でも、キミはとても良い物を沢山持っている。それをもっと活かせる場に行くべきだ。全力で協力する。」


非行系の子が居なくて子どもたちにも理解がある高校がありまして、そこなら彼の人生を変えられると思い私はその高校を彼に紹介しました。普通は彼の進路として選ばないような高校です。でも、私は彼の希望をそこに繋げたいと思いました。

そこからは受験に向けて猛勉強です。3年の担任の先生は理解もあり私に後押しと協力をしてくれました。その甲斐もあって彼は見事にその高校に合格しました。

高校に進学してからは部活とアルバイトに精を出し、生徒会長に立候補までしました。彼の人柄もありその高校のパンフレットの表紙の制服モデルまで務めました。そして、無事高校を卒業します。

私が思い描いていた通りの人生を歩んでくれました。私には見えていたよ。キミがこうなる未来が。

コロナ前には一緒にご飯も食べに行きました。今は働いて頑張っています。

きっと彼はこれからも大丈夫。

後ろを振り返った時に

輝いていた思い出が

背中を押してくれた人が

助けてくれた人が

笑った記憶が


そこには沢山あるから。



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