新野司郎

新野司郎はペン・ネーム。国際ニュースを専門とするジャーナリスト上がりのライター。作品の…

新野司郎

新野司郎はペン・ネーム。国際ニュースを専門とするジャーナリスト上がりのライター。作品の登場人物「ルーク」のモデルの一人でもある。

マガジン

  • 連載版;20XX年のゴッチャ 後編

    連載を再開します

  • コラム&オピニオン

    時事問題に関わるコラムやオピニオン記事を掲載します

  • 完全版;20XX年のゴッチャ

    連載で割愛した部分も掲載した完全版を纏めます

  • 連載版;20XX年のゴッチャ・前編

    連載した20XX年のゴッチャ・1~66を纏めました

最近の記事

20XX年のゴッチャ その95

IAEA  IAEA・国際原子力機関はオーストリアのウィーンに本部を置く国連下の自治機関である。専門職員は1,100人余りで、原子力技術の平和利用の促進や軍事転用の防止と監視を組織の目的としている。  北朝鮮は一時、加盟国であったが、核開発疑惑に対するIAEAの特別査察受け入れを拒否し、94 年三月に脱退を通告、その後、米朝両国はまさに衝突寸前の状態に陥った。第二次朝鮮戦争勃発前夜とも言える状況になったのだ。  この危機から世界を救ったのは94年十月に署名された

    • 20XX年のゴッチャ その94

       確認  ホワイト・ハウスでは国家安全保障会議が漸く終わり、大統領が執務室のオーバル・オフィスに戻ろうとすると、アマール補佐官とマキシーン・ウイラード国家情報長官、ジョン・トルキンCIA長官、それにコリアミッション・センターのファン・ジアン所長が続き、追加の説明機会を求めた。 「何があった?」  大統領が尋ねるとアマール補佐官は情報長官を見て発言を促した。 「中朝首脳会談の直後に北京からパリに向かった空飛ぶ救急車があった件はご報告申し上げたと思います」

      • 20XX年のゴッチャ その93

        凍結宣言 「朝鮮労働党の戦略的決心によって20XX年四月三日午前十一時、小型プルトニウム爆弾の爆発実験が成功裏に行われた…」  午後八時、朝鮮中央放送が予告通りに特別重大放送を開始した。冒頭の内容は午後四時の中央通信の発表と全く同一だ。日本では公共放送が、世界ではCNNやBBCが同時通訳付きでその内容の生中継を始めていた。いわゆる特番である。 「…安全かつ完璧に行われた今回の実験は、周囲の生態環境に何の否定的影響も与えなかったことが確認された」  次いで、新

        • 20XX年のゴッチャ その92

          予告  その日現地時間午後四時、朝鮮中央通信が北朝鮮政府の声明を報じた。 「朝鮮労働党の戦略的決心によって20××年4月3日午前十一時、小型プルトニウム爆弾の爆発実験が成功裏に実施された。  我々の知恵、我々の技術、我々の力に完全に依拠した今回の実験を通じて、共和国は新しく開発された試験用小型プルトニウム爆弾の技術的諸元が正確であることを完全に実証し、その威力を科学的に解明した。安全かつ完璧に行われた今回の実験は周囲の生態環境に何の否定的影響も与えなかったことも確認

        20XX年のゴッチャ その95

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        • 連載版;20XX年のゴッチャ 後編
          26本
        • コラム&オピニオン
          1本
        • 完全版;20XX年のゴッチャ
          6本
        • 連載版;20XX年のゴッチャ・前編
          55本

        記事

          共同親権と夫婦別姓はセットでしょ

          「哺乳類は英語でも“mammal”だ。“pappal”とは呼ばれない。親権に関しては、母親に大きな瑕疵でもない限り、母親を優先するのは自然だろう」と、以前、筆者は某駐日アメリカ大使に言い放った記憶がある。  10年以上も前の懇談の席だったと記憶しているが、そこで「日本には共同親権制度が無い」というのが話題に上ったのである。当時、日本人の母親による子の“連れ去り”が日米間の問題になっていたからである。  少し乱暴な論法だったせいかもしれないが、筆者の発言に対し大使は無言だっ

          共同親権と夫婦別姓はセットでしょ

          20XX年のゴッチャ その91

           地震波  20XX年四月三日午前十時五十八分頃、北緯42度2分、東経129度3分の地点から生じた特異な地震波を、日本の気象庁やCTBTO・包括的核実験禁止条約機構など関係機関が観測した。  震源の深さはゼロ・キロメートル、気象庁の観測ではマグニチュード5・1~5・3と推定された。自然の揺れではない。震源地が豊渓里の実験場に当たること等から北朝鮮が核実験を強行したと判定され、その報は直ちに世界に伝えられた。  メトロポリタン放送始め各社はすぐに速報スーパーを流し

          20XX年のゴッチャ その91

          20XX年のゴッチャ その90

          アドバルーン    日本時間のその日の夜、アメリカのワシントン・ポスト紙ウェブ版が世界を幾分当惑させるオピニオン記事を掲載した。 「WHOと中国政府にノーベル平和賞の声」  その見出しはこう報じていた。  自宅での夕食後、アメリカ・メディアの報道をチェックしていて気付いた菜々子は本文に目を通す。 「北朝鮮におけるADE株封じ込め作戦がほぼ成功裏に終わった。世界はこれに安堵し、中国政府の無償の支援に称賛の声を惜しむことはない。勿論、ADE株が消滅した訳では

          20XX年のゴッチャ その90

          20XX年のゴッチャ その89

           完了宣言   「現地時間の今日午後、我が国では夜になりますが、WHOは予想通り、封じ込め作戦のフェイズ2の完了宣言を出す予定でございます」  翌月曜日朝、中南海の習近平主席の執務室に再び劉正副主席の姿があった。劉一人だ。 「これは北朝鮮政府の要請に因るものでございまして、宣言を受けて、北朝鮮政府も封鎖の更なる緩和を発表する見込みと聞いております」 「消滅宣言では無いのだな?」  習主席が確認を求めた。 「消滅はしていませんので、それはございません。特別

          20XX年のゴッチャ その89

          20XX年のゴッチャ その88

          逡巡    翌日、太田は午後早めに自分の家に戻った。名残の疼きを感じながら菜々子は身支度を始める。桃子と急遽夕食を共にすることにしたのだ。  シャワーを浴びて髪を整える。化粧はベーシックに留め、ジーパンとセーターに身を包んだ。薄手のマフラーを巻いて家を出る。待ち合わせ場所は品川駅近くの大手が経営する和食屋で半個室を押さえてあった。 「お疲れ様」  菜々子が部屋に入ると桃子は先に到着していて生ビールを飲んでいた。 「お疲れ様です。すいません、日曜日に御呼び

          20XX年のゴッチャ その88

          20XX年のゴッチャ その87

          撮影    現地時間の翌土曜日、この日、パリは春の日差しに包まれ、心地良い陽気となった。セーヌ河畔は朝から散策を楽しむ人々で賑わっていた。  大友達が例によって定点観測を始めると、暫くして、警護員がパリ・セーヌ南総合病院外科病棟十二階のバルコニーに出て周辺の点検を行った。  移植手術が成功し、予後も順調だとすると、そろそろ新たな動きが見えても不思議ではない。この為、大友はベルナールとアルヌーにも週末にも拘わらず出勤を要請してあった。  十時頃、大友がこれまた

          20XX年のゴッチャ その87

          20XX年のゴッチャ その86

            コンスタント・フェニックス 「豊渓里の動きは続いているという事ですね?」 翌週月曜日午前、首相官邸で開かれた安全保障関係の事務方幹部会で、霞が関の官僚トップである官房副長官の神山俊介が尋ねた。 「そうです。実際に実験にまで踏み込むかどうかは不明ですが、その準備と思われる活動は相当進んでいるようです」  鈴木信光内閣情報官が応えた。深いバリトン声が響く。声量は普通なのだが、良く通る。 「その他の動きはどうですか?」  神山が再度尋ねた。 「アメリ

          20XX年のゴッチャ その86

          20XX年のゴッチャ その85

          人影  その週末の土曜日、菜々子は太田と二人で久しぶりにゴルフを楽しんでいた。キャディーは付けず、所謂ツーサムで回っている。  千葉県内にあるそのコースは、お手軽で良心的なことで知られ、18ホールしかないが、戦略性に富み、非常に美しい。 「ナイス・ショット!」  菜々子の腕前は、平均的なアマチュア女性ゴルファー程度のレベルだったが、太田は時には70台で回るアマチュアとしては上級者、シングル・プレーヤーだ。  太田のティー・ショットはロング・ホールのフェア

          20XX年のゴッチャ その85

          20XX年のゴッチャ その84

            豊渓里 「これは核実験場の整備をまた始めたという事ね?」  ワシントン郊外のラングレーにあるCIA本部に併設されたコリアミッション・センターのファン・ジアン所長は北朝鮮北東部の豊渓里地区の山中の衛星画像をアナリストらと共にチェックしていた。  アナリストが応える。 「そうとしか考えられません。鉱物採取の為では無いですね」  豊渓里は北朝鮮がこの時までに6回の核実験を実施した場所で、東西南北の四か所の実験坑があるとされる。このうち、東の抗道は過去の実

          20XX年のゴッチャ その84

          20XX年のゴッチャ その83

            四週経過    三月の第三月曜日、WHO本部で記者会見の開催が予告された。  パリから山瀬とベルナール、それにフリーランスのカメラマンがジュネーブに向かった。  大友とアヌールは観測を続けていた。  これまでの張り込み中に何度も練習を重ねたお陰で、大友も超望遠カメラの扱いにはかなり慣れていた。最低限の映像は撮れる。 「WHOと中国政府による北朝鮮のガンマⅡ型ADE株封じ込め作戦が始まって四週間が経過した」  現地時間の午後二時、会見はほぼ予

          20XX年のゴッチャ その83

          20XX年のゴッチャ その82

            焦点 「灯りを点けましょう、ぼんぼりに―、お花をあげましょう、桃の花―…」  可愛らしい歌声が微かにルークの家から聞こえてくる。二階の部屋もオーフ・ザ・レコードも窓は少しだろうが、開いているのだ。 月はとっくに替わり、寒さはかなり緩んでいた。 「お孫さんですね。羨ましいですよ」  元内閣情報官の袴田剛が席に着くと言った。  ルークの求めに応じて来訪したのだ。袴田に子供は居ない。夫婦二人だ。 「覚えたてなんだが、褒められるのが嬉しいらしくてね。何度も

          20XX年のゴッチャ その82

          20XX年のゴッチャ その81

          ボヘミアン・グラス    翌火曜日、昼間の仕事を片付けると菜々子は早めにオーフ・ザ・レコードに向かった。ルークにこれまでのパリの取材経過を伝える為だ。 「お疲れ様です」  菜々子が六時過ぎに到着するとルークは少し背の高いワイン・グラスを拭いていた。  それは高価な物ではなかったが、八十九年に当時のチェコ・スロバキアで起きたベルベット革命が一段落した後、ルークが首都・プラハで買い求めたボヘミアン・グラスだった。薄いピンクの華奢な色ガラスに花模様の小さな模様が刻まれ

          20XX年のゴッチャ その81