新野司郎

新野司郎はペン・ネーム。国際ニュースを専門とするジャーナリスト上がりのライター。作品の…

新野司郎

新野司郎はペン・ネーム。国際ニュースを専門とするジャーナリスト上がりのライター。作品の登場人物「ルーク」のモデルの一人でもある。

マガジン

  • 連載版;20XX年のゴッチャ 後編

    連載を再開します

  • コラム&オピニオン

    時事問題に関わるコラムやオピニオン記事を掲載します

  • 完全版;20XX年のゴッチャ

    連載で割愛した部分も掲載した完全版を纏めます

  • 連載版;20XX年のゴッチャ・前編

    連載した20XX年のゴッチャ・1~66を纏めました

記事一覧

20XX年のゴッチャ その102

  再確認  菜々子がルームサービスで昼食を済ませ、加藤局長宛の大友の様子の報告メールとルーク及び桃子への報告をホテルの自室で準備し始めた頃、中南海の習近平主…

新野司郎
4日前

20XX年のゴッチャ その101

再燃 翌日曜日、現地時間の朝、北京の中南海にある習近平主席の公邸の電話が鳴った。盗聴を防ぐ為に幾重にも保護された中枢部専用の内線電話だ。 「お早うございます…

新野司郎
10日前
1

20XX年のゴッチャ その100

怪文書 「外務省の現職課長とキー局報道局部長の親密な関係に周辺は情報漏洩を危惧」    それは日本時間土曜日の深夜、菜々子のパリ到着前にネットの某掲示板に載った…

新野司郎
11日前

20XX年のゴッチャ その99

  チャーター機    菜々子が翌朝一番のフライトで羽田を発ち、北京発パリ行きの中国国際航空のフライトの機中ある頃、エール・フランス所有のA321-XLRがウィーン空…

新野司郎
2週間前
2

20XX年のゴッチャ その98

代表団派遣    IAEA・国際原子力機関がこの日午前、ホーム・ページに北朝鮮への査察団の派遣を発表した。  発表文には次のように記してあった。 「DPRK・朝鮮民…

新野司郎
2週間前
1

20XX年のゴッチャ その97

  任意同行    日本時間のその日夕方、現地時間の朝、いつものように大友達は早めにオフィスに出て準備を整えると定点観測用の屋根裏部屋に向かった。途中、これま…

新野司郎
2週間前
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20XX年のゴッチャ その96

通信解析    フランスのDGSE・対外治安総局は大友達が居ると思われる場所を間もなく割り出、し係官を急派したが、大友チームは既に引きあげた後だった。  誰が…

新野司郎
2週間前
2

20XX年のゴッチャ その95

IAEA  IAEA・国際原子力機関はオーストリアのウィーンに本部を置く国連下の自治機関である。専門職員は1,100人余りで、原子力技術の平和利用の促進や軍事転用の防止と…

新野司郎
3週間前

20XX年のゴッチャ その94

 確認  ホワイト・ハウスでは国家安全保障会議が漸く終わり、大統領が執務室のオーバル・オフィスに戻ろうとすると、アマール補佐官とマキシーン・ウイラード国家情…

新野司郎
3週間前

20XX年のゴッチャ その93

凍結宣言 「朝鮮労働党の戦略的決心によって20XX年四月三日午前十一時、小型プルトニウム爆弾の爆発実験が成功裏に行われた…」  午後八時、朝鮮中央放送が予告通り…

新野司郎
1か月前
2

20XX年のゴッチャ その92

予告  その日現地時間午後四時、朝鮮中央通信が北朝鮮政府の声明を報じた。 「朝鮮労働党の戦略的決心によって20××年4月3日午前十一時、小型プルトニウム爆弾…

新野司郎
1か月前
2

共同親権と夫婦別姓はセットでしょ

「哺乳類は英語でも“mammal”だ。“pappal”とは呼ばれない。親権に関しては、母親に大きな瑕疵でもない限り、母親を優先するのは自然だろう」と、以前、筆者は某駐日アメ…

新野司郎
1か月前

20XX年のゴッチャ その91

 地震波  20XX年四月三日午前十時五十八分頃、北緯42度2分、東経129度3分の地点から生じた特異な地震波を、日本の気象庁やCTBTO・包括的核実験禁止条約機構など…

新野司郎
1か月前
1

20XX年のゴッチャ その90

アドバルーン    日本時間のその日の夜、アメリカのワシントン・ポスト紙ウェブ版が世界を幾分当惑させるオピニオン記事を掲載した。 「WHOと中国政府にノーベル…

新野司郎
1か月前
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20XX年のゴッチャ その89

 完了宣言   「現地時間の今日午後、我が国では夜になりますが、WHOは予想通り、封じ込め作戦のフェイズ2の完了宣言を出す予定でございます」  翌月曜日朝、中…

新野司郎
1か月前
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20XX年のゴッチャ その88

逡巡    翌日、太田は午後早めに自分の家に戻った。名残の疼きを感じながら菜々子は身支度を始める。桃子と急遽夕食を共にすることにしたのだ。  シャワーを浴びて…

新野司郎
1か月前
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20XX年のゴッチャ その102

 

再確認


 菜々子がルームサービスで昼食を済ませ、加藤局長宛の大友の様子の報告メールとルーク及び桃子への報告をホテルの自室で準備し始めた頃、中南海の習近平主席の公邸で内線電話が再び鳴った。

「主席、極めて残念ながら暫定結果はADE株と出ました。最終的な解析結果が出るまでには数日を要しますが、ADE株でまず間違いないだろうと趙龍雲も申しております。加えて、感染者の多くが集ったレストラン

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20XX年のゴッチャ その101

再燃


翌日曜日、現地時間の朝、北京の中南海にある習近平主席の公邸の電話が鳴った。盗聴を防ぐ為に幾重にも保護された中枢部専用の内線電話だ。

「お早うございます。主席、日曜の朝に大変申し訳ございませんが、悪い報せをお伝えしなければなりません」
 腹心の劉正副主席だ。

「何事か?」
 主席の声は明らかに不機嫌になっていた。

「吉林省白山市内でクラスターが発生いたしました。感染者は二十人

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20XX年のゴッチャ その100

怪文書

「外務省の現職課長とキー局報道局部長の親密な関係に周辺は情報漏洩を危惧」
 
 それは日本時間土曜日の深夜、菜々子のパリ到着前にネットの某掲示板に載った。短い本文は次のようなものだった。

「外務省北米局の男性現職課長と某キー局の女性国際報道部長が親密な関係にあるという。二人とも独身の身なので不適切な関係とは言えないが、職業柄、外交関係の情報漏洩の恐れが無いとは言えないと外務省周辺は

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20XX年のゴッチャ その99

 

チャーター機

 

 菜々子が翌朝一番のフライトで羽田を発ち、北京発パリ行きの中国国際航空のフライトの機中ある頃、エール・フランス所有のA321-XLRがウィーン空港に降り立ち、ターミナルからは遠く離れた貨物用の駐機場の端に留まった。

 現地時間では午前八時過ぎ、間もなくIAEA用の資材の積み込みが始まる。

 外見からは全く覗い知れなかったが、キャビンは真ん中のパントリーの前後が

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20XX年のゴッチャ その98

代表団派遣

 

 IAEA・国際原子力機関がこの日午前、ホーム・ページに北朝鮮への査察団の派遣を発表した。

 発表文には次のように記してあった。

「DPRK・朝鮮民主主義人民共和国の招聘を受け、IAEA理事会は、寧辺の核施設の査察の為、IAEA保護措置局の査察団を派遣することで合意した。 
 チームは二十四名の査察官の他、エンジニアや通訳他支援要員含め総勢八十余名で構成され、週明け月

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20XX年のゴッチャ その97

 

任意同行

 

 日本時間のその日夕方、現地時間の朝、いつものように大友達は早めにオフィスに出て準備を整えると定点観測用の屋根裏部屋に向かった。途中、これまたいつものようにパン屋に立ち寄り、大友はカフェ・オ・レとパン・オ・ショコラを購入した。連日の取材のせいで彼の食欲は少し落ちたとはいえ、相変わらず旺盛だ。

 山瀬は午前中、ホテルでゆっくりしている。

 屋根裏部屋に到着し、アヌー

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20XX年のゴッチャ その96

通信解析

 

 フランスのDGSE・対外治安総局は大友達が居ると思われる場所を間もなく割り出、し係官を急派したが、大友チームは既に引きあげた後だった。

 誰が撮影をしていたのか、調査が始まった。
 
 DGSEアジア担当次長のジャン・ルック・モローの部屋に北朝鮮担当チームのルイ・ラファエル・シモンが駆け込んだ。核実験強行と凍結宣言の影響で、担当者はまだ全員オフィスに残っていた。

 善

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20XX年のゴッチャ その95

IAEA


 IAEA・国際原子力機関はオーストリアのウィーンに本部を置く国連下の自治機関である。専門職員は1,100人余りで、原子力技術の平和利用の促進や軍事転用の防止と監視を組織の目的としている。

 北朝鮮は一時、加盟国であったが、核開発疑惑に対するIAEAの特別査察受け入れを拒否し、94 年三月に脱退を通告、その後、米朝両国はまさに衝突寸前の状態に陥った。第二次朝鮮戦争勃発前夜とも言

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20XX年のゴッチャ その94

 確認


 ホワイト・ハウスでは国家安全保障会議が漸く終わり、大統領が執務室のオーバル・オフィスに戻ろうとすると、アマール補佐官とマキシーン・ウイラード国家情報長官、ジョン・トルキンCIA長官、それにコリアミッション・センターのファン・ジアン所長が続き、追加の説明機会を求めた。

「何があった?」

 大統領が尋ねるとアマール補佐官は情報長官を見て発言を促した。

「中朝首脳会談の直後

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20XX年のゴッチャ その93

凍結宣言


「朝鮮労働党の戦略的決心によって20XX年四月三日午前十一時、小型プルトニウム爆弾の爆発実験が成功裏に行われた…」

 午後八時、朝鮮中央放送が予告通りに特別重大放送を開始した。冒頭の内容は午後四時の中央通信の発表と全く同一だ。日本では公共放送が、世界ではCNNやBBCが同時通訳付きでその内容の生中継を始めていた。いわゆる特番である。

「…安全かつ完璧に行われた今回の実験は、

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20XX年のゴッチャ その92

予告


 その日現地時間午後四時、朝鮮中央通信が北朝鮮政府の声明を報じた。

「朝鮮労働党の戦略的決心によって20××年4月3日午前十一時、小型プルトニウム爆弾の爆発実験が成功裏に実施された。
 我々の知恵、我々の技術、我々の力に完全に依拠した今回の実験を通じて、共和国は新しく開発された試験用小型プルトニウム爆弾の技術的諸元が正確であることを完全に実証し、その威力を科学的に解明した。安全かつ

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共同親権と夫婦別姓はセットでしょ

「哺乳類は英語でも“mammal”だ。“pappal”とは呼ばれない。親権に関しては、母親に大きな瑕疵でもない限り、母親を優先するのは自然だろう」と、以前、筆者は某駐日アメリカ大使に言い放った記憶がある。

 10年以上も前の懇談の席だったと記憶しているが、そこで「日本には共同親権制度が無い」というのが話題に上ったのである。当時、日本人の母親による子の“連れ去り”が日米間の問題になっていたからであ

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20XX年のゴッチャ その91

 地震波


 20XX年四月三日午前十時五十八分頃、北緯42度2分、東経129度3分の地点から生じた特異な地震波を、日本の気象庁やCTBTO・包括的核実験禁止条約機構など関係機関が観測した。

 震源の深さはゼロ・キロメートル、気象庁の観測ではマグニチュード5・1~5・3と推定された。自然の揺れではない。震源地が豊渓里の実験場に当たること等から北朝鮮が核実験を強行したと判定され、その報は直ち

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20XX年のゴッチャ その90

アドバルーン

 

 日本時間のその日の夜、アメリカのワシントン・ポスト紙ウェブ版が世界を幾分当惑させるオピニオン記事を掲載した。

「WHOと中国政府にノーベル平和賞の声」

 その見出しはこう報じていた。

 自宅での夕食後、アメリカ・メディアの報道をチェックしていて気付いた菜々子は本文に目を通す。

「北朝鮮におけるADE株封じ込め作戦がほぼ成功裏に終わった。世界はこれに安堵し、

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20XX年のゴッチャ その89

 完了宣言

 

「現地時間の今日午後、我が国では夜になりますが、WHOは予想通り、封じ込め作戦のフェイズ2の完了宣言を出す予定でございます」

 翌月曜日朝、中南海の習近平主席の執務室に再び劉正副主席の姿があった。劉一人だ。

「これは北朝鮮政府の要請に因るものでございまして、宣言を受けて、北朝鮮政府も封鎖の更なる緩和を発表する見込みと聞いております」

「消滅宣言では無いのだな?」

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20XX年のゴッチャ その88

逡巡

 

 翌日、太田は午後早めに自分の家に戻った。名残の疼きを感じながら菜々子は身支度を始める。桃子と急遽夕食を共にすることにしたのだ。

 シャワーを浴びて髪を整える。化粧はベーシックに留め、ジーパンとセーターに身を包んだ。薄手のマフラーを巻いて家を出る。待ち合わせ場所は品川駅近くの大手が経営する和食屋で半個室を押さえてあった。

「お疲れ様」

 菜々子が部屋に入ると桃子は先に到

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