『カレー野獣館 赤』 追篇完全版

叫化蟹


押し照られ押し照られしてくたびれはてている砂浜に穴をうがっては、住まう

大きさの異なる三つの穴を掘ってはそこに住み、住みかえ、移り住む

そういうことが毎日できるのもからだが小さいからである

たまには水の速い穴に行ってみようというのがわたしの最期であり、そこでわたしは溺れ死ぬ

次に生まれた場所はカレーの骸骨のような場所でわたしはその甲羅のなかでたっぷりとその羊歯のようなうぶ毛にまつわりついたカレーを味わうがすぐにわたし自身も食べられてしまう

頭のふたも開けられてどんどん食べられてしまう既視感と既臭感でその食べられ方とどこかでだれかが笑っているような水を叩く音が甲羅カレーの傷層、胆包みの地層、赤く酔った染みの掻き跡が残された地層、それらの地層に陽が裂け裂けして射しそのどの層もが赤甲羅カレーのようななにかとしてうぶ毛が冷えていくとともにそのうまみもはてしなく増していってそしてそうした地層を徘徊することもなくわたしはまた寝てしまう

この食べられ方もいい

こうしてわたしは蟹カレーとその骸骨とうぶ毛とともに死に、死に際に赤く赤くちかちかする

ちかちかして死んだわたしは次に弾丸のなかに生まれている

その弾丸は紅殻弾と並び兵士たちが愛用した雪敷弾であり雪山で効力を発揮する特殊弾である

わたしは転髓の天使たちに微笑まれ山々に呪われながら鹿のなかに次々に吸いこまれていくがそもそも天使などは最初から存在せずある髄の磁力めいたなにかが人間たちに畏れられていただけだったがわたしはほんとうはそんなふうに扱われたくはなかった

その磁力めいた時のなかで粉とともに膠着して固まって溶け弾の音の定めとともにわたしは消える

次にわたしは魂縛弓に生まれ変わっている

今度の生は長い

その弓は魂縛石とともに生き、その石の真の色を染め、そこで染め変わり続けたにほひおどしの色違いでさまざまな獣たちを撃ってきた

獣たちからかれらの走りあがく根源の力が裂かれ退くのをえんえんと手伝い、その裂かれの動きの中でこそわたしは生きてきた

窮まった鳥たちは常に鳴くことすらできず、窮まった獣たちはときに薄く鋭く鳴き息絶えるが、わたしはその彼らの裂かれの瞬きのなかではなはだしく生きる

わたしに通常の視力はない

はっきり目覚めたときはただ速度のなかにいてそのままわたしは蹴散らされるような時間のなかでさらに雪狼煙のように目覚めそこでぎりぎりぎりとある音を聴けはしないけれどその脈動の音がわたしを生きていると悟らせる音のなかにわたし自身をいきなり押し込みそうとしたとき、それに呼応している石の身の寄せ方の音に強く誘われわたしはまた意識を失ってしまう

ある日蟹に向かって放たれた魂縛弓の矢は蟹の軟骨を打ち破ってそのまま折れる

その蟹の魂を奪うことはできず、その蟹は酒をふりかけられ破れた軟骨をざきざきと削がれ原クミンとブラックカルダモンといしると塩祭りをふられ、黒砂糖と卵と天白冬故菰とともに泥をかぶせ焼かれ焼かれた甲羅はさらにいやになるほどぐるぐるぐるぐる廻されまた焼かれ蟹の目もほぐされともに焼かれ今度は赤い糸とともに煮込まれ軟焼されまた煮込まれた後ふたたび甲羅が焼かれそこから銃の弾がぽろりと落ちる

弓で射られる前にその蟹は銃で撃たれていて漁師はこぼれた弾丸にかまわず甲羅をふたたび焼きそこに鯨油をひきひき焦げ目をつけていく

じゅうぶんに焼かれた石は弓を使ういきものの股座の下、その土のなかで既に準備されていて甲羅はさらに焼かれ、その匂いに目にみえない獣たちがちちっと身を凍らせ蟹の泡がさらに鍋の下をくぐり、焼かれ続ける蟹はまだその全てをさらさない

そうやって焼かれた蟹はまだそのまま焼かれていて焼かれたまま転生する

弓であるわたしはその一部始終をみていたがだんだんと眠くなった


百連痺辛辛米線


百連しびれ辛辛米線はもともとはある麺類の名であったのがいつしかその止まらぬ列車の走る路線のことを指すようになった

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