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映画「HUMAN LOST 人間失格」試写会&トークイベント【レポート】

COMEMOのKOLでアニメジャーナリストの数土直志さんのご紹介で映画「HUMAN LOST 人間失格」試写会に参加をさせて頂きました。

試写会後には、脚本を務めた冲方丁さん、SFマガジン編集長の塩澤快浩さん、アニメ評論家の藤津亮太さんのトークセッションもありました!

今回はネタバレ無しで、映画「HUMAN LOST 人間失格」の感想とトークセッションの内容をレポートさせて頂きます!

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感想1.原作を知らなくても大丈夫!

ベースはタイトルの通り太宰治の「人間失格」になります。もちろん、原作や太宰治のことをよく知っている方の方が「原作のここをこういう解釈をしたのかな?」という楽しみ方はできると思いますが、原作を読んだこと無い方でも楽しめます!

僕も大学時代(約10年前)に読んだだけで記憶の片隅に微かにあるかないかぐらいでしたが、全く問題はありませんでした。

原作を読んだ上で、本作品を自分なりに解釈していく楽しさもあると思いますし、先に本作品を見てから原作を読んで、紐解いていく楽しさもあると思います!

感想2.色々な揺れ幅に注目!

本作品は色々なものがものすごく揺れていきます!

1.映像
まずは圧倒的な3DCGアニメーションの映像でキャラクターたちが構造物たちがガンガン物理的に揺れます!その映像のダイナミックさだけでもぜひ楽しんで頂きたいと思います!
※酔う感じではないのでご安心ください。

2.主人公の心
そして、主人公の心も揺れます。原作の大庭葉蔵が流されやすい人物であるように、本作品の大庭葉蔵も揺れ動きます。
周囲の人物の主張に惑わされながらも自分を探していく、大きく揺れ続ける大庭葉蔵の心の揺れ幅にもぜひ注目してください。

3.現実と虚構
SF作品なので虚構の世界なのですが、高田馬場・野毛などの実在する地名や、社会保障などのなかなか生々しいワードも多数飛び交います。

一方で昭和111年という現実っぽいような虚構の設定も登場し、作品の中で現実的なものと圧倒的な虚構なものが、次々と出てきます。その現実と虚構の揺れ幅を楽しむのも、リアルな世界線でのSFである本作品の楽しみ方だと思います。

感想3.ダークヒーローが問いかける正義

公式サイトのイントロダクションでも"ダークヒーローアクション"や"日本初の世界を魅了するSFダークヒーロー"と"ダークヒーロー"という言葉が使われています。

現在社会現象的なヒットを記録している映画「ジョーカー」もまさにダークヒーロー作品といえますが、本作品もそんなダークヒーローものです。

ダーク(悪)なのに、ヒーロー(正義の味方)という矛盾。

正義か悪か、生か死か。

生き続けることは悪いことか良いことか、死ぬことは悪いことか良いことか、殺すことは悪いことか良いことか、救うことは悪いことか良いことか・・・・

ダークとヒーローの境界線を禅問答のように問いかけられ続けている気持ちにもなる、まさに日本版ダークヒーロー作品と言えると思います。

豪華トークセッションレポート

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本作の脚本を担当した冲方さんを中心とした布陣でした!
トークのメンバーはこちら↓

藤津亮太さん(アニメ評論家)
冲方丁さん(脚本、小説家)
塩澤快浩さん(SFマガジン編集長)

塩澤
冲方さんの作品は「マルドゥック・スクランブル」が「不思議の国のアリス」、12人の死にたい子どもたち」は「12人の怒れる男たち」といった風に、原作というか原案があるものが多いが…今回ははぶっ飛んでますね(笑)

藤津
企画時点で制作からのオーダーは揃っていました?

冲方
オーダー時は「SFダークヒーローもの」、「東京タワーとクリーチャーのあるイメージボード」がありました。2015年くらいかな。
正直、「何いってんのかな」と思いました(笑)
大学の授業で太宰は読んでいましたが、改めて読んで、作中に現代くみ取るべきテーマを探しました。プロットの下書きは一年半かか理ましたね。
一番大きいブレイクスルーはタイトルの再解釈です。「人間失格」=「人間という規範から失格」、これを「人間そのものを失格させればいい」と思いついたのです。
SFは人類全体に影響を与えるものを描くものなので、「失格しながらでないと生きていけない人たち」ということを思いつきました。

塩澤
太宰は「人間失格」の連載中に心中しています。作品と筆者の距離が近く、極めて個人的な作品とも言えるもの。それを人類全体に?

冲方
主人公の葉蔵はよりよく生きようとしているのに泥沼にはまっていく、極めて現代的な人物像として捉えられるんです。キャラクター配置も抜群で、
自分のことしか考えられない堀木と他人しか考えないヨシ子、そちらを行き来する。この人間関係がディストピアを描くのに最適なのです。
あらゆる問題には現代は解決法がないが、これを解決可能ではという希望が見出せるような形にしました。

藤津
文学は個人、SFは人類、ということですが、他にSFを決定づけるものはなんでしょう?

冲方
我々の言う「文学」は近代文学。このとき文学は高尚、SFは娯楽という考えがありますよね。
だがカルチャーはカウンターの繰り返し、今やSFがメインの、高尚なものになりました。
なぜなら、こんにち文学を書くならばテクノロジーを無視できないからです。
とはいえ文学性にSFが飲まれ、(SFの特徴である)突飛さや自由さが飲み込まれてはいけません。
この作品(HUMAN LOST)においてはこのため、モノローグを排除することで「文学」の要素を薄くしました。
また、「閉塞した状況も突破できる」という高揚感を表現しました。
「ヒーローは民衆と危機の間に立つ個人であり、これを描くことで社会全体を描く」という方法論を踏襲しています。

塩澤
リアルフィクション、現実と虚構を等価に描け、楽しめるのがSFの強み。
これを応用して、過去の文学もいろんな形で改変できるのがSFの強みですが….…今回の(HUMAN LOST)はびっくりしました(笑)

冲方
アニメは現実と離れて楽しむものなので、通常はリアルな要素は割愛することが多いです。ただ今作では年金とか社会保障とかを入れています。
それを超える高揚感を提供したという自負があるからです。
作中は2020年。昭和が続いていたら、という設定で昭和111年。太宰が生きていたら111歳になります。
同じ元号が長年続くということで、地続きだが違う世界を表現しました。
今回の作品は、オーソドックスなものの作り方を全てひっくり返しました。
これを見て皆さんが何を見たのか?自分が知りたいです。

(トークセッション以上)

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作品を完成させるのはあなた

トークセッションの終盤に冲方さんが「これを見て皆さんが何を見たのか?その切り取り方次第でこの作品は決まっていく」というお話もありました。

本作品は実験的、意欲的な取り組みも多いので、この作品は〇〇であると定義づけするのはもしかすると観る人によって全て異なるかもしれません。

ぜひ劇場でご覧頂き皆様なりの解釈や意味付けをして頂ければと思います!

11/29(金)より全国公開です。



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