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【読んだ】絶望の国の幸福な若者たち

おすすめ度 ★★★★☆

若者は今の生活に満足している?

10年以上前に出版された本だけど、そこまで古さを感じない、今に通じる内容だった。

古市憲寿さんは、Twitterで炎上している人というイメージしかなかったんだけど(失礼)本当はこういう社会学っぽいことをちゃんとしてる方だったんだな(失礼極まりない)。

少子高齢化、終身雇用の破綻、現役世代の負担増など、若者にとっては絶望的とも思える今の日本。
でも実は20代の70%以上が「今の生活に満足している」と答えているのだそう。
それは他の世代の満足度よりも高いし、なんなら高度成長期の若者の満足度よりも高い。
つまり、過去にも類を見ないほど、今の(2010年の)若者の幸福感は高いということになる。

ほんまかいな

10年前の20代といえば、私もギリ当てはまるが、そうだったかなぁ?という気持ちが正直なところ。

私の場合、20代で出産してから社会に対する関心が高まったので、不満や苛立ちも増えた気がする。

不満はないけど不安はある

色々データをみていくと、若者は「幸福」を感じている一方で「不安」は抱えているらしい。
生活満足度=自分の周りの「小さな世界」には満足していても、社会=「大きな世界」に対する不安は大きいという構図。

実は、生活満足度があがる背景には「この先、これ以上幸せになることはないだろうから」という諦めのような気持ちもあるんだとか。

世界的にみても、実は好景気のほうがむしろ「今は不幸だけど、将来はもっと幸せになれるはずだ」という希望的な考え方になるので、満足度が低くなるらしい。

なるほどなぁ、これは体感としてもよくわかる。
まさに私も「将来に不安はあるけど、考えたところでどうしようもないから、今をめいっぱい楽しもう」的なマインドで生きているから。

そう捉えると、若者に限らず、同じように考えてる人は多そう。

そもそも若者ってなんだ?

本の大半はこれに尽きるんじゃないかってくらい、若者の定義に紙面が割かれている。

「最近の若者は」という年寄りの愚痴を古代から近代史、現代へとさかのぼり、若者観の変遷を見ていったり、
「若者の車離れ」などと、色んなことを若者のせいにしちゃう企業の心理や背景も鋭く切り込んでいる。

この辺りはデータが満載で、古市さんっぽい皮肉も満載なので読んでいて楽しい。

世界は変わらない

本が書かれたのはちょうど東日本大震災の直後。

「3.11から世界は変わってしまった」「もう3.11前の日本には戻れない」という当時の言説についても書かれている。

10年後の位置から見ると「あぁ、そんな事言われてたなぁ」と思うけど、結局日本も世界もそんなに変わってない。

原発事故や計画停電など、衝撃的なことが次々起きたし、なんならその後も時々ミサイルが飛んできたり、意味わからんウイルスに全世界が怯えるような事態も起きた。

でも意外と世界は変わってなくて、多くの人がのほほんと生きている。

確かに論じる人は何かが変わったのかもしれないけど、それはマクロ的な視点ではなくて、「自分(やその周り)が変わった」にすぎないんじゃないか。

みんなの意識や社会全体が、ある時を境に一気に変わるなんてことは意外とないんだなぁ、と気付かされた。

なんとなく幸せで、なんとなく不安

格差と分断の社会地図で読んだように、日本の格差は取り返しがつかないほど広がっていて、将来解決する見込みもほとんどない。

だけど、このまま階級社会化しても、意外とみんなのほほんと暮らしていくんじゃないか、と著者も語っている。

ミクロな視点で考えると、いくら世代間格差や世代内格差が深刻であっても、それは必ずしも「不幸な」社会を意味しない。
客観的には絶望的な状況であろうが、当人たちがそれでも幸福だと考えることは、往々にしてあり得るからだ。

その一例として、中国の「農民工」の話がある。
中国には「都市戸籍」「農民戸籍」という戸籍の格差があって、農村で生まれた人は都市に居住できないことになっているそうだ(初めて知った)。

しかし、都市部では「農民工」と呼ばれる農民戸籍の労働者が多く働いている。社会保障も受けられないし、子どもができても多くの公立学校は受け入れてくれない。
さらに農民工は、低賃金で作業労働的な仕事に使われている。
農村に帰る前提なので、居ついてスラム化する心配もない。
都市側にとって非常に都合のいい存在になっている。

ひどい話だ、と思うけれど、実はこの「農民工」の生活満足度は相当高く、85.6%に昇る。

理由は「農村部での暮らしよりマシだから」「都市戸籍とはもともと戸籍が違うから」。幸せを測る基準が違うのだ。
逆に都市部で学歴を積んだけど、望むような就職先がなく不満を抱えている高学歴ワーキングプアも社会問題化していて、この二者は非常に対照的だ。

読んでいて、どこか他人事とは思えない。

日本が輝いていた良い時代を知っていて、上昇志向が捨てられない人は「なんでこんな状況なのに、若者は立ち上がらないんだ!」と思う。
若者の貧困を社会問題化し、可哀想だと嘆く。

でも、当の若者たちは身近なものに幸せを見出し、身の丈にあった暮らしをし、生活満足度を高めている。
私だってそうだ。高級車なんていらないし、海外旅行にも行かなくていいし、タワマンに住みたくもない。
家族でお出かけして、仕事もそれなりに楽しくて、時々ちょっといいもの食べて、SNSで友達とも簡単に繋がれるし、欲しい情報も手に入れられる。

もしかしたら私も「農民工」なのかもしれない。

本は、それの怖さを煽るでもなく、といって全肯定もせずに終わる。

戻るべき「あの頃」もないし、目の前に問題は山積みだし、未来に「希望」なんてない。だけど、現状にそこまで不満があるわけじゃない。
何となく幸せで、何となく不安。そんな時代を僕たちは生きていく。
絶望の国の、幸福な「若者」として。

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