メニューフェチ。
私は飲食店のメニューを眺めるのが大好きだ。
料理の名前、メニューの構成、フォントなど、お店によって千差万別で、いつも隅々まで見てしまう。
メニューはそのお店の主義や美学が記された教典のようでもあり、お店の歴史書や履歴書のようでもあり、知らない料理や食材を教えてくれる図鑑めいたところもある。
食べる前からその料理の味を想像し、どれを頼もうか?という最高に幸せな悩みをもたらし、ワクワクさせてくれる…そんなメニューたちの中でも、私が特にグッときたものについて語りたい。
いぶし銀なメニューは想像力を掻き立てる
原宿の大衆食堂・BEETLEさんが店の前に掲げる看板。実は店内にあるメニューは種類豊富なのだけれど、店の看板で紹介されている料理は10個もない。選りすぐりなのかしらん。
「オイル煮ってなんのオイル煮!?」「つまみの次に突然のカレー、そして焼き魚定食…?!」「最後は刺身ッ…!」と、余白の多さにかえって想像が掻き立てられる。
カッコよくて潔のよいメニューだな、と思う。
ロマンチックな修飾語のもたらす幸福感
盛岡の「いなだ珈琲舎」さんのメニューは、まず白と黒のイラストにうっとりする。メニューを見渡せば、ぜいたくフルーツケーキ、天使のシフォンケーキ、などそれぞれにぴったりの修飾語があてがわれたスイーツが並ぶ。
「ぜいたく」という言葉で「フルーツとナッツがぎっしり入っているのね」とうっとりするし、「天使の」という言葉で「ふわふわで優しい甘さなのだろうなあ」、とニコニコしてしまう。
もはやこのメニューには癒し効果さえ感じる。ギスギスした気持ちの日でも、こんなメニューを見たら穏やかな気持ちになれる気がするのだ。
BEETLEさんのようなド直球なメニューもカッコイイけれど、いなだ珈琲舎さんのロマンチックなメニューも好きだ。
怒涛の「夏」と「京都」なメニュー
京都の名酒場「たつみ」さんの夏のメニュー。常々思っていたのだけれど、黄色い短冊ってアドレナリンを出す効力があるよね、絶対に。
夏の京都で絶対に食べたい「はも落とし」「ずいき酢の物」があることに安堵する。観光地において、旅行客が絶対に食べたい料理を揃えてくれるお店への信頼感たるや…たつみさんを知って以来、京都滞在で1回は足を運ぶようになった。
「万願寺」はなんと「焼き・素揚げ・天ぷら」の3つも選択肢がある。さらに「賀茂なす」は「天ぷら・田楽」、どちらも捨てがたいのに隣に「えび賀茂なす天ぷら」まであるではないか…!
夏らしい「ゴーヤの天ぷら」「トマト揚げだし」「ズッキーニ天ぷら」も食べたい。「はもの天ぷら」も気になるけれど、揚げ物祭りになってしまうので「はも落とし」にしよう…などと息も絶え絶えのところ、上方の赤い短冊にも「こいも煮」「鯖きずし」を見つけてしまう。ああ、胃袋が無限にほしい。
「土地の食文化」と「誰のためのお店か」を感じる
秋に訪れた八戸の市場にあるお店のメニュー。
おでんやおしるこがフランクに売っていることにも驚いたけれど、ごはんものが「うにおにぎり」「いか飯」という港町ならではのラインナップでたまらない。メニューは、その土地の食文化も表す。
さらにここのメニューは、料理名と金額という、最低限必要な情報だけが書かれたものだ。地元の人たちが平日の昼休みや仕事帰り、週末のお昼ごはん用に買いに訪れるそうだから、こういうお店のメニューは「パッと見て分かる」ことが重要なのだろう。メニュー、奥が深い。
手書き&擬音語メニューはズルい
渋谷「月世界」さんのメニュー。まず、手書きというだけで「おいしそう感」が5割増しになる気がする。
このメニューのズルいところは「ホタテと山芋フワモチ蒸し餃子」だ。フワモチ、があるとないでは全く印象が違うだろう。擬音語のパワーは絶大だ。
「酔っぱらいボタン海老」「季節魚のセイロ蒸し 香味醤油」も、食欲をそそる。どれもほかのお店でも使われている単語だけれど、手書きの、1枚のメニューに勢揃いしていることで「このお店、おいしそうなものだらけだ…!」という期待が倍増するのだ。
お店に「ほらほらこういう料理、おいしそうでしょ?」とまんまと見抜かれ、手のひらの上で転がされている感も否めない。ええ、その通りです。それがメニューの真髄なのだから、喜んで転がります。
外食の醍醐味を味わえるメニュー
千駄ヶ谷の「ヘンドリクス カリーバー」さんのメニュー。写真が小さくて申し訳ないのだけれど、左から一部紹介する。
納豆と春菊のサラダ
茹で鶏軟膏のパクチーまみれ
エリンギと白キクラゲの塩卵炒め
ラム肩ロース焼 パプリカペッパーソース
茄子と梅ぼしのカレー
秋刀魚キーマ
海苔チーズナン
納豆マヨナン
日替わりマスカルポーネのアイス
どうでしょう、見ただけでお酒が欲しくなるこのラインナップ。下戸の私も、思わずノンアルコールビールを注文してしまった。
さらに「納豆と春菊のサラダ」「茄子と梅干しのカレー」「海苔チーズナン」など、「少し珍しい組み合わせ・でもおいしそうだと想像がつく組み合わせ」が並ぶ。
あまりに奇抜な組み合わせだと、そもそも想像がつかずに躊躇してしまう。
お客が「珍しいけどおいしそうね、頼んでみようか」となるような、絶妙なさじ加減。
「外食の醍醐味」、それどころか「ヘンドリクスカリーバーで食べる醍醐味」を感じるメニューだと思う。
絵になるメニュー
京都「ピニョ食堂」さんのメニューは、紙質といいイラストといい手書きの文字といい、料理の説明が敬語で書かれているあたりも、とにかくお店の世界観と雰囲気にぴったりなのだ。
近隣にお住まいの方、ぜひあの世界観を体感してみてほしい。私のイチオシはソルロンタン定食。
🍅
メニューには、おいしくてたのしい情報がたっぷり詰まっている。メニューを眺めると、その店での食事がより幸福で満ち足りたものになるのだ。
一人で外食することが多くなったから、以前よりもメニューを眺める時間がさらに増えた。料理だけではなく、それぞれのメニューが持つおいしさを、これからも味わっていきたい。
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