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読書。"Nocturnes" by Kazuo Ishiguro

短編集。ノクターン、だから全て音楽に関係するお話。

Kazuo Ishiguroは、大好きな作家の一人。まだ読んでいない彼の作品は、これで”The Buried Giant (2015)”と"Klara and the Sun (2021)”の2冊を残すだけ。もったいなくて読めない、というのが正直なところ。英語で書かれているのに、戦後の日本の情景がこんなに鮮やかに思い浮かぶのはなぜだろうと思った作品がいくつかあったっけ。

一つの情景の細かな描写が息を呑むほど繊細で素晴らしく、どんなに長い段落でも飽きることがない。みるみるうちに、その情景にのみこまれて溶け込んでいく自分がいる。

短編集はほとんど読まないが、たまにはいいなぁと思った。ある日のスケジュールが細切れな時、ちょっと空いた30分に読める。疲れ果てた日の夜、ベッドに入って15分だけ読み、すーっと眠りにつく。短編だから、15分でも十分先に進む。

私たちの日々の生活は、情報にまみれて、隅々まで説明が行き届くような姿になっているし、そういう小説も多い。Ishiguroはそういう「隅々」、人の気持ちや理由を、説明しきらない。会話も、もう少しそこで突っ込んでほしいのに、と思うものが多い。そこに違和感というか消化不良を感じた時、私の想像力は動き始める。

想像力。言われたことだけしかできない人間は、言われなければやらない。自分で考えて「想像」して、次にこれが必要となるから今やっておこう、とか、外野で見ていて、こうした方がいいんじゃないかな、でも彼女が置かれている立場、状況を「想像」したら自分が思うほど簡単じゃないのかもしれない、とか考えられない人間が増えている。

これまでにないほどの多種多様な価値観が表に出てきた社会では、無意識のうちに、相手の気持ちを傷つけることもあるだろう。そこには、私たちに「想像力」があるかないかが大きく影響する。

想像力はどうやって養われるのだろう。読書、ではないかと友達と話していた。読書といっても、How to モノではない。ノンフィクションは、知識の補充になるから、知らないよりは知っていた方がいいわけだが、決め手はやはり小説だろう。世界のどこかで、いや、自分の近くにだって、想像もつかないような生活を送っている人がいる。そういう生活の中で、自分が感じたこともないようなことを感じ、考えたこともないようなことを考え、やったこともないようなことをやっている人がいるかもしれない。そんな情景が、小説の中で描かれている。

歴史小説もいい。テレビがなかった時代。車がなかった時代。人類は紀元前から戦い続けているわけだが、銃がなかった時代に、サテライトや無線がなかった時代にどうやって戦ったのか。そして、家族を残して戦地に向かった兵士たちの気持ちはどの時代でも同じ。

一見不要で無意味に見える、小説が創り出した世界に足を踏み入れることで、想像力はどこまでも広がっていく。その想像が正しかろうが間違っていようが関係ない。その想像は自分だけのものだから。

Kazuo Ishiguroの作品は、そんな想像力を刺激してくれる。



ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。