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25年のドイツ滞在を経て現在は札幌を拠点に活躍中のピアニスト“大平由美子”さん。

伝統のクラシックにジャズの可能性と新鮮さをプラス!音楽を味わい楽しむピアノニスト”大平由美子”さんにお話を伺いました。

大平由美子 Yumiko Ohiraさんプロフィール
出身地:北海道札幌市
経歴および活動:東京芸術大学附属高校を経て、同大学ピアノ科卒業。職業および活動:渡独して、ベルリン芸術大学ピアノ科卒業後20年間、同大学・舞台演奏科の講師を務める。ベルリンはじめドイツやヨーロッパ各地でソロ、室内楽、リート伴奏など多岐にわたる演奏活動を続け、音楽放送番組、音楽祭にも出演。この間、日本でも日本フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団などとの協演、リサイタル、室内楽などの演奏活動を行う。
2008年に帰国後、現在は札幌を拠点に活動。豊かで温か味のある音色、作品への深い解釈から生まれる格調高い演奏には定評がある。

”クオリティは落とさず敷居を下げて
親しみのあるクラシック”

記者:大平さんが思い描くこれからの夢・ビジョンを教えてください。

大平由美子さん:(以下、大平)クラシックは敷居が高いイメージがあるので、初めて聞く方にも親しみのあるものとして多くの方に音楽の楽しさを知って頂きたいと思っています。かといってクオリティは落とさず、純クラシックの大堂の素晴らしさも味わっていただけるよう、偏らず幅広い演奏を届けたいです。今後はバロック音楽とジャズを組み合わせた演奏もやってみたいと思っています。

”音と音の間、行間を読むような音楽”

記者:大平さんご自身はどんなピアニストでありたいと思いますか?

大平:1音、2音、の少ない音でも人の心に入り込むような音楽ができると思っています。俳句の様に、いかに少ない言葉で人の心に訴えかけるか。派手ではなく、音と音の間、行間を感じさせる音楽に魅かれますし、私自身もそういうシンプルな中に味わいがある音楽を目指していきたいと思っています。

”その場で生まれる偶然性の面白さと可能性の自由さ”

記者:その夢を実現するために、どのような目標や計画を立てていますか?

大平:昨年、友人に誘われ、在米40年で国際的に活躍されているジャズ・ギタリストの笹島明夫氏(札幌西高出身)のライブに感動したことがきっかけで、ジャズのアドリブのレッスンを受け始めました。4月には札幌コンサートホールKitaraでのクラシックコンサートで一部ジャズで笹島氏が共演してくださることになり、今からワクワクしております。
ジャズとの出会いは私にとってカルチャーショックでした。コード進行に沿えばいろんな弾き方が出来るんです。7つの音の中から無限の可能性を引き出すことが出来る。同じ音楽でもアプローチがこんなにも違うものなんだ!と、新しい自分の可能性を開発していくようでとにかく楽しいですね。
ジェットコースターみたいに、どこかに連れて行ってくれるワクワク感とちゃんとレールに戻って来れる安心感
そんなジャズの偶然性の面白さ、可能性の広さ自由さをクラシックの演奏にも取り入れていきたいと思っています。
何ヶ月も練習してきたものを、そのまま再現します、といった演奏ではなく、あたかもその場で生まれたかのような、一期一会の感情、感覚を表現できたら素敵だな〜と思います。

”映し鏡のように自分の演奏から自分を知る”

記者:その為にどのような事を日々意識して活動をされていますか?

大平:人生は全て出会いです。人だけではなく、見るもの、聞くもの、考え方や、自分の中で生まれる感情や新しい感覚・・・・など、日常に溢れている出会いをいかにオープンに感じとれるか。楽しんで取り込んで、自分の指針と混ざってどんどん複雑に彩られていきます。
人生から自分の音楽は影響されるし、音楽することによって人生がどういうものかを学ぶことができます。常に相互関係で成立っています。演奏には自分がそのまま表れます。良いところも悪いところも、映し鏡のように自分の演奏から自分を知ることになります。
時間をかけて寝かしたワインのようなものでしょうか。そういった日常の出会い全てを通過して今の自分ですから。いかに自分の音楽ができるかに興味があります。
譜面の音符は同じでも、どう解釈するかで演奏って凄く変わるんです。機械ではなく何故人間がやるのかというと、同じ楽譜でも音色、うた、テンポ感、フレーズ感、全て個々の解釈からでてくるもので、感性もそれによって創られます。

シューベルトの最後の遺作のソナタを10年に1回の節目でKitaraで 弾いてきたんですが、知らないうちにその曲に対する解釈が変わっていて、シューベルト生誕200年の時には初めての時とは随分解釈が違っていたんです。ほんとうに面白いですよ。自分の指針という軸はありつつ、新鮮な感覚、感性が増えて豊かになっていく感覚です。 

”絶えず音楽は歌でなければならない、という指針”

記者:大平さんが今に到るまでにどんな発見や出会いがありましたか?

大平:芸大時代、或る声楽の先生からシューベルト、シューマン、ブラームスなどのドイツ・リート(歌曲)の良い感性をもっているからドイツに留学したらリートの伴奏をいっぱいやりなさい、といわれて実際に沢山やったんです。
ドイツの世界的バリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ氏・のリート・セミナーのオーディションで選ばれて、直々にドイツ・リートの伴奏法を教えていただく事が出来ました。
それは、歌のように演奏する。ピアノから出てくる歌を表現するということでした。
「絶えず音楽は歌でなければならない」ということが、私の指針にもなりましたし、音楽をつくりあげていく上での土台となりました。
そして、「歌」と並んで「踊り」も重要な要素です。
バッハは舞曲が多くドイツでは実際に宮廷ダンスを見に行き、初めてバロックの舞曲に対するイメージが自分の中に芽生えました。ワルツもタンゴもブルースもみんな踊りですし、スイングも踊りたいという気持ちから自然に出てくるものだし、ジャズも民族音楽から発生したものです。
嬉しい時、悲しい時に歌いたい! 楽しいから踊りたい!そういう人間の普遍的な気持ちが音楽の原点なんです。

”失ってはっきり意識化されたピアノへの想い”

記者:ドイツから札幌に戻って来たきっかけは何だったんですか?

大平:2008年にドイツ人のパートナーを亡くしたことと、その直後に札幌でKitaraのリサイタルがあり、リサイタルを終えて帰宅後に階段から落ちて左手首を複雑骨折しそのまま入院。その後も身内でいろんなことがあったんですが、その間、いろんな方達の応援やご縁もあり、故郷の有難味をしみじみ感じ、だんだん札幌にこのまま居たいと思うようになりました。

骨折したその時に、やっぱり私は音楽をやっていきたい!ピアノが弾きたい!とはっきり意識しました。どんなことがあってもなんとか治してやりたいと思いました。懸命にリハビリを続け、二年後にKitaraのリサイタルに復帰できました。
もちろん、ドイツは音楽するには素晴らしい環境でしたが、ヨーロッパ人と日本人では文化も違いますし、もともとのDNAも違いますから、孤独を感じる事もありました。やっぱり日本人同志のほうが分かり合えるところはありますものね。今思えば札幌に帰ってくるようになっていたんだと思います。

”評価される生き方ではなく、表現する生き方へ”

記者:大平さんが音楽をやり続けてきた背景にはどんな想いがあるのでしょうか?

大平:技術は競争する為のものではなく、あくまでも自分がこういう風に弾きたい、伝えたいと想っている音楽を十分に表現するためのものです。技術が衰えたらそれを出せなくなるので、お料理のように、足したり引いたり、器を考えたりするように、常に磨き続けていくのですが、
どれだけ頑張っても世界一にはなれないし、超一流にもなれない人が音楽をやっていく意味って何なんだろう?って思うじゃないですか。

昔は上手く弾きたいと思って一生懸命技術を磨いていましたが、今は自分は何を伝えたいんだろう?ということを凄く考える様になりましたね。人に評価されることはあまり気にならなくなりました。オリンピック選手のように、順位をつけるという世界でもないし、何歳になったら辞めるというわけではない。ピアノとは一生の付き合いになるので、今後一層、音楽とどう向き合っていくかが大切だと思うんです。
言葉にすると大袈裟になりますが、そうではなくて、ただ、一ピアノ奏者として楽しみ味わいながら、自分の音楽を育んでいきたいです。

記者:常に音楽を通してご自身と対自されてるんですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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大平さんの活動、連絡についてはこちらから↓↓
●Facebook:https://www.facebook.com/yumiko.ohira.56

【編集後記】インタビューの記者を担当した清水&廣瀬です。

沢山の出会いの中で生まれるマイナスとプラスの感情を全てご自身の音楽の源泉に変え、周りの評価に惑わされず、自分の音楽をしなやかに自由に貫いていく生き方は人間のもつ普遍的な願いであり、自分が無限の可能性であることを表現したいという尊厳そのものだと感じました。
気さくなお人柄とお話しに、こちらがワクワクしてたまりませんでした。
多くの方にそのワクワク感を共有していただきたいと思います。
今後の更なるご活躍を楽しみにしています。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。

https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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