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介護業界の長年の重要課題「人材不足」に、どのように対応すれば良いのか?(後編)

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*****令和5年9月2日(土)第163号*****

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介護業界の長年の重要課題「人材不足」に、どのように対応すれば良いのか?(後編)
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 【前号・本紙第162号「介護業界の長年の重要課題『人材不足』に、どのように対応すれば良いのか?(前編)」から続く】

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「改善が見込まれると判断された人に対しては、しっかりとリハビリを施すべき……」
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 では、どのように「改善可能」性を見極めるべきか? 「寝たきり」の状態でも「改善可能」性はあるため、医師や看護師、リハビリスタッフなどの専門職によるアセスメント(=人やものごとを客観的に評価・分析すること)が必要だ。参考になる調査結果がある。

 作業療法士が、介護老人保健施設の重度要介護者に介入し、改善効果を示したデータがある。積極的なリハビリだけでなく、適切な移乗方法を実施したり、体に合った車椅子で正しい座位を保つようにしたり、食事の練習などをした事例がある。

 この結果「1年以内に自立すると見込まれる」ケースを示している。これはかなり高いハードルだと思うかもしれないが、食事については4人に1人が自立している。移乗や整容では、15%以上の人が自立している。

 まずはこのようなアセスメントを行い、ここで「改善が見込まれる」と判断された人に対しては、しっかりとリハビリを施すべきだ。

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結果的に、医療・介護事業者等が「リハビリに努めて改善すると、収益が下がってしまう」
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 一方で、現状(=厚労省の調査事業「通所リハの6ヶ月の介護度別状態の変化」より)ではどうか? 「要介護3~5」では、3割以上(33.9%)が改善している。しかし「改善すると、収益(単位数)が減少してしまう問題」がある。

 ここでは「要介護3~5」の人の3人に1人(33.9%)が改善し「要介護度1~2」の人でも、16.6%が改善している。この中で、最も多い「維持」の人たちをアセスメントし、改善すればよいのだが、ここで問題がある。

 そこには(リハビリを実施した医療・介護事業者等の)「収益が下がる」という事実がある。介護報酬(単位数)で「要介護5」は1,369、これが「要介護4」に改善すると1,206に下がり、「要介護3」になると1,039に下がることになる。

 (医療事業者や介護事業者等が)積極的にリハビリして「寝たきり」の状態の「要介護5」の人を何とか「座れる」ようにする。さらに食事の介助や嚥下訓練などで「要介護3」まで改善すると1,369から1,039まで、330ポイントも(介護報酬が)下がってしまう。

 さらに改善して、杖をついて歩けるようになれば、利用者にとって素晴らしいことだが、介護報酬は(要介護1~2の)897へ、さらに757まで下がってしまう。結果的に「リハビリに努めて改善すると、収益が下がってしまう」ことになる。

 なので、改善に向けた「スタッフ側の意欲」という面で課題を抱えている。なぜ、このような設定になっているのか? もともと介護保険制度がつくられたとき、介護量に応じて(介護報酬等の)ポイントが付与されるようになっていたからだろう。

 「要介護5」の人は、やはり手間がかかる。オムツ交換や寝返りの介助が必要であり、食事も介助しなければならない。そのため、介護の量に応じてポイントが付けられ、結果として現在のような状態になっている。

 つまり、介護保険の創設時には「利用者の状態が改善する」という発想が少なかったように思う。

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「要介護度を『維持』している人たちに対して、適切なアセスメントを行えば……」
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 (この事例をみてもわかるように、介護度が)重度であっても改善している。要介護度の軽度化は「月4万円程度の費用減」となるため、この方向性を推進する「仕掛け」が必要である。先ほどは通所リハビリについて紹介したが、要介護者全体の変化を見てみる。

 (同じく厚労省の調査事業で)1年間で「要介護5」の人が軽度化し「要介護4・3」になったのが8.3%。「要介護度4」からの軽度化は8.7%である=グラフ・「日慢協BLOG」より。緑色と黄色のラインマーカーは、弊紙による加工。割合は少ないが、全国の要介護状態の人々を対象にした場合には、かなりの数になるだろう。

 ここで指摘したいのは「維持」している人がいること。「維持」の人たちに対して、適切なアセスメントを行い「改善可能」な人に対してリハビリをすれば、軽度化する人がさらに増えるのではないか?

 ただ、先ほど指摘したように、1人あたりの費用が月29万2千円で「要介護度」が1つ改善するごとに(介護報酬が)4万円ずつ下がる、つまり月25万6千円が、21万6千円へと下がっていく。これでは「改善」に向けたインセンティブ(=動機付け)が働かない。
 
 リハビリを頑張って要介護度を「改善」し、患者さんも家族も喜ぶのは良いことだが、それによって「収益が下がってしまう」現状は(厚労省は)見直して欲しい。あるいは「改善」した場合の加算を設けるなど、何らかの形でインセンティブを与えて頂きたい。

 その原資としては「改善した」という事実が、原資であると考えるべきだ。要介護状態の変化(=厚労省の調査)を詳細に見てみると、驚かされる点がある。「要介護5」でも、要支援状態まで改善している人がいる。

 わずか0.1%だが、現実に存在する。「要支援1・2」は、歩行可能な状態である。もともと非常に深刻な状態(=「要介護5」)だった人たちが、現実に改善している事例が報告されている。

 例えば、骨折で「要介護5」になった人や、長い間寝たきりだった人が「歩けるようになった」というケースだろう。もっと努力すれば、少数ながらも(重度の要介護状態だった人が)改善する可能性がある。

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「寝たきりの期間、本当に起き上がれなくなる期間をできるだけ短くすることが求められる」
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 以上を踏まえ「介護のアウトカム評価案」を示す。1人でも多く、要介護や「寝たきり」を防ぐ仕組みを構築する必要がある。どのようにして、介護の「アウトカム」が評価できるか? 全員を一括して評価するのは、なかなか難しい。

 亡くなる可能性が高い高齢者や、さらに悪化するケースも多々ある。現在の評価を見ると、その人のQOL(=「生活の質」「生命の質」など)を向上させる取り組みは介護保険に反映されない。例えば、音楽を聴くこと、食事を楽しむこと、外出することなど──。

 それだけでも、QOLは大いに上がるかもしれないが、それは介護保険には関わってこない(=介護報酬には反映されない)。こうした中で、介護の「アウトカム」を出すのは非常に難しいが、やはり「アウトカム」を評価する必要がある。

 多職種を含む専門職によるアセスメントでグループ分けをして「改善」が可能か困難かを見極める。「改善」可能な人には積極的なリハビリを提供し、要介護度の軽減を目指す。その「アウトカム」を評価する。

 「要介護度が軽くなった結果として報酬は下がるが、その差額は加算に反映する」という方法もある。繰り返しになるが、介護保険の創設時には、このような考え方はあまりなかった。介護を必要とする人の状態は、単に「量」として測られていた。

 しかし「介護の質を向上させる」という視点から「アウトカム」評価による報酬を付けて1人でも多く「寝たきり」を減らしていく必要がある。それでも最終的には「寝たきり」になるかもしれないが、健康寿命と平均寿命のギャップを縮めていくことが重要である。

 現在「寝たきり」の期間は約7年から10年ある。このように長い間も「寝たきり」であることは、患者本人だけでなく、家族や私たち介護者にとってもつらいものがある。寝たきりの期間、本当に起き上がれなくなる期間を、できるだけ短くすることが求められる。

 それが半年や3ヶ月、さらに2ヶ月程度になれば最も良い。介護度の軽減を達成するための、新しいアプローチが必要である。

◇─[おわりに]───────────

 前編・後編の2回に渡った今回の記事は「介護業界の長年の重要課題『人材不足』に、どのように対応すれば良いのか?」とのタイトルでお届けしましたが、この課題に対し、これまで介護業界は「どのように介護人材を増やすか?」に主眼を置いていたと思います。

 弊紙が橋本会長の講演内容に着目したのは「今後、介護職員を増やすのは現実的に難しい。そうであるなら介護される側、特に『寝たきり』等の重度の要介護者の改善に、例えわずかであっても取り組むべきだ」との趣旨を主張された点です。

 「介護の人材不足」の問題では、求められる対策として第一に挙げられるのは「現場の介護職員の給与アップ」です。それは「最低限の条件」だと思いますが、これだけで課題が解決するとは、現状では考えられません。

 抽象的な表現になってしまいますが、介護に関わる方々が、それぞれの立場で「自分でできる努力を、一つひとつ積み重ねること」が、今後はさらに求められ、結果的にこれが「課題解決」に向けて大きく前進するキーワードになるのではないか──と感じました。

 今後も本紙では、今回のように様々な角度から「介護人材不足の解消」にアプローチしようとする考え方を、ご紹介して行こうと思います。結果的に、それが本紙の主な読者である、介護サービス利用者の「自立に向けた意欲」につながれば、幸いです。

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