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高齢者のデジタルデバイドの解消が「生きがいを持った人生を送ること」につながる……?

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*****令和4年6月29日(水)第146号*****

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高齢者のデジタルデバイドの解消が「生きがいを持った人生を送ること」につながる……?
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◇─[はじめに]─────────

 新型コロナの新規感染者数は現在、全国的に「下げ止まり」か、もしくは「再拡大」の兆候すらみられる状況になっています。そこで期待されているのは、重症化防止を目的とした、コロナワクチンの4回目接種です。

 コロナワクチンの接種は、最初の1回目と2回目の実施の際に、全国的に様々な「混乱」がみられました。特に本紙が、記憶に残っているのが、接種の予約をするために、高齢者の方々が早朝から、市役所等に行列をつくって並んでいた光景です。

 これは、多くの自治体が接種の予約方法を、電話かネットの2つしか用意しなかったため、ネットを利用できない高齢者が電話に頼り、その電話もほとんどつながらなかったため「無理を承知で、市役所等まで押しかけた」というのが主な理由でした。

 このことは本紙に限らず、ほとんどの人が「予測」できたことではないかと思います。結果的に市役所等は「臨時の窓口」を設けて、そこで直接予約を受け付けるか、対応した職員等が「ネット予約のお手伝い」をする等で対応しました。

 今や、わが国も「デジタル社会」を迎えていますが、なかなか「デジタル化」に対応するのが難しい高齢者は、どうすれば良いのか……? それが象徴的に、具体的な事例として表面化したのが、高齢者のワクチン接種の予約をめぐる「混乱」だったと思います。

 そして、政府・内閣府は6月14日、令和4年版「高齢社会白書」を公表しました。この「白書のまとめ」では「今後は、高齢者のデジタルデバイド解消に向けた支援等が重要となってくる」と指摘しています。

 「デジタルデバイド」とは、一言でいえば「情報格差」を意味しており、具体的には「インターネットやコンピューターを、使える人と使えない人との間に生じる格差」のことです。「白書」では「高齢者の、デジタルデバイド解消」を提言しています。

 さらに、政府や自治体等に「その解消に向けた支援の実施」も求めています。それらが必要な理由の一つとして「デジタルデバイドの解消が、高齢者が生きがいを持って満ち足りた人生を送ることにつながる」こと等を挙げています。

 本当に、そうなのか……? 確かに、高齢者のデジタルデバイドが解消されれば、コロナワクチンの予約もスムーズに行えるようになるかも知れません。しかし正直なところ、本紙ではこの「白書」の提言に「一抹の不安」も感じています。

 そこで今回は、この「白書」が「高齢者のデジタルデバイドの解消」について分析している内容を紹介した上で「おわりに」で、本紙が感じた「一抹の不安」を述べてみたいと思います。

 日本介護新聞発行人

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 【「高齢社会白書」とは?】

 高齢社会白書は、高齢社会対策基本法に基づき、平成8年から毎年、政府が国会に提出している年次報告書で、高齢化の状況や、政府が講じた高齢社会対策の実施の状況・高齢化の状況を考慮して講じようとする施策について、明らかにしているものです。

 令和4年版「高齢社会白書」は、第1章「高齢化の状況」、第2章「令和3年度・高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」、第3章「令和4年度・高齢社会対策」という3つの章から構成されています。

 今回、本紙は第1章「高齢化の状況」と、第2章「令和3年度・高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」の中の「(特集〉高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」に着目して、この内容を記事として取り上げました。

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高齢者の72.3%が「生きがい」を「十分感じている」(22.9%)「多少感じている」(49.4%)
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 今回の調査でまず、内閣府は「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」を、全国の60歳以上(令和3年11月1日現在)の男女を対象に実施しました。なお「白書」では、このうち65歳以上の男女の集計結果を紹介しています。

 調査方法は郵送で、調査期間は令和3年12月6日~12月24日まで。有効回答数は2,435件で、うち65歳以上は2,049件でした。有効回収率は60.9%となっています。調査ではまず「生きがい(喜びや楽しみ)を感じる程度」について、尋ねています。

 この結果、65歳以上の全体の回答で、生きがいを「十分感じている」が22.9%、「多少感じている」が49.4%で、合計すると72.3%となっています。これは、年代別・性別に分けてみても、どの階層もほぼ同じ結果を示しています。

 これを元に「白書」では以後、生きがいを「十分感じている」と回答した全体の22.9%の人が、各質問項目で「どのような回答傾向を示しているか」に主眼を置いて、回答内容を分析しています。

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総務省「インターネットを利用する高齢者は、増加傾向にある」
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 本紙が「白書」で最も着目したのは「高齢者の情報機器の利用について」尋ねた項目です。その結果として、次の4点を指摘しています。

 65歳以上の人の23.7%が「インターネットで情報を集めたり、ショッピングをする」と回答している。情報機器の利用内容を見ると「インターネットで情報を集めたり、ショッピングをする」(23.7%)が最も高い。

 一方「情報機器を使わない」と回答している人が17.0%となっており、中でも75歳以上の人は「情報機器を使わない」と回答した割合が、男性25.1%・女性29.8%と、65歳から74歳までの男性8.5%・女性7.5%と比べると高い。

 情報機器の利用内容別に「生きがいを感じる」程度を見ると、生きがいを「十分感じている」と回答した人の割合は「情報機器を使わない」と回答した人では10.3%である。

 これと比べて「パソコンの電子メールで家族・友人などと連絡をとる」「インターネットで情報を集めたり、ショッピングをする」「SNS(Facebook、Twitter、LINE、Instagramなど)を利用する」と回答した人は、3割を超えている。

 【総務省「インターネットを利用する高齢者は、増加傾向にある」】

 また「白書」では、総務省の「通信利用動向調査」の結果を紹介しており、ここでは「インターネットを利用する人が、増加傾向にある」そうです。具体的には、過去1年間に「インターネットを利用したことがあるか?」について調査した結果を公表しています。

 インターネットの利用者を年齢階級別に分けて、インターネットの利用率を令和2年(2020年)と10年前=平成22年(2010年)と比較すると、次のような結果となりました。なお[]内の数字が、10年前の割合になります。

 ▽20~29歳=98.5%[97.4%]
 ▽30~39歳=98.2%[95.1%]
 ▽40~49歳=97.2%[94.2%]
 ▽50~59歳=94.7%[86.6%]
 ▼60~69歳=82.7%[64.4%]
 ▼70~79歳=59.6%[39.2%]
 ▼80歳以上=25.6%[20.3%]

 この中で、最も伸び幅が大きかったのが「70~79歳」で、20.4ポイント増となっています。同様に「60~69歳」も18.3ポイント増となっています。さらに白書では「インターネットを利用したことがある」と回答した、65歳以上の高齢者の使用頻度も調査しています。

 これによると、55.9%が「毎日少なくとも1回は利用している」と回答しています。

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白書のまとめ「高齢者の、デジタルデバイド解消に向けた支援等が重要となってくる」
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 これらの分析結果を踏まえ「白書」では、次のように「まとめ」て、2つの点を指摘しています=画像・内閣府HPに掲載された「高齢社会白書」より。黄色のラインマーカーは、弊紙による加工

 今後も、一層の高齢化の進行が見込まれる中、高齢者が「生きがいを持って、満ち足りた人生を送る」ためには、身近な地域での居場所や役割、友人・仲間とのつながりを持つこと、デジタルデバイド解消に向けた支援等が重要となってくると考えられる。

 また、高齢者が、様々な就業や社会活動への参加の機会が得られるよう、環境整備を図るとともに、生涯にわたる健康づくりを推進していくことが重要である。

 さらに実際に、これら2つの指摘を実現するため、先進的な取り組みとして次の4つの事例を「トピックス」として紹介しています。

 ■【トピックス1=デジタルを活用し、高齢者と地域のつながりを生み出している事例】

 富山県朝日町は(株)博報堂と連携して、地域における高齢者の移動の課題を解決するため、住民の普段のマイカー移動の際に、自由に移動しづらい近所の高齢者を乗せる乗合サービス「ノッカル」の取り組みを、令和3年10月から本格実施している。

 利用者向けの予約システム、ドライバー向け運行管理システムを活用し、高齢者の移動支援が行われるとともに、世代を超えた交流も生まれている。

 ■【トピックス2=高齢者雇用の、推進の取り組み事例】

 (株)ノジマは、社会に貢献する経営を目指し、高齢者の雇用機会の創出のため、平成25年4月に定年を60歳から65歳へ引き上げ、令和2年7月に、定年後の再雇用年齢の上限を80歳に引き上げた。

 再雇用された高齢者が、同世代の客層の根強い支持を得るとともに、若い従業員の良き相談役となっている。

 ■【トピックス3=社会活動への、参加促進の取り組み事例】

 大阪市鶴見区では、定年退職後の高齢者の、地域での居場所づくりや社会活動への参加が課題となっており、それを促すため、平成30年4月、野菜を栽培し、地域の「こども食堂」等に無償で提供する「鶴見区シニアボランティアアグリ」が立ち上げられた。

 参加者は、収穫の達成感や地域貢献を通じた充実感を味わうとともに、子供からの感謝の声が、高齢者のモチベーションとなっている。

 ■【トピックス4=誰もが、健やかに暮らせる地域づくりの取り組み事例】

 奈良県川上村では、誰もが健やかに暮らせる村づくりを目指して、平成29年4月より移動販売の機会に「コミュニティナース」が同行し、地域の診療所等と連携して、早期診察や早期治療指導につなげる取り組みを開始している。

 また川上村では、健康体操を継続的に行う等の取り組みにより、低い介護保険料を実現した。

 ◇─[おわりに]─────────

 「白書」で述べられている内容は「その通り」ですが、本紙が「一抹の不安」を感じるのは、国の高齢者への施策が「デジタルデバイドの解消」に向けられ、それに「ついていけない」またはそれを「希望しない」高齢者が取り残されるのではないか、という点です。

 具体的には「はじめに」で述べた「ワクチンの接種予約をするために、早朝から市役所等に行列をつくって並んでいた高齢者」をどうするのか……という点です。この方々の多くは、それに「ついていけない」またはそれを「希望しない」方々になると思われます。

 このような方々には「アナログ的な対応」も必要だと考えられます。「デジタルデバイドが解消されて、生きがいを感じる」高齢者がいる一方で、まだまだ「アナログ的な対応」が必要な高齢者がいることも、政府には忘れないで施策を進めてもらいたいものです。

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