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書評「イチローの流儀」

お気に入りの本ほど書評を書くのが難しい。あれもこれも伝えたくなって、言葉にしてみると上手くまとまらず、結局何を書こうか悩み、書けない。そんな本が、自宅の本棚には何冊かあります。

そんな「書評が書けない」本の1つだったのが、「イチローの流儀」です。

辛い時、苦しい時、思うようには行かない時。僕は本棚から「イチローの流儀」を手にとりました。特に、僕が取り組んでいることが理解されなかったり、自分と周りとの意識の差に苦しんでいたり、次のステージになかなか進めなかった時期に、何度もこの本を手にとって読みました。

「イチローの流儀」のテーマは、ただ一つ。「イチローは、何を考えているのか。」について、です。

大記録達成の苦悩、スランプ脱出法、試合前の徹底した準備、オフの過ごし方、モチベーションの保ち方、ファンとの関わり方、プレーするときの感覚の保ち方、そして、逆境を楽しむ心。「イチローの流儀」には、長年イチローが繰り返し語ってきたことが、端的にまとめられています。

イチローに関する本はいくつも出ていますが、「イチローの流儀」と石田雄太さんの「イチロー・インタヴューズ」を読めば十分です。

膨大な時間をイチローに費やした小西さん

「イチローの流儀」の著者は、共同通信の記者を務め、長年に渡ってイチローを追いかけ続けてきた小西慶三さん。小西さんはオリックス時代だけでなく、マリナーズ、ヤンキース、マーリンズ、そして再びマリナーズとイチローを追いかけ続けました。そして、僕はNumberで小西さんが書くイチローのコラムを楽しみにしていました。

僕が記者会見で最も印象に残ったのは、小西さんの質問です。

これまで膨大な時間を野球に費やしてこられた。これからそういう膨大な時間とどう付き合うか。

Twitterでは平凡な質問だというコメントも見ましたが、僕はそうは思いませんでした。小西さんの記者としての質問というより、本心だったように感じたからです。

膨大な時間を、自分の人生の多くを、イチローに費やしてきた小西さん。僕はイチローより、むしろ小西さんにこそ、この質問の答えを聞きたいと思いました。小西さんこそ、どう膨大な時間と向き合うのか。まだ整理がついていなかったのだと思います。そのことが感じられました。

どんな豪速球や鋭く落ちる変化球も、言葉だけでは打てない。確固とした信念と行動がそれらのボールを打ち返す土台と技術をつくり、そこに至るまでのプロセスが人の心を打つ。行動と結果が伴うことで、言葉は初めて人を動かす力を持つ。言葉と行動は表裏一体だと、イチローを取り巻く人間関係が語っている。
「イチローの流儀」より

誰よりもイチローと向き合い続けた人は何を書くのか

イチローが引退した今だからこそ、小西さんには「イチローの流儀」の続編を書いて欲しいと思います。「イチローの流儀」の単行本版が発売されたのが2006年。当時と変わったところ、変わらないところ、それぞれあるはずです。

誰よりも、イチローと向き合い続けた人が何を書くのか。それは、イチローが何を語るのかと同じくらい興味があります。

「イチローの流儀」の続編を待ちつつ、改めて読み直したいと思います。


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