見出し画像

書評「なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか」-サウンドマーケティング戦略-

昨日Bリーグの川崎ブレイブサンダース対滋賀レイクスターズの試合を見ていて、とても気になったことがありました。

川崎ブレイブサンダースは2018-19年シーズンから、DeNAが運営することになりました。コートの上にビジョンが設置されるなど、目に見えるところだけでなく、様々な点が変更されました。

大きく変更された点の1つが「音楽」です。これまで攻撃時は「GO!GO!サンダース」という曲にあわせて、ブースターが手拍子と声援をおくっていたのが、16ビードの曲調に変わりました。

すると、興味深い現象が起こりました。川崎ブレイブサンダースが1Qでわずか6点しか挙げられなかったのです。

明らかにブースターは、新しい攻撃時の音楽に戸惑っていました。音楽はスチャダラパーが作ったのですが、手拍子を入れるタイミング、声を出すタイミングが明らかにいままでと異なるため、とどろきアリーナは満員なのに、どうも声援の量が小さいのです。僕はDaznで観戦していたのですが、ブースターの戸惑いが画面を通しても感じることができました。

リズムに乗れなかったのは、ブースターだけではありません。選手もリズムに乗れませんでした。

選手も普段使用している音楽のリズムに慣れているのだと思いますが、普段と違うリズムにあわせてプレーしているので、戸惑ったのだと思います。もちろん、1Qは滋賀レイクスターズが素晴らしいプレーを披露していたのも、6点しかあげられなかった要因です。

そうすると、興味深い事象が起こりました。2Qの途中からブースターが「川崎!」と自発的にコールし始めたのです。


「川崎!」コールは、昨シーズンもブースターから起こっていたコールなので馴染みのあるコールです。当然ブースターは慣れているので、大きな声援を送ります。選手もリズムや声援に慣れているので、いつものリズムでプレーし始め、次第に滋賀レイクスターズとの点差を縮めていきます。

そうなると、僕はますます音楽が気になります。

次の攻撃時に新しい音楽が鳴るのか、それとも「川崎!」コールでいくのか。もうプレーそっちのけです。

スポーツというのは面白いもので、気になりだすと、選手も、ブースターも、観客も気になるのだと思います。新しい音楽が鳴るとシュートが外れ、「川崎!」コールが起こるとシュートが入る。点差が開いたので、新しい音楽を鳴らそうとするとシュートが入らず、また「川崎!」コールに戻す。試合中こんなことが繰り返されていました。

「GO!GO!サンダース」だって、Bリーグ開幕当初は声援をおくるひとは少なかったので次第にブースターは慣れるのかもしれませんが、新しい曲はリズムが複雑で、声援をおくりずらい曲調です。そして、もし選手のプレーに影響したのであれば、音楽は見直されるのだろうなぁと思いながら、試合を見ていました。

ただ、音楽を作ったスチャダラパーは、悔しかったんじゃないかなぁと思います。自分たちが作った音楽より、明らかに自然発生的におくられた声援の方がアリーナの雰囲気を作っている。これはミュージシャンにとって悔しい出来事だと思います。

音楽を聴いたら商品が買いたくなる

なぜそんなことを考えたのかというと、ちょうど「なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか」-サウンドマーケティング戦略-という本を読んでいたからです。

デザインとマーケティングに関する本はたくさんありますが、音とマーケティングに関する本は読んだことがありません。どんな本なのか興味をもち、読んでみました。

古いドラマですが、「東京ラブストーリー」というドラマは、小田和正さんの「ラブストーリーは突然に」という曲のイントロで使われているギターのカッティング(佐橋佳幸によるカッティングです)が、場面転換で使われています。あのイントロがなければ、たぶん全く違うドラマになっていたと思います。

いきものがかりが注目を集めたのは、「SAKURA」という曲がWBCを放送する番組のCMで使われたことがきっかけでした。山下達郎さんは、三ツ矢サイダーのCMソングを作り、松任谷由実さんはJALのCMソングで「おきなわー」と歌っています。音楽で人の心を動かし、購買行動につなげるという取り組みは長年にわたって行われてきました。

音楽は人の想像力を呼び起こす力がある

音がマーケティングに使われるのはなぜか。それは、音によって想像力が広がるからです。山下達郎さんの「クリスマス・イブ」を聴けば、駅で恋人をまつ女性など、クリスマスの時期の光景が目に浮かびます。(例えが古いな)

人の脳は「穴の空いた虎の巻」を渡されると、穴を自分の想像力で埋めて、勝手に新たな虎の巻を作り出すのだそうです。音楽を聴いたら、昔の恋人との出来事を思い出して涙が出たり、辛かった日の思い出を思い出したり、嬉しかった出来事を思い出したりするのは、自分の想像力で勝手に新たな虎の巻を作っているからです。そんな力が音楽にはあります。

本書には具体的なテクニックについては書いてませんが、音楽がもたらす効用などを事例を交えて紹介しています。とても面白い書籍なので、ぜひ読んでみてください。


この記事が参加している募集

推薦図書

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます! サポートで得た収入は、書籍の購入や他の人へのサポート、次回の旅の費用に使わせて頂きます!