春~夏にかけて開催されるデザイン系の学会紹介

学会シーズン到来ー

5月~7月は大忙しになります。なぜならこの時期は学会が盛んに行われるからです。6月のスケジュールのうち、週末がほぼ学会で埋まってしまいました。でもいろいろな研究に出会えるのは楽しみなことでもあります。

ここでいう研究者とは、大学院生なども含んで“研究”に取り組む人という広義の研究者を指します。そして学会とは研究者が、これまで取り組んできた研究の成果を発表しあい、普段出会えない先生方や一般聴衆とディスカッションを行い、研究を互いに深め合う場でもあります。

今回の記事は、普段デザインイベントに参加されている方向けに、たまには学会にでも参加してみませんか?と紹介する記事です。

ただ学会とは「自分には縁遠そう」とか「研究と自分は別世界」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし実務家も自らの考えを深めるために参加する方も見られます。

また「あの本を書いたあの先生の最新の研究を聞く」という機会にもなるうえに、海外では学会で興味深い研究発表をしている学生を企業がリクルーティングする機会などにも用いられたりします(日本でも人工知能学会は学会の中で企業説明会を開催している場合も・・!)

個人的には、その研究者の最新の考えや研究を知る上では、学会(研究発表大会)への参加がおすすめです。最新の本が出版される頃には、思いついてから数年のタイムラグが生じているということも割とあります。

特に春~夏は、デザイン系の学会の多くが研究大会を開催しています。今年はリアル開催のところも多いので中々楽しみです。Designshipさんのデザインイベントカレンダーとは趣旨は異なりますが、今回はデザイン系の学会をいくつか紹介します。

ただし完全に網羅できている訳ではなく、またサービスデザイン出自なので、自分が参加したことある+サービスデザイン系の学会に絞って紹介していることをご了承くださいませ!

↓対実務家のデザインイベントカレンダー(Designshipさん)

①第70回日本デザイン学会春季研究発表大会(6月23-25日)@芝浦工業大学豊洲キャンパス

まずはデザイン系学会で最も歴史ある(設立は1953年であり、世界で比較しても特に歴史のある学会です)、日本デザイン学会の研究大会です。今年は「学びのデザイン」がテーマであるものの、サービスデザイン、建築デザイン、意匠、工学設計論、デザイン教育、デザイン理論など幅広い分野のデザインに関する研究発表が見られます。

1日目の23日は理事会やOPENSIG(公開型研究部会)などのワークショップが行われますが、2日目と3日目は口頭発表やポスター発表日であり、例年200件を超える研究者による研究発表を見ることができます。参加費は8000円(非会員)と割高ですが、デザインの最前線の議論を知ることができます。またこの6月24日-25日の土日には他のデザインイベントは開催されていないので、今年は是非学会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

②2023年度人工知能学会全国大会(6月6日-9日)@熊本城ホール+ オンライン

人工知能学会(JSAI)の研究発表大会は、今年は熊本+オンラインで開催予定です。リアル開催はなんとキャパシティ2000もある熊本城ホールで開催のようですが、熊本まで足を運べない方に向けたオンライン開催の準備もされています。特に企業展示も盛んで、前述の通り企業による就職説明会も学会の中で行われる場合もあります。自分も2年ほど前に人工知能学会で発表しましたが、合間に企業ブースを廻るのも中々楽しかったです。

ただ人工知能とデザインに何が関係あるのか?という話もありますが、特に人工知能学会はデザイナーの身体知に強い関心を持ってきた学会でもあり、今年も『知・情・意―AIが人間研究になるための枠組み』というオーガナイズドセッションの中に、「デザインする知恵の科学の方法論に関する考察」という題目(東工大・藤井晴行先生)が見られたりします。

また近年は生成型AIが産業でも注目を集めていますが、AIの産業での応用動向に関心を持つ方も興味深い発表に出会えるのではないかと思います。特に今年はAIと倫理に関するトピックの発表やセッションが見られるのも楽しみです。

③人間中心設計推進機構開催、2023年度春季HCD研究発表会(6月10日)@武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス

UIデザインやUXデザインであれば、この春季HCD研究発表会に参加するのもおすすめです。人間中心設計推進機構とは、いわゆる「HCD-Net」、すなわち「HCD-Net認定人間中心設計専門家」や「HCD-Net認定人間中心設計スペシャリスト」の資格を認定している機構であり、人間中心設計に関するセミナーやイベントを企画しています。そして大学院生や研究者による研究発表を目的とする学会(研究発表会)も開催しています。

研究発表の内容は「人間中心設計、ユーザビリティに関わる研究や事例、提案など」と募集をかけていますが、人間中心設計(HCD)の応用と実践に関するものであることが多く、これまで参加した感じでは、企業における開発事例や実践事例の報告なども見られ、特にデザインファームによるUXデザインの実践研究なども見られる印象です。

以下のキーワードに関心のある方、関連するお仕事をされている方は、最新の研究状況を知るべく、参加をご検討してみてはいかがでしょうか。

ユーザビリティ、人間中心設計、ユーザエクスペリエンス,サービスデザイン、情報アーキテクチャ、インタフェース、ユーザー調査、アクセシビリティ、評価ツール、理論、問題設定、適用領域、モデル、アプローチ、システム、サービス、デザイン、教育(コンピタンス)、マネジメント、研究手法、評価方法、評価結果、調査方法、調査結果など

https://www.hcdnet.org/research/event/entry-1994.html

ちなみに前回の記事でご紹介した「パーソンセンタードデザイン」についても、このHCD-Netが開催する研究発表会などで議論されてきた内容でした。

④第201回ヒューマンインタフェース学会研究会「未来のデザイン:新しいテクノロジーが人/社会の体験をどのように変えるか(SIG-UXSD-17)」(2023年06月20日)@東京工業大学デザイン工房+オンライン

こちらはサービスデザインにご関心のある方向けの学会となっております。ヒューマンインタフェース学会では、「ユーザエクスペリエンス及びサービスデザイン専門研究委員会(SIG-UXSD)」が組織されており、春と秋に2度開催される研究会では、サービスデザインの理論と実践に関する研究発表が盛んに行われています。

そういや自分が初めて学会にデビューしたのもこの研究会からでした(たしか学部4年生の頃だった気がします)。この学会はサービスデザイン研究者とサービスデザイナーの交流も盛んであり、自分が現職に就くきっかけになったといっても過言ではありません。

今回の研究会テーマは「未来のデザイン:新しいテクノロジーが人/社会の体験をどのように変えるか」だそうです。ただ実際はVRやAR、MRなどの発表だけでなく、ユーザーエクスペリエンスやサービスデザインに関する研究発表も見られる予定です。

近年のテクノロジーの進化により、人が体験する空間は現実世界にとどまらず、メタバースやVRなどの新しい空間、現実を拡張したARやMRなどの現実と融合された空間にも範囲を広げています。そして、それらの新しい空間は、人の、さらには社会の体験を劇的に変化させていくことになるでしょう。だからこそ、新しいテクノロジーで変化する人や社会の体験で、どのようなユーザエクスペリエンスやサービスデザインが求められるかを考えておくべきなのではないでしょうか。

第201回ヒューマンインタフェース学会研究会「未来のデザイン:新しいテクノロジーが人/社会の体験をどのように変えるか(SIG-UXSD-17)」
要項より

⑤第64回意匠学会大会(8月26日-28日)@大阪工業大学梅田キャンパス

意匠学会は日本デザイン学会に並んで1959年に設立され、国内におけるデザイン研究を牽引してきた歴史ある学会であり、特にデザイン史や文化史などの研究が豊富に行われてきた経緯があります。。以前は関西意匠学会と名づけられていたように、関西での活動が豊富です。個人的には色々な論文を読み漁ったファンな学会であるものの、上四点の学会と異なって大会に参加したことはなく・・。今後機会があったら本当に参加してみたい学会です。

https://jsd64th.jimdosite.com/

実務家向け学会参加のおすすめ参加方法

完全に個人の所感です。

ここまで書いてきて、学会をいくつか紹介されたとしても、行ったことのないところに足を運ぶのは中々勇気が要るものだよなぁと思いました。また学会に参加することでどういう利点が得られるのか、そもそも他のデザインイベントとはどのような違いがあるのかについても見えてこない方も多いんじゃないかと・・・。

個人的な感覚ですが、デザインイベントは「視野を広げる」場だなぁと感じています。例えば先日参加したFeatured Projectsは、様々な企業のデザイン実務家がどのような仕事をしているのかを知ることで、「デザインというものの視野を広げる」場として有益で、参加してよかったと考えています。また今月開催されるResearch Conferenceも、様々な実務家が登壇するわけなので、「社会におけるResearchの実践の広がりを知れる」点で楽しみです(ちなみにResearch Conferenceは当日スタッフしてます!)。

これらのデザインイベントに対し、私の中で学会は「議論を深めるための場」という違いがあると考えています。一般化はなかなかできないですが、学会における発表者(研究者)は、自らの研究を前進させていくための足りない視点を得るために参加している側面があります。そして聴衆全体でその発表の中身を検討し、この研究にはどういう可能性があるか、どういう点が足りていないか、どういうことが出来そうか?等を緻密に議論していきます。

この点、学会における聴衆は、口頭発表やポスター発表で登壇者の研究をより深めていくための議論の輪に参画していく(というか巻き込まれていく)ことになります。

ただ口頭発表で挙手をして参画するのは、どうしても恐れがあるのも理解できます(ポスター発表だとラフに質問できますけど)。それでも発表間の休憩時間などに登壇者に「ちょっとすみません!」とお声掛けして、思ったことや考えたことを伝えていただけると嬉しいものです(少なくとも僕はめちゃくちゃ嬉しいです)。

実務家という目線での率直な意見が、実は研究者にとって「盲点」だったり、新しい「研究課題」に結びつくことだってあるからです。その「率直な意見」を導き出すためにあれこれ思考を巡らせているうちに、自分自身も今まで到達出来なかった見識に到達してワクワクするということもよくあります。なので「質疑応答」というオフィシャルな場でなくとも、ぜひとも気になる研究があったら、思索を巡らし、休憩時間にお声がけする、発表者に感想メールを送るなどして議論の輪に加わってみることが、学会におけるおすすめの参加方法です。

また学会でいろいろ発表を聞いているうちに、自分のこれまでの実務経験と研究発表の内容が結びついて、実務家としての自分自身を説明するような概念と出会うという場面も多くあります。「自分が無意識的に実践していたものは、既に学術的には〇〇という言葉で定義されているんだ!」という新しい発見があったり。そうした新しい情報や知識との出会いも学会に参加する魅力だったりします。

おわりに

このように春から夏にかけて開催されるデザイン系の学会をいくつか紹介しました。実は秋から冬もデザインに関連する学会は多く開催されますし、春先に開催され、もう終わってしまっている学会もあります。年間カレンダーも作ってみたいと考えています。

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