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ものの見方を変えてくれた本

「春の連続投稿チャレンジ」3つ目は「わたしの本棚」というテーマである。
読書は私の人生の一部と言っても過言ではないので、こういうタイトルで書こうとすると非常に難しい。
自分にとっての究極の1冊は難しいし、おすすめ3選も何を勧めたらいいのか途方にくれるし、最近読んだ本となると、それよりもっと語りたい本がある気がしてしまう。

という優柔不断に陥りながら絞り出したのが、学生時代に読んだ本で、美術史ってこんなに面白いんだ!と教えてくれた1冊である。
それは高階秀爾著『日本美術を見る眼』である。

当時はイギリスのアートの大学に通っていて、専攻はファイン・アート。
美術史ではなく、実際に作品を作る側の学生であった。
日本の美大がどうか分からないが、私が通っていたイギリスの大学は、実技がほとんどで、1セメスターに1本エッセイ(日本で言えばレポート?)を書き、更にプラスで1教科くらい授業を取るというスタイルになっていた。
エッセイもきっちり決まったお題があるわけではなくて、自由がきくものであった。

どういったタイトルで書こうと思ったのかさっぱり覚えていないが、つたない英語をカバーするのには、日本美術という自分のバックグラウンドを活かしたエッセイを書くしかないと思い立ち、これまたどこで購入したのか、なんで選んだのかさっぱり覚えていないが、手に入れたのが『日本美術を見る眼』だったのだ。

それまでは日本画というジャンルも好きだったけれども、西洋絵画の方が圧倒されることが多かった。
色遣い、臨場感、迫力…どれをとっても、西洋絵画を見た後に日本画を見ると、なんとなくふわっとしていて印象が薄れる気がしていた。
浮世絵や屛風絵なども、デザインとしてかっこいいと思うけれども、アートとしては何をどう楽しんだら良いのかよく分からなかった。
つまりは、完全に西洋かぶれしていたというわけだ。

そんな私がイギリスという、ヨーロッパの地で『日本美術を見る眼』を読んだ時、これ以上にない衝撃を受けた。
まさに今まで日本美術を見る眼を持ち合わせていなかったというのを痛感させられた。
西洋絵画は透視図法によって現実を平面に写し取ってすごい、リアリティが出ているのは確実に西洋絵画だなとのんきに考えていた私にとって、高階秀爾氏が語る、日本人はそもそも平面を平面として捉えていた、平面という現実を受け容れて、その上で表現していたといった見解は、まさに目から鱗だったのだ。
日本で透視図法を使った作品が生まれなかったのは、何を現実ととらえるのか、そこから違ったのである。

それからは、梅を描いた絵はただの梅の絵ではなく、ゴッホが描いた絵はただのゴッホの絵ではなく、その後ろには彼ら/彼女らが育って来た文化・歴史・その時の流行、そういったありとあらゆるものが存在しているということに気付いていったのである。

美術を見る眼が変わると、ちょっと大げさに言うとものを見る眼も変ってくる。
例えば社会情勢一つとっても、各国・各人の文化的背景・歴史などが異なれば、捉え方はまったく変わってくる。それは当たり前といえば当り前だけれども、どうしても日常の中では自分のものさしを正として見てしまいがちである。
でも絵の中の空間のとらえ方がこんなにも千差万別であるのであれば、考え方も同じかそれ以上に様々であってしかるべきなのである。

この本を異国の地で、しかも色んな国の人が集まる地で読めて本当に良かったと思っている。
本を読むと日本美術を見たくなるので、すぐには見れないというもどかしさはあったけれども、本で学んだ文化の違いの面白さを、実際の生活のなかで発見することができたからだ。
そして日本の良さを再発見できたのも、異国の地でめげそうになった時に、日本人としての誇りを感じる糧となり良かった。

因みに、この本をきっかけに平面でどのように空間を構築していくのかに興味をもち、卒論は遠近法をテーマにし(もうちょっと絞ったけれど)、美術史の修士に進み、そこでも蘇州版画をベースにその中の遠近法を修士論文にした。
ということで、この本は私のものの見方を変えてくれた大事な一冊なのである。

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